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第四十四話 旅の道連れ

 ゆるやかに流れる川のほとりに、数台の幌馬車が止まっている。岸辺には人々が集まっていた。川で顔を洗ったり、岸で火を起こし食事の準備をしている人々もいる。

 ジェナ達は、彼らのすぐ近くまで馬を進めた。

「あっ、昨日のナイフ投げの人だ!」

 チェスは、ちょうど馬車から降りてきた青年に気付く。

「ナイフ投げ!」

 ハンクは思わず叫ぶ。昨日の恐怖が、また、じわじわと思い出されてくる。

「やあ、おはよう。昨夜のお客さん達だね」

 彼は爽やかな笑顔を向ける。

「君達も旅の途中かね?」

「はい、ランスに向かっているところです」

 ジェナは馬の上から答える。

「ほう、それじゃ行き先が同じだな。どうだね、ランスまでは遠い。一緒に行動しないか?」

 青年は、馬から下りるジェナに手を貸してやりながら言った。

「やだよ。俺達は先を急いでいるんだ。それに、あいつと一緒なんて」

 旅芸人一座と一緒ということは、シェリンも一緒だと言うことだ。

「僕は一緒に行きたい」

 チェスは、勢いをつけて馬から飛び降りた。

「またショーが見たいから。僕も大道芸の手伝いがしたいな」

「そうね、チェスは歌が上手いから、セント・ベリーの時みたいに歌わせてもらったらいいんじゃないかしら?」

「ほう、歌い手か。後で団長に相談してみよう」

「まだ、決めた訳じゃねぇよ」

 既に乗り気の青年をハンクは冷たい目で見る。だが、チェスもジェナも、もう心に決めてしまったようだ。

「私も、何かお手伝いをさせてもらいます。雑用なら出来ると思います」

「ジェナ、早く出発しようぜ」

 ハンクは馬に乗ったまま言う。

「一緒に行動した方が利口だと思うよ。夜はテントを張って寝泊まり出来る。宿代も節約出来ると思うがね」

「……宿代か……」

 青年の言葉に、ハンクの心が少し揺れる。と、近くに止まっていた馬車の中から、突然シェリンが現れた。

「ただでは泊める訳にはいかないわよ。 あんたも何かしてもらうからね!」

 どうやら、さっきまでの会話を聞いていたらしい。シェリンはツカツカとハンクの元まで歩いて来た。

「……ナイフ投げの的だけはこりごりだからな」

 ハンクは馬上から念を押す。シェリンはクスクスと笑った。

「あら、あたしは、また見てみたいけど」

 ハンクは横目でシェリンを睨みながら、馬を下りる。

「馬を繋いだら、取り敢えず朝食の準備を手伝ってもらおうか。食べ終えたら、ランスに向かって出発だ」

 ナイフ投げの青年は微笑んでそう言った。

「俺達はさっき軽く食べてきたけどな」

 ハンクはふと川の方へ目をやり、川釣りをしている男達に気付いた。

「ここ、釣れるのか?」

 釣り好きのハンクは、釣り人を見ると釣りがしたくてウズウズしてくる。もう半分体は釣り人達の方へと向いていた。

「結構、釣れるみたいだよ。あんたは釣りが出来るの?」

 シェリンはハンクをジロリと見ながら聞く。

「当たり前だろ。俺は物心ついた頃から魚釣りの名人だって言われてるんだ」

「本当に?」

 シェリンは疑り深い目でハンクを見る。

「だったら、試して来てやる!」

 ハンクは言うが早いか、釣りをしている人々の方へと歩いていく。

「待ちなさい! あたしだって、釣りは得意なんだから」

 シェリンはハンクの後を追って走る。

「どうやら釣り名人が二人に増えたみたいだな」

 青年は二人の後ろ姿を見ながら笑った。

「君達にはそれぞれ特技があるようだし、皆歓迎すると思うよ」

「ありがとうございます」

 ジェナは微笑む。三人で行く旅より、大勢で行く方が心強い。少しの間だが、険しい旅の道のりが楽しくさえ思えてくる。



 川辺での食事の後、ジェナ達と旅芸人一座はランスへ向かって出発した。ジェナ達も広い幌馬車の中に乗せてもらい、久しぶりに馬から離れることが出来た。

 ランスまでの道のりは遠い。遥かに続く地平線へ向かい、単調な旅が続いた。どこまでも続く草原。人家さえない真っ直ぐな道をひたすら進んでいった。日暮れ近くになっても、ランスには到着出来ず、その日は広い草原にテントを張って野宿することになった。

「ジェナ、ハンクがボタンをつけてくれないかって」

 食事を終え、すっかり日の暮れた後、火の周りを囲んで座っていたジェナの元に、チェスがやってくる。

「上手くつけられなかったみたいだよ」

 チェスは、ボタンがダラリと下がっている上着をジェナに手渡す。

「分かったわ。洋服を縫ったり繕ったりするのは慣れてるから。家でもしょっちゅう弟たちの服を繕ってたの」

 ジェナはハンクの上着を手にとって微笑む。

「良かった、ハンクも喜ぶよ」

「きっと、シェリンと一緒に夢中になって魚釣りをしたせいね」

 ジェナは取れかけのボタンを見てクスッと笑う。二人は長いこと魚釣りをしていた。

「でも、今日は一日二人の釣った魚をたくさん食べられたわ」

「二人で競争してたから、すごく多かったよね。一座のみんなも驚いていたもの」

「それで、どっちが競争に勝ったの?」

「一匹の差でハンクが勝ったんだって。ハンクものすごく喜んでいたよ」

 ジェナとチェスは顔を見合わせて笑う。

「旅芸人の人達と一緒で良かったね。僕達三人だけで野宿しなきゃならなかったよ。大勢だと楽しいし安心だ」

「そうね。シェリンと出会えたのは幸運だったわ」

「バラの十字架のお陰だね」

 チェスはそっと胸元の十字架を押さえる。

「それと、もう一つ幸運のシンボルを見つけたんだよ」

「幸運のシンボル?」

「うん。ハッキリ分からないけど、エーデンの湖でペガサスの羽を見つけたんだ」

 チェスは懐から白い羽を取り出し、ジェナに見せる。

「これがペガサスの羽? 綺麗ね」

 白い羽を広げて空を飛ぶ美しいペガサス。ジェナは、真っ白な羽をうっとりと見つめる。

「団長さん達にも見せて、ペガサスの羽かどうか聞いてくるね」

 チェスはそう言って立ち上がり、いくつか並んだテントの一つの方へ歩いていった。

「ペガサスの羽……」

 ジェナは赤々と燃える炎を見つめながら呟く。

「チェスのバラの十字架のように、私達に幸運をもたらしてくれたらいいな。いつかどこかでペガサスに出会って、空を飛べたら……」

 ゆらゆらと揺れる炎の中に、ジェナはエレック王子の顔を思い描く。エレック王子に会いたい、エレックへの思いは日に日に強くなっていた。

「ペガサスがいれば、すぐにエレック様の元に飛んでいけるのに……」

 ジェナは膝に顔を埋め、ほーとため息をつく。揺らめく赤い炎は眠気を誘い、ジェナはそっと瞳を閉じる。





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