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第四十九話 孤独な傭兵

 ──ラークホープって言ったらジェナの故郷……これから俺達が向かう村だけど、シェリンは何で手紙なんか? それに誰宛に出すつもりだ? ジェナか? それともエレック王子か?

「シェリンは何を投げてきたの?」

 ボールを見つめ、あれこれ考えを巡らせていたハンクにジェナは聞く。

「え? あぁ、このボール」

 ハンクは我に返り、片手でボールを二、三度投げ上げる。

「あ、それ……昨日シェリンが一輪車の芸で使っていたわ」

 ジェナは小さな緑色のボールを見て言う。昨夜何度も練習し、失敗ばかりしていた。ジェナが見る限り、結局一度も成功しなかったようだ。

「シェリンはボールを使うの諦めたのかしら?」

 昨夜はあれきりシェリンと別れたが、彼女がもう一度会いに来たことが、ジェナは嬉しかった。

「お別れにシェリンがプレゼントしてくれたんだね」

 チェスはゆっくりと手綱を引いて、ハンクの方へ近寄る。

「プレゼントなら、もっとましな物くれりゃいいのにな……」

 ハンクは投げ上げしていたボールを掴むと、ズボンのポケットの中にしまう。ボールに書かれていた文字のことは秘密にしておいた。

「えっと、次に行く街はどこだっけ?」

 ハンクは話題を変え、軽く馬の背蹴る。

「次は……ヨークという街よ」

 手書きの地図を見ながらジェナが言う。

「でも、ヨークはまだまだ先みたい。それまでに『迷いの森』や『赤い砂漠』が続いているわ」

「『迷いの森』に『赤い砂漠』か、なんだか行く手は険しそうだな」

「そうね、ヨークまでは、人家もあまりないみたい。それを越えたらヨークの街の次はラークホープだから」

 ジェナは地図の先にラークホープの名前を見つけてホッとする。そのラークホープまでには、長く続く森と砂漠が記されているのだが。

「本当にペガサスが見つかるといいな、チェス。羽の生えた馬なら森も砂漠も一っ飛びだ」

 ハンクは横に並んだチェスに言う。

「眼鏡橋の願いはきっと叶うから大丈夫だよ」

 チェスは明るく笑って馬を走らせる。水の都ランスの街を出た先は、再び広く殺風景な草原が果てしなく続いていた。その向こうには、『迷いの森』と呼ばれる森が続いているらしい。三人を乗せた二頭の馬は、目の前に広がる草原の道を前進して行った。


 昼近くになり、ようやく草原の彼方に『迷いの森』の一部が姿を現してきた。遠目でも、その木々の茂り具合からして、かなり深い森であるかとが分かった。三人は森の手前で馬をとめる。

「森の中で一夜を明かすのは、避けた方が良いみたいね」

 ジェナは前方に広がる森の方へ目を向ける。

「森を抜けるのにどれくらいかかると思う?」

 ハンクは、人が立ち入ることさえ拒絶しているような、静まりかえった森を見つめる。

「うーん……早朝に入れば日が暮れないうちに森を抜けられるんじゃないかしら?」

 ジェナは首を傾げる。遠くから眺めるだけでは、その広さは計り知れない。

「それじゃ、今夜は『迷いの森』の手前で野宿だね」

「その考えは賢明だな」

 チェスの言葉に返事をするように、突然男の声がした。

「だが、『迷いの森』を半日で抜けることは不可能だ。森の中で一晩過ごす覚悟はしておいた方が良い」

 驚く三人の目の前に、突然ネイルが現れる。ランスで出会った片腕のない男。ネイルは紺色の髪をなびかせ、眼帯をしてない方の目で上目遣いに三人を見つめる。

「ネイル、いつの間に?」

 鮮やかな紺色の髪を見つめ、ハンクは聞いた。

「俺は昨日からゆっくりと徒歩で歩いて来たのさ」

「あなたもヨークに向かっているの?」

「いや、俺は『迷いの森』を途中で抜ける」

 ネイルは低い声で呟く。

「もしかして、あの森に住んでいるのか?……」

 不気味な雰囲気の漂うネイルなら、あり得る話しだとハンクは思う。ネイルはくぐもった声でククッと笑う。

「そうかもな」

「それなら心強いね。ネイルも途中まで一緒に行けるんだ」

 チェスは素直に解釈し、屈託なく笑った。

「フッ……森を恐れることはない。『森』は生きている。通る人の心を読みとってしまうから、怖じ気づいていると必ず迷うぞ」

「『迷いの森』って言うくらいだから、迷う人間も多いんだろうな」と、ハンク。

「そうだ。だが、森の中には様々な生き物が生きている。たまにそれらが道案内をしてくれることもあるだろう」

「森の生き物? 『ペガサス』もいる?」

「さぁ、どうかな……」

 チェスは懐から白い羽を取り出すと、ネイルに見せる。

「この羽、『ペガサス』の羽だと思う?」

「……」

 ネイルは羽をチェスから受け取り、日の光に羽をかざしながらじっと見つめる。

「……間違いない。これは『ペガサス』の羽だ」

 そう呟き、彼は軽くため息をついた。

「本当に! ネイルはペガサスを見たことがあるの?」

 チェスは顔を輝かせ、身を乗り出してネイルを見つめる。

「あぁ、何度か……俺が傭兵として戦っていた地には、昔ペガサスがよく現れていたらしい。だが、度重なる戦争でペガサスの姿もなくなってしまったがな」

 ネイルは白い羽をいじりながら、目を伏せる。

「ペガサスは『幸福』を求める生き物だ……」

 ネイルは深いため息を一つつく。  




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