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第七十七話 王家の秘密

 テーブルの上には、拳大の大きさの『黄金の木の実』、正確には『木の実の殻』が置かれている。ついさっき、使用人が家から探し出してきたものだ。使用人の祖父が発見したというその木の実は、『黄金』という輝きは既に失せて、焦げ茶色の見窄らしい石ころのようだった。

「これが『黄金の木の実』だって……?」

 ハンクは、まじまじと木の実を見つめる。ハンクが想像していたのは、光輝くような黄金色の木の実。世界中にたった一つしかないという木になる、世にも珍しい木の実だ。

「……これじゃ、まるで腐った石じゃねぇか」

 ハンクは幾分がっかりして、呟く。

「間違いなくこれが『黄金の木の実』なんですか?」

 ジェナも不安げに尋ねる。

「あぁ……爺さんは少々変わったところのある人だったそうだが、嘘をつくような人ではなかったよ。私が幼い頃に覚えている爺さんは、もうかなりの高齢だったが、木の実のことはいつも自慢していた」

「なんだか、今にもボロボロに崩れそうだよな」

「もう七十年にもなるからね。だが、昔はその名の通り『黄金』に輝く美しい『木の実』だったらしいよ」

「触ってもいいですか?」

 ジェナは使用人の了解を得て、そっと『黄金の木の実』を手にとった。椰子の実を小さくしたような木の実の殻は、ハンクが言うように今にも粉々に崩れてしまいそうだった。

「……今年は木の実はならないんだもの。今はこの木の実に頼るしかないわ」

 ジェナは朽ちた木の実をいたわるように、両手で包み込んだ。

「だよな。来年まで待てる訳もないし、待ったとしても木の実を見つけられるかどうかもわかんねぇんだ。この木の実で許してもらわねぇとな。後は、ジェナの熱い口づけと、王子様の兄弟姉妹の血だ」

「ハンク……」

 ハンクは軽い口調で言うが、ジェナは不安だった。エレック王子様に口づけするなど、そんな大それたこと、ジェナは想像するだけで失神しそうになる。それに、もう一つの条件は、かなり難しそうだ。

「……王子様と血の繋がったご兄弟か姉妹ですが、そういう方はいらっしゃるんでしょうか?」

 ジェナは恐る恐る使用人に聞いてみた。エレック王子の兄弟姉妹のことは、今まで聞いたこともなかった。

「それは……」

 ジェナの問に、使用人は困った表情で口をつぐんだ。

「どこかに王様の隠し子とかいねぇのかな? ほら、王の愛人とか」

 ハンクは面白そうに言う。

「王様にはご側室もおられないよ。ただ……」

 使用人は言いよどみ、ためらいがちに口をつぐんだ。

「ただ? 何だよ、何か知ってることあるのか?」

「どんなことでも良いです。教えて下さい!」

 ジェナは身を乗り出し、すがるような目で使用人を見つめる。

「……今まで公には伝えられていないことなんだが……」

 使用人は意を決し、話しを続ける。

「エレック王子様には七つ年の離れた弟君がおられたのだよ」

「えっ! エレック王子様に弟君が?」

 ジェナは驚きの声をあげる。エレック王子の他にも王子様いたという話は、今まで耳にしたこともなかった。

「お名前は、グラント様といわれた。公には、グラント王子様は生まれて間もなく亡くなられたということになっているが……」

 使用人は顔をくもらせ、視線を落とす。

「実は、グラント王子様は大鷲にさらわれてしまったのだよ」

「大鷲に……?」

「あぁ、城の兵士達は懸命に探したが、ついに王子様の行方は分からなかった……」

 使用人は顔を上げ、ジェナを見る。

「あの、『白薔薇の言い伝え』だ……さっきは君達に言わなかったが、エレック王子様が言われたラークホープローズにまつわる悲しいお話とは、グラント王子様のことなんだよ。王子様は私が話したあの迷信を信じて、グラント王子様をこっそりとお連れだしになった。王子様は弟君のために、十字架に願いをかけようとした。だが……グラント王子様は、空から舞い降りてきた大鷲にさらわれてしまったんだ」

 使用人は深くため息をつく。

「……エレック王子様にあの迷信を伝えたのはこの私……私にも大きな責任がある」

「そのグラント王子様は、生きているかどうかも分からないんですね?」

「あぁ、未だに行方は分からなかったのだが……少し気になることがある」

 使用人は言葉を切って、ハンクに目を移す。

「赤ん坊だったグラント王子様は、首に『バラの十字架』をかけられておられた。君が海で見つけたチェスも、首に『バラの十字架』をかけていたと言ったね?」

「そうさ」

「近くに大鷲はいなかったか?」

「大鷲……?」

 ハンクはあの時の記憶をたどる。舟釣りをしていた時、広い海を漂い船に寄ってきた赤ん坊。魚は釣れなくて舟で居眠りをしていた。その時大鷲の姿は見なかったが、遠くで鳥があらそっているような鳴き声を聞いたような気がした。

「まさか、チェスが……!?」

 考え込んでいるハンクの横で、ジェナはハッとして息を飲み込む。

「確かなことは分からないが、ラークホープ国では代々王家の子息がお生まれになった時、『バラの十字架』を授ける習わしになっているのだよ。十字架の裏には、お名前が彫られているはずだ。もし、チェスの十字架に『グラント』とお名前が彫られていたとしたら──」

「……俺、ずっとあの十字架見てきたけど、そんな名前気付かなかったぜ」

 ハンクは動揺を隠すように素っ気なく答えた。チェスがこの国の王子だなんて、信じられない。

「もう一度ちゃんと確かめて! だって、もしかしたらチェスはエレック王子様の──」

 その時、ドアをノックする音が聞こえ、部屋の前で見張りをしていた兵士の手によって、扉がゆっくりと開かれた。

「エレック王子様に白薔薇を持って来たよ」

 皆の視線の先には、顔が隠れんばかりの白い薔薇の花束を抱えて、笑顔のチェスが立っていた。 





読んで下さってありがとうございます!

薔薇園の使用人さん、最初はちょい役のつもりだったんですが、いつの間にかかなり重要な役所になってました。^^;

名前もつけてあげれば良かったと、今更ながら思います。

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