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第七十二話 後悔

──白い薔薇……ラークホープローズの香り……。

 エレック王子は、ベッドの中で寝返りをうつ。枕元には、今日も白い薔薇が生けられている。その香りとは別に、開け放たれた窓からも、薔薇園の薔薇の香りが仄かに漂ってくる。

──白い薔薇……百本の白い薔薇を集めて、十字架を太陽の光にかざせば幸運がおとずれる。信じていたのです。幼い私は、生まれたばかりのお前がたくさんの幸運に恵まれるようにと……。

 エレックは苦しそうに顔をしかめる。

──誰にも告げず、お前を連れて塔の上に昇りました。そして、心地よさそうに眠るお前の頭上で、十字架を太陽に向けて祈りました。青い空、白い薔薇に包まれた穏やかで平和な日。まさか、あんなことが起きるとは……。

 青い空に突然現れた大きな黒い陰。十字架の光を求めるかのように、それはまっしぐらに空から降りてきた。光が消え、あたりに暗闇がたちこめたように空が真っ暗になる。

──一瞬にしてあれはお前に襲いかかり、お前をさらって行ってしまった。

 王子の悲鳴。大きな羽音。一瞬の出来事の後には、何事もなかったかのように静寂がおとずれる。そこには百本の白い薔薇とからの揺りかごが揺れているだけだった。

 まどろみの中で、エレック王子は呻く。

──許して下さい──。

 王子が誰かの名を呼ぼうとした時、突然、部屋の中の薔薇の香りが消え、不気味な風が巻きおこる。まだ昼間だが、光が消えあたりは暗闇となる。

──何かが来る!

 エレック王子は、邪悪な気配を感じ取る。しかし、体は動かず、目を開けることも出来ない。



「さあ、もう着きましたよ。たやすいことです」

 風の中からラームが現れる。ラームは長いマントを広げると、中につかまっていたリルとアビーを押し出す。

「彼は眠っているようですね」

 ラームはベッドの中のエレック王子に目を向け、フッと小さく笑う。

「どうやら良い夢ではなさそうです。随分と苦しんでいるようですよ」

 ラームは静かにエレック王子の元に近づいていく。リルとアビーもその後に続いた。

「なにしろ、随分長い間眠ったままでございますからね。『呪い魔法』の威力はさすがですね、エヘ」

 リルは小首を傾げて笑った。

「今、楽にしてあげますよ」

「どうやって殺すんだ?」

 アビーは様子を見ながら、ゴクリと唾を飲み込む。エレックがいなくなれば良いとは思うが、殺しの現場を目撃することに怖じ気づいていた。

「簡単なことです。私が魔法の言葉を唱えるだけで、直ぐに心地よい眠りの中に落ちていきますよ。苦しむことはありません。ただし」

 ラームは言葉を切り、エレック王子を見つめて微笑む。

「永遠の眠りになりますが」

 眠るエレック王子の体の上に、そっと手をかざしたラームは、ゆっくりと呪文を唱え始める。不気味な静寂の中に低くラームの声だけが響く。リルとアビーも息をひそめて立ちつくしていた。

「……?」

 ふと、ラームの呪文の声が途切れた。

「おや、邪魔が入ったようですね……」

 耳をそばだてるラームのもとに、激しく扉を叩く音が聞こえてきた。

「誰でしょうか? こんな時に」

「ほうっておきなさい。このまま続けます」

 扉のほうへ行こうとしたリルにラームは言う。呪文が再び唱え始められると、もう一度扉が叩かれ、それと同時に勢いよく扉が開けられた。




 

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