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第五十四話 森に消えた青年

「白い馬! あれはもしかしたら……」

 ジェナは目を輝かせて、湖から上がってくる白馬を見つめた。水に濡れたたてがみが、小さな飛沫をまき散らせてなびく。

「チェス! ペガサスだ! こんなに早く見つかるとは、『眼鏡橋』の願いがさっそくかなったか!」

 ハンクは馬の手綱をグイグイと引いて、白馬に近づいていく。

「ペガサス?……」

 先に湖岸に到着したチェスは、湖から上がって来た白馬を見つめる。それは、純白の美しい馬。チェスが拾ったペガサスの羽と同じ色をしている。白馬はチラリとチェスに視線を向けると、ブルブルッと大きく身を震わせた。

「冷てぇ!」

 水しぶきが辺りに飛び散り、チェスとハンクの頭上から雨のように降ってきた。二人ともアッという間にずぶ濡れだ。その姿を見て、それはヒヒィンと、笑うようにいなないた。その顔は、実際に笑っているようにも見えた。

「待って、この馬は……」

 少し遅れて来たお陰で、ずぶ濡れになることを免れたジェナは、まじまじと馬を見つめる。

「ペガサスじゃないかも。羽がないわ」

「はぁ?」

 顔に散った水しぶきを手で拭いながら、ハンクは馬を観察する。

「なんだ、ただの白馬かよ。期待させやがって」

「けど、彼には角があるよ。普通の白馬じゃないみたい」

 濡れた体を拭いもせず、チェスはニッコリと笑って馬を見上げた。

「角? 角の生えた馬?」

 ジェナが白馬の頭を見ると、確かにそこには一本の尖った角が真っ直ぐに生えていた。

「こんな馬初めて見たわ」

 生まれて初めて目にする角の生えた馬の姿に、ジェナは目を丸くした。

「彼はペガサスじゃなくて、一角獣、ユニコーンだよ。」

「ユニコーン?……」

 静かに三人を見下ろしていた白馬は、もう一度ヒヒィンとといななくと、口をつり上げるようにして開け、白い歯を覗かせた。

「ユニコーンだろうと、角があろうがあるまいが、どうでも良いじゃねぇか」

 ハンクは肩をすくめる。

「ペガサスじゃないんだし、羽のない馬なんかただの馬と変わりない──」

 そこまで言ったハンクは、突然ユニコーンに鋭い鼻息をかけられ、口を閉じる。

『ただの馬だと? 私がただの馬に見えるかね?』

「……」

 馬の口から聞こえてきたのは、いななきではなく人間の言葉だった。低くハッキリとした人間の男の声。馬が喋るという異常事態に、三人は唖然とする。

「あなたは喋れるの?……もしかして、魔法をかけられたのかしら?」

 恐る恐る問いかけるジェナの言葉に、ユニコーンは人間の声で笑った。

『お嬢ちゃん、私は魔法をかけられた王子様ではない。元々人間の言葉を話せるのだよ。この森に住む喋るユニコーンだ』

「喋るユニコーン!? スゴイ! ペガサスと同じくらいスゴイよ」

 チェスは顔をほころばせ、素直に喜ぶ。

「ま、そうだけど……あんたは空を飛べねぇだろ?」

 ハンクは横目でユニコーンを見る。

『空を飛ぶ必要がないのでね』

一角獣は顔を振って答えた。

『しかし、私は『迷いの森』のことなら何でも知っている。私に会えてお前達は幸運だ。森の抜け道を教えてやってもいいのだよ』

「抜け道なら、ネイルがいるから大丈夫さ。な?」

 ハンクは後にネイルがいるものと思い、振り返って同意を求めた。だが、ジェナとチェス、馬二頭以外、そこには誰もいなかった。

「ん? 彼奴はどこだ?」

「さっきまで側にいたのよ。ネイルさん、どこに行ったのかしら……」

 ジェナとチェスもキョロキョロと辺りを見回すが、ネイルの姿はどこにも見あたらなかった。

「ネイルは、『彼奴』の助けを借りるといいって言ってたよ。その『彼奴』っていうのが、あなたのことだったんだね」

 チェスは、鋭い角をかざし悠然と立つユニコーンを見上げる。

「ネイルはあなたがいることを知っていたんだ」

 ユニコーンは目を細め、チェスの方に首を下げる。

『なかなか賢い坊やだな。お前達になら道案内をしてやってもいい。私は出会った人間全てに案内をしてやるとは限らないのだよ。教えるのは気に入った人間だけだ』

 ユニコーンはそう言うと、また笑うようにいなないた。

「ありがとう」

 チェスは、ユニコーンの豊かな白いたてがみをそっと撫でた。

「ネイルさんは先に行っちゃったのかしら?」

 ジェナは湖の奥に続く深い森に目をやり、声を落として言った。

「黙って行ってしまうなんて……」

 旅に別れは付き物。だが、ジェナは、突然いなくなってしまったネイルのことを寂しく思う。

「案外、この近くにいるのかもしれないぜ」

 寂しそうに肩を落とすジェナに、ハンクが言った。

「え?」

「彼奴、本当にこの森に住んでるのかもな」

 ハンクは微笑むと、ネイルの消えた森を見渡した。深く繁った森の木々は、湖から吹く風に静かに揺れていた。





 後書き書き忘れていました…^^; 今回一角獣が登場しますが、これは篠田一郎さんに提供していただいたキャラです。実は一角獣と呼ばれた人間でしたが、勝手に一角獣に変更しました。名前も書き忘れていたので、次回紹介したいと思います。すみません! これで、提供していただいたキャラを全て登場させることが出来ました。少しホッとしています。皆さん、ありがとうございました。ストーリーはまだまだ続く予定です。 

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