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第四十一話 少年のような少女

「どうしたの!?」

 悲鳴を聞きつけて、ジェナが慌てて走って来た。その後から、チェスも馬をひいて走って来る。少女の大きな悲鳴の余韻が、まだ湖畔に小さく木霊していた。

「何があったの?」

 ジェナは岩場に突っ立っているハンクに聞く。

「……や、何も」

 ハンクは頭をかきながら、湖に肩まで浸っている少女の方へ目を向ける。

「湖で泳ごうとしたら、先客がいて、それが男かと思ったら女で──」

「早く向こうへ行きなさいよ! スケベ! 痴漢!」

 しどろもどろになって話すハンクに向かって、湖から少女が怒鳴る。

「よくも私の裸を見たわね!」

「裸?……」

 ジェナはきょとんとしてハンクを見つめる。

「だから、わざとじゃねぇよ。こんなとこで泳いでいるなんて知らなかったんだよ。だいたい、無防備すぎるじゃねぇか、女が一人で裸で泳ぐなんて」

「早く、行けったら! スケベやろう!」

「見たくて見た訳じゃねぇからな! なんだよあんな胸、男と変わらないじゃないか」

「何だって!」

 裸でなければ、少女は今にも湖から上がってきてハンクに殴りかかってきそうな勢いだった。

「ハンク、あの子が着替えなきゃいけないから、向こうに行ってなさいよ。チェスも」

「分かったよ」

 ジェナに言われ、ハンクは舌打ちすると、チェスと一緒に岩場を離れていった。


 二人の姿が見えなくなった後、湖に浸かっていた少女は岸辺まで泳いで来た。まだ怒りで顔を真っ赤にしている。

「あの、あなたも旅の途中?」

 短いズボンと、レースのついた白いブラウスを着終えた少女に、ジェナは尋ねる。短い髪に華奢な体つきの少女は、一見すると少年に見えた。ハンクが少年に間違えたのも頷ける。

「何? ジロジロ見ないで」

 少女は、濡れた髪をかきあげながらチラリとジェナを見る。

「あ、ごめんなさい。私たちは旅の途中なの。これからエーデンに向かうところよ。あなたも旅の途中?」

「あたしは旅してる訳じゃない」

 微笑みかけるジェナに、少女は素っ気なく答える。

「エーデンに住んでるの?」

「違う。今、立ち寄っているだけよ」

「立ち寄ってる? 旅じゃないの?」

「あたしは、仕事で立ち寄ってるの。遊びの旅じゃないわ」

 少女は冷たく言い放つ。

「そう……でも、私たちも遊びの旅じゃないの」

「へぇ、遊んでるようにしか見えなかったけど」

「あの、私はジェナ、あなたの名前は?」

「あたしとあんた達は他人よ。名前なんて言う必要ないでしょ」

「あ、ごめんなさい」

「いちいち謝らないで!」

「ごめん──」

 また謝ろうとしたジェナは口元を押さえる。少女はその様子を見て、フッと小さく笑う。

「ま、良いわ名前くらい教えても。あたしは、シェリン・ココピ。こう見えても十六才の女だから」

「そうなの? 私も十六よ。名前はジェナ」

 ジェナは微笑む。シェリンは、女らしい体型のジェナをじっと見つめる。

「胸、邪魔にならない?」

「え?」

 シェリンは、ジェナのふくよかな胸を人差し指で示す。

「ううん、別に……」

 ジェナは胸元を両手で覆い、ほんのりと頬を染める。

「そう? なんだか重たそうに見えたから」

 シェリンはツンとすまし、ジェナの胸から視線を外す。

「あの、エーデンに行くのなら、私たちと一緒に馬に乗って行かない?」

「え? いいよ。あたしはもう帰らなきゃなんないし、あんた達は湖で泳いでいくんでしょ」

「あ、それなら、私たちもすぐに出発するわ。エーデンまでもう少しだし」

「いいったら。あたし、一人で行動する方が好きなの」

 シェリンはそう言うと、歩いて行こうとする。

「エーデンで、また会えるかもしれないわね」

 ジェナは、シェリンの背中に向かって声をかける。シェリンは急に立ち止まると、くるりと振り返った。

「あんたの連れは何て名前?」

「え? あぁ、ハンクとチェスのこと?」

「あたしの裸を見た方よ」

「あ、ハンク……」

 シェリンは口の端を上げて微笑み、また後を向いて足早に歩いて行った。



 シェリンが去って行った後、ハンクとチェスは心おきなく湖で水浴びをした。澄み渡った水は気持ち良く、疲れた体を癒してくれる。

「ジェナも泳げばいいのに」

「ダメだよ。ジェナは女の子だから」

「まあな。また悲鳴を上げられると困るよな」

 ハンクは笑う。

「女って面倒くせぇなぁ」

 ハンクはゆらゆらと仰向けになり、湖面に浮かんだ。

「僕、向こう岸まで泳いでくるね」

 そう言うとチェスは湖をスイスイと泳ぎ、反対側の岸辺までたどり着く。見知らぬ少女とは出会えたが、ペガサスの姿は発見出来なかった。いつか、旅の途中でペガサスに出会えるだろうか? チェスが岸辺に上がろうと手を伸ばした時、岸辺に何か白いものが落ちているのが見えた。

「ん?……」

 チェスは、そっと手を伸ばして拾い上げる。それは、真っ白な鳥の羽だった。

「羽? もしかしてペガサスの羽かな?」

 手にとって羽をじっくりと見てみる。ペガサスの羽のようであり、水鳥の羽のようでもあった。真っ白な羽は、水に濡れてキラキラと光りを帯びている。

「ペガサスに会えますように……」

 チェスはそっと羽を握りしめて、羽に願いをかける。胸元のバラの十字架も水に濡れ、木漏れ日を浴びてキラキラと光っていた。 





今回、ようやくkariさん提供キャラ、シェリン・ココピちゃんの登場です! kariさんありがとうございました。

イメージが違ってたかもしれませんが…^^;、これからもまだ登場予定です。

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