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第三十六話 旅立ち前夜

「ハンク、どうしたの!」

 ドロシーのアパートに戻って来たジェナは、ソファの上に縄で体をぐるぐる巻きにされたハンクの姿を見て驚く。

「大丈夫? 何があったの?」

 ジェナは心配しながら、ハンクの元にかけより縄に手をかけた。

「あっ、触んなよ。今訓練中なんだ」

 ハンクは体を動かしてジェナの手を払う。

「縄抜けの練習なんだって」

 隣りに座っていたチェスは答える。

「そうさ……縄抜けくらい出来なきゃな」

 ハンクは身をよじって縄をほどこうとするが、なかなか思い通りには縄が抜けない。もうかれこれ三十分くらい縄と格闘していた。

「おかしいね、ハンク。ジェフリーなら直ぐに抜けられるのに」

「彼奴はプロだからさ……フー、疲れた」

 縄にまかれたままの状態で、ハンクはソファにゴロンと横たわる。

「ジェフリーを呼んでこようか?」

「いいって……それより、ジェナ、『黄金の木の実』の話は聞けたのか?」

 モゾモゾと体を動かしながらハンクは聞く。

「ええ、ガリーラさんという方に『黄金の木の実』の場所は聞けたわ」

「ホント? 良かったね! じゃあ、僕達いよいよ出発出来るんだね」

 チェスは顔をほころばせてジェナを見上げる。

「で、どこなんだよ?」とハンク。

「それが……」

 ジェナは肩をすくめると俯く。

「ノースロックという高い山の頂上に生えているらしくて……」

「ノースロック? 聞いたこともない山だな。一体どこにあるんだ?」

「場所はね……ラークホープから北に真っ直ぐ進んだ先のノースアイランドという島らしいわ」

「ラークホープって、お前の住んでるとこじゃねぇか!」

 ハンクは驚きの声を上げる。

「そう、その遥か北の海らしいの。でも、私も今まで聞いたこともない島よ」

「なんだ……まだラークホープからの方が近かったんだな。そのラークホープに戻ることさえ大変なのに」

「そうね……」

 ジェナは手を弄びながら、ため息をつく。

「ラークホープに戻るのにも一月近くかかるわ……」

「でも、良かったよジェナ、場所が分かったんだから。それに、僕、ジェナの住んでいるラークホープに行って見たかったから」

 沈んだ顔をしたジェナに、チェスは明るく笑って言う。

「あのなぁ、チェス。遊びに行くんじゃねぇんだからな」

 ハンクは身を起こし、まだモゾモゾと体をねじって縄と格闘する。

「分かってるよ。ジェナの大切な人を助けるためだよね」

 ジェナは顔を上げると、チェスを見て微笑む。

「そう……『黄金の木の実』の在処が分かっただけでも幸運だったのよね。何としてでも木の実を探し出さなきゃ」

 弱気になりかけた心を立て直すように、ジェナは言った。

「明日には出発出来そう? 僕はいつだって出発出来るよ」

 チェスは今からでも旅に出たい気分だった。

「私も旅の準備は出来てるわ。ドロシーさんが旅の服と食料馬も用意してくれたから」

「いよいよ出発だね。なんかワクワクするなぁ」

「でも、私、馬に乗ったことがないのよ。あなた達は乗れる?」

「ううん、僕も乗ったことない。ハンクは?」

 チェスは首を横に振り、ハンクに目をやる。

「俺もないけど……馬なんて乗りゃいいだけだ。どうにかなるだろ」

「……そうね」

 ジェナは少しばかり不安を抱きながらも微笑む。

「エレック王子様は、乗馬が得意だったわ。白馬に乗られた王子様は絵のように美しくて……」

 ジェナの頭の中に王子の姿が浮かび、うっとりと瞳を閉じる。

「また、王子様か……俺が乗ると王子よりカッコイイさ──」

 空想の世界に浸りきっているジェナを、ハンクはあきれ顔で見つめる。

「チェス、ジェフリーを呼んできてくれ……縄がきつすぎて息も出来ない……」

いくら身をよじってもほどけない縄に、ハンクはとうとう観念した。



「この縄はな、下手に動くと余計にきつくなるよう出来てるんだ」

 ジェフリーは、ハンクの縄を器用にほどきながら薄く笑う。

「もがけばもがくほど苦しんで、そのうちくたばっちまうという訳さ」

「それを先に言っとけよ……」

 ようやく身動きが出来るようになったハンクは、大きく深呼吸する。

「もう少しで殺されるとこだった」

「お前にはまだ無理だったな」

 縄をほどき終えたジェフリーは、側で見ていたジェナとチェスに目を向ける。

「やっぱり、三人だけで旅に出すのは不安だ……俺が付いていってやればいいんだが」

「大丈夫だよ。この縄抜けは出来なかったけど、この前のは出来たじゃねぇか。俺、ドロシーにもロープ投げの仕方教えて貰ったんだぜ」

 ジェフリーはハンクの言うことには耳を貸さず、軽く息を吐いた。

「今ならまだ考え直せるぞ。ジェナ、旅を中止するわけにはいかないか?」

「いいえ、私、一人でも旅に出る覚悟ですから」

 ジェナはキッパリと答える。ジェナに、もう迷いはなかった。

「なかなか頑固なお嬢ちゃんだ」

「僕のバラの十字架がきっと守ってくれるから、心配いらないよ。これは幸運の十字架なんだ」

 チェスは胸元の十字架を握りしめ、ジェフリーを見て微笑んだ。

「幸運か……ま、『幸運』の力が大きく左右する旅になることは、間違いなさそうだな」

 一人心配するジェフリーは、低く呟いた。





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