03
サンライズは、口をへの字にむすんだまま店に向かう。
感応力は、どのくらいまで届くのかわからない。上は、彼らを使って人体実験を行うつもりなのだろう。先日の様子では、強い思念ならば二ブロック以上は届くということが判っていた。
店内に、彼はいた。
奥のテーブル席で今度はペンを手にして雑誌に向き合っていた。くだけた格好をして、隣の椅子にコートをかけたまま、時々珈琲に手を伸ばしている。
シブヤの姿はなかったが、ルイはウォークマンをしたままカウンターの隅の席に陣取っていた。
サンライズは街路からそっと、彼に指をふった。
(どうだ?)
ルイは軽くOKサイン、
(ムシを付けた)。
了解。シブヤは一足先に帰ったのだろう。
エリーの姿を確認してから、サンライズは元来た道を駅の方へ戻っていった。
三ブロックほどいったあたりで、借りて来たウォークマンを外し(アイドル系女子が大勢で楽しげに歌っていた)、そろそろと思念の触手をのばす。
雑駁な情報の中から、急にエリーの思念がきこえた。
やみくもに回したラジオチャンネルから、目的の番組を拾い当てたように、一時だけその強い音が耳に残った。
そっと頭のダイヤルを戻し、彼に近づけてからサンライズは心の中で叫ぶ。
「来い、エリー」
断片的な画像の情報をいくつか、フラッシュ。
そして後も見ずに駆け出した。
「エリーが気づいたぞ」
バックヤードでは、二人の追っかけ体制がすっかり整っていた。
春日と陳、特務でもデータ解析の得意なマヤラという男の三人は地図になったモニタを食い入るように見つめている。
「サンちゃん、タクシー拾った」
マヤラの報告に陳が首をかしげる。
「そこまでついて行けるのかな、エリー。一体どうやって追わせるんだろう。見えてないだろうに」
「近くまで行って『バカトロチンドンヤ、オマエのカーちゃんデベソ』って言ったんじゃね?」
春日は心配ごとが多い時ほど軽くなる口でそうほざいていた。
「サンちゃん、そういうこと上手そうだからさ」
春日はうすうす気づいてはいた。総務である程度の位置につくというのは、社内の諸事情を色々と知らねばならないことが多いのだ。
―― オマエががんばり過ぎるから、上がつけあがるんだ。何かと使えるヤツだと、すっかり頼られちまってんだろ? そして頼られると、断れない。
もっとラクに生きればいいのに。
「できません」って言や、いいんだよ。何でもかんでも引き受けちまう、馬鹿な男だ。
「エリーも、タクシー拾ったみたいだぞ。高速移動中」
マヤラはミランド組とシブヤ組にそれぞれ移動地を指示していた。
サンライズはまっすぐ、中華街を目指している。エリーの車も、ほぼ同じルートだった。かなり距離をあけているのに、同じ方向に進んでいる。
春日はぶるっと身震いした。
―― オマエの力は、そんなことまでできるのか。なんてヤツだ。