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第七話 世界一醜いエルフ

「もしもし、若旦那様」

 嫉妬の波が押し寄せ、怒りの炎に包まれているアビーの耳に、妖精のように澄んだ綺麗な声が聞こえてきた。

「旦那様?」

 鈴を転がしたような美しい声に、アビーの怒りも一瞬遠のく。

「何だ?」

 アビーは声のする方を振り返る。

「!?……」

 美しい少女の姿を思い描いていたアビーは、声の主を見て絶句する。そこに立っているのは、背丈が一メートルくらいのずんぐりとした小太りの男。否、性別は定かではないがその顔は悪魔のように歪んでいる。ただし、悪魔と言うには迫力がなく、しいて言えばコウモリの顔を潰してもっと醜くしたような顔だった。

 アビーはしばし状況を忘れて、その人物に見入る。人かどうかも分からないのだが。

「旦那様、お薬を買って下さいませ」

 その物はくしゃくしゃの顔をもっとクシャっとさせ、アビーを見上げる。

「私のお薬で旦那様の望みは全て叶えてさしあげます。エヘッ」

 透き通った清らかな声で、それは小首を傾げて微笑む。

 その顔を見ていると、治まりかけていたアビーの怒りの炎が、またメラメラと燃え上がってきた。

「僕に姿を見せるな!! 向こうへ行け!!」

 アビーは拳を握りしめ、クルッと背を向ける。

「近づくと殴るぞ! お前は一体何者だ」

「旦那様、申し遅れました。私、リル・ビッケと申します。薬売りのエルフです」

「……エルフ?」

 背を向けたままアビーは言う。姿を見ず美声だけ聞いていると、不思議と怒りは治まってくる。

「お前は女なのか?」

「性別ですか? 私にもハッキリしたことは分かりません。エルフは女にも男にもなるものなんです」

「フン、そのエルフが何故薬などを売っているんだ? エルフなら金を稼ぐ必要などないだろ」

「旦那様、エルフにも色々あるんですよ。私は人間界で生活しておりますので、お金も必要なんです」

「本当にエルフなのか?」

「はい! お薬を見ていただければ普通の人間ではないことが分かります」

 リルはアビーの腕をさわり、正面にまわろうとする。

「触るな! お前が人間ではないってことくらい一目で分かる!」

 アビーはリルの腕を振り払う。

「旦那様、乱暴はおやめ下さい! 私、泣いてしまいます……エヘッ」

 リルは短く太い両手で頭を押さえ、チロリと舌を出す。

「……いいから、立ち去れ」

 小首を傾げて微笑んだリルを見ないようにして、アビーは呟く。

「それは出来ません。旦那様が私を呼び寄せたのですよ」

「僕が?……そんな覚えはない」

 アビーはこわごわとリルに目をやる。

「いいえ、私達エルフは人の心に呼び寄せられて現れるのです。旦那様には何か望みがおありですね? その望み、私の薬で叶えて差し上げます」

「望み?……何でも叶えられるのか?」

「はい」

 リルがまたくしゃくしゃと顔をほころばせるの見て、アビーは慌てて目をそむける。

───特によこしまな歪んだ望みによく効くんですよ。

 リルは微笑みながら心の中で思う。

「ふ〜ん……なら試しに使ってみるのもいいかな」

 アビーはリルが背負っている大きな布袋に目をやる。

「その袋の中の薬、全部買い取ってやろう」

「本当ですか!?」

「お前も一緒に買い取ってやってもいい。お前は僕のためにだけ薬を作って働け」 

「おぉ! 旦那様はたいしたお方です! 私が目を付けただけのことはあります」

 リルがまたアビーに触れようとして、アビーはその短く太い手を払いのける。

「ただし、僕には近づくな。半径一メートル以内に入ってくるな。それに、薬が本当に効くかどうかまだ確かめていない」

「良いですよ、旦那様。試しに何かお望みを言ってくださいませ」

 リルは大きな袋を地面に下ろすと、中から紙袋に包んだ薬を取り出す。

「う〜ん、そうだなぁ」

 アビーは草原の向こうに立っているジェナの方に目をやる。

「これを飲んで望みを心の中で三回唱えてくださいませ」

 アビーはリルが差し出した紙包を乱暴に受け取り、すぐに中の薬を口に含む。

「あっ、旦那様。それと───」

 リルが何か言う前にアビーは既に薬を飲み込み、目を瞑って何かを念じていた。




chocoさんから提供していただいたリル・ビッケの登場です。彼(彼女?)は、これからも活躍する予定です。(^^)

chocoさん、ありがとうございました!

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