Episode1 主人公の威厳―保育士志望の何が悪い
どーも碓氷です
ギャグにならないギャグコメディーですが、どうぞお付き合いください
『高杉晋作』
それが彼の名である。
『龍狼高校最強の不良』
それが彼の代名詞である。
が、実は子供好きで、保育士を目指す努力家。
そんな彼も、今日から2年生だ。
始業式の朝
鳴り響いた目覚まし時計を叩き割り、高杉は目を覚ました。
制服に着替え、朝食をとり、玄関のドアを開けるといつもクラスメートの4人が立っている。
今日もそうだ。
「たーかすーぎくーん、あーそぼーぜよー」
無駄にテンションが高いこいつは、坂本龍馬。
メイドオタクで、常に猫耳をつけている変わった奴だ。
「おめー、学校に何しに行ってんだよ。ふざけた格好しやがって」
「もちろん、私に会うためよねー?」
割って入って来たのは、小柄な美少女・おりょう。
坂本の恋人で、メイドカフェでバイトしている。
「当たり前ぜよ〜」
「失せろ、バカップル」
「おはよう、高杉」
続いて声をかけたのは、木戸孝允だ。
「よぉ、木戸っち」
「高杉!!!木戸っちって呼ぶなっていつも言ってるだろ!!!!!」
木戸は『木戸っち』と呼ばれるのが嫌いなのだ。
が、可哀相なことに、ほぼ全員から木戸っちと呼ばれている。
「お、おはようございます……!!!!」
そして最後に声を発したのは、大柄な少年。
彼の名は西郷隆盛。
「よぉ、西郷」
高杉が軽く片手を挙げて挨拶を返す。
と、その途端。
「たたたた高杉さんが………ぼぼぼぼ僕の名前を………呼んだ……!!!!!もう僕は死んでもいい!!!!!!」
いきなり大声をあげて塀を叩きはじめた。
塀がミシッ、ミシッと音を立てて亀裂を生んでゆく。
「おい、西郷!!!!それ俺ん家の塀だから!!!!」
「二度も……!!!!!神様ぁ!!!!!!生きてて良かったぁ!!!!!!!」
実は、西郷は高杉の大ファンなのだ。
そして怪力の持ち主。
ちなみに言うと、見た目のわりに声は高い。
この4人は高杉のクラスメートである。
龍狼高校は、クラス替えがなく、3年間同じクラスなのだが、担任はその年によって変わる。
昨年度の担任の大塩平八郎先生は、転勤してしまったため、担任が変わることは明らかだ。
いつもと変わらぬメンバー。
問題児揃いの2年D組の中でも一際異色を放つ高杉晋作。
春の匂いがする教室で、高杉はいつもと違う窓の外に広がる景色をぼんやり眺めていた。
大塩先生は、自分を認めてくれていた。
自分の心の弱さを隠すために、見栄を張って金色に染めた髪でも
だらしない身嗜みでも
素直になれない自分を認めてくれた、初めての人間。
保育士という、自分とは不釣り合いでミスマッチな夢を諦めずにいれたのは、彼のおかげ。
彼に代わる教師などいるものか。
などとごちゃごちゃ考えているうちに、教室の扉が開いて、ひとりの男が入ってきた。
髪は長く、緩くパーマがかかっていて、ふわふわしている。
スラッとした細身の長身で、スーツをまるでホストのように着ている。
というか、もはやホストそのものだ。
彼は教壇に立つと、慣れた様子で周りを見渡しながら口を開いた。
「今日からこのクラスの担任になった、吉田松陰ですぱお☆しょうたんって呼んでくれると嬉しいぽよ☆」
「…………!!!!!?」
唖然とする生徒一同。
さらに最後のウインクでとどめを刺され
そして、クラス全員が叫んだ。
「こいつホントに教師ィィィ!!!!!!!?」
うーん、ギャグって難しい