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第五十七話 赤い砂漠

「見て! 砂漠が真っ赤だよ!」

 森の端に辿り着いたチェスは、木々の合間から見える砂漠を指さした。チェスの指の先には、赤茶色の滑らかな砂丘が、夕日を浴びてより一層赤く輝いていた。

「だから赤い砂漠って訳か。砂漠が燃えてるみたいだな」

 ハンクは眩しそうに目を細めて、遠く広がる砂漠を眺めた。赤い海のような砂漠は、どこまでも果てしなく続いているように見える。

「そろそろ日暮れだし、一晩休んでから進むとするか」

『何を言ってる。砂漠の道は夜のうちに進まなくてはならない。灼熱の砂漠を横切ることなど、出来るはずはない』

 馬を下りようとしたハンクに、ユニコーンは鋭く言った。

「けど俺達、今日は朝からほとんど休みなく森を歩いて来たんだぜ。一眠りしなけりゃ元気になんねぇよ」

『それならば、森の中でもう一日待つことだな。昼間の砂漠を進むということは、死を選択するようなものだ』

「せっかく一日で『迷いの森』を抜けられたんだもの。時間を無駄には出来ないわ……」

 ジェナは額の汗を手で拭い、軽く息を吐いた。日暮れ近くとは言え、『赤い砂漠』から照りつけてくる太陽の日差しはきつい。

「少しだけ休んで、日が沈んだら出発しましょう」

「お前、大丈夫なのか? なんかえらく疲れてるみたいだけど」

 ハンクはチラリとジェナの顔に目をやる。いつもの元気なジェナとは違い、顔色も悪くやつれて見えた。

「大丈夫。暑さに慣れてないだけよ」

 ジェナはハンクに笑顔を向ける。故郷のラークホープでは、一年中季候が穏やかで、冬の寒さも夏の暑さも今まで経験したことがない。今までの旅の疲れにつけ、この砂漠の暑さが、ジェナにはかなり堪えていた。

『真っ直ぐに進んで行けば、途中で広いオアシスがある。ちょうど一晩でたどり着ける距離だろう、そこで休むと良い』

 ユニコーンが静かに言うと、チェスは目を輝かせる。

「ペガサスがいるかもしれないオアシスだね」

『そうだ。運が良ければ彼らに出会えるだろう』

「今度こそ、運良くペガサスに会いてぇな。ユニコーンじゃなく」

 ハンクはニヤリと笑って、ユニコーンを見る。

「そしたら、ラークホープまで一っ飛びだ。チェスのバラの十字架の運に期待してるぜ」

「僕も願ってみるよ」

 チェスは首にかけている十字架を触って微笑む。

『運良く今夜は砂嵐は吹かないようだ。月明かりの道を進めるだろう』

 ペガサスはそう言うと、口をつり上げて笑うようにいなないた。



 陽は西の空に沈み、赤い砂漠はその色を消した。月の光に照らされたモノクロの砂漠は、終わりがないかのように、果てしなく前に続く。

 ジェナとハンクとチェスは、馬の背に揺られながら、ゆっくりと砂漠を進んで行った。太陽が照っていた時とはうって変わって、気温は一気に下がり、砂漠を渡る風は刺すように冷たい。

「うぅ、寒いな。夏から急に冬になったみてえだ」

 ハンクは、ブルブルッと体を震わせる。

「暑さより寒さにやられそうだ」

「僕も砂漠がこんなに寒いって知らなかった。でも、夜の砂漠って綺麗だね」

 チェスは目の前に広がる、静まりかえった砂漠を眺める。人家や人の姿もなく、木々や草花さえ生えていない。時々吹いてくる風が、小さく砂を巻き上げる音以外、何も聞こえない静寂の世界だった。

 その中で、砂漠の海の小さな砂粒達は、夜空の星のように微かに瞬いている。

「本当に綺麗ね……」

 チェスの後で、ジェナもうっとりと砂漠を見つめた。

「ジェナ、大丈夫? 夕食もほとんど食べてなかったね」

 チェスは後をふり返り、心配そうにジェナを見る。

「平気よ、少し疲れただけだから。温度が下がって、だいぶ楽になってきたわ」

「今度は下がり過ぎて、風邪を引きそうだけどな」

 ハンクはそう言って、チェスとジェナの乗った馬の横に並んだ。ジェナは大丈夫だと言うが、『迷いの森』を抜けた辺りから、ジェナの顔色は悪く元気がない。厚めの上着を着ているが、寒さで震えているようにも見えた。

「そんなに寒いのかよ?」

「ちょっとね。暑さも苦手だけど寒いのも苦手なの、でも」

 ジェナはクスッと笑うと、前に座っているチェスを後から抱きしめた。

「こうしてると温かいわ」

「僕も温かいや、ちょっとくすぐったいけどね」

 チェスは笑う。

「小さな弟たちをよく抱いていたから。子供って温かいのよね」

「いいよな、子供は」

 ハンクは、ふざけあうジェナとチェスを横目で見る。

「なんなら、俺の後に乗ってもいいんだぜ。ギュッと強く抱きしめていいからな」

「チェスでいいわ。柔らかくて気持ち良いから」

「あ、そ」

 ジェナはチェスを抱きしめたまま目を瞑った。チェスとハンクの前では笑顔でいられる。だが、体中が鉛のように重くてだるかった。チェスの体の温もりを感じていても、寒くて寒くて体が震える。

──頑張らなきゃ……。この砂漠を越えたら、ラークホープもすぐそこ。もうすぐ故郷に帰れるわ。そしたら、エレック王子様に会える。

 砂漠の冷たい風を体に受けながら、ジェナは思った。 





今年初めての投稿です。

来月からはもう少し更新を早く出来ると思います。一気に書き上げたいですね〜(^^) 頑張ります!

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