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第三十一話 決意

「あの、私、ワインは飲めません……」

 ジェナは、目の前のグラスにワインが注がれるのを見て言った。ひとまずお祭りを抜け、ハンクとチェスはジェナを連れて、ドロシーとフィルがいる居酒屋に来ていた。五人はテーブルを囲み、食事を楽しんでいる。

「じゃ、俺にくれよ」

 ジェナの前に座っていたハンクは、手を伸ばしてグラスを取ろうとする。

「ダメ、ダメ。あんたは調子にのって飲み過ぎるから」

 ドロシーはハンクより先にグラスを取り、そのままワインを口に含んだ。

「フフ、それにしても可愛いお嬢ちゃんね。純粋で無垢でまだ何にも知りませんって感じだね。何歳なの?」

 ワイングラスを片手に、ドロシーはジェナに目をやる。

「十六です」

 ジェナはポッと頬を染めて答える。居酒屋に入ることも初めてのジェナは、酒を飲みかわす人々の間にいるだけでも酔ってしまいそうだった。

「恋人はいる?」

「いいえ……」

 ジェナは首を振って俯いた。赤らんだ頬が一層染まっていく。

「そう? あたしが十六の時はもう恋人が何人もいたけど」

「ドロシーは特別なんだよ」

 微笑むドロシーにハンクは言う。

「今の君の恋人は僕一人だろうね?」

 ドロシーの隣りに座っているフィルは、少し心配気な顔をする。

「多分ね」

 ドロシーはクスッと笑う。

「あんたみたいな純情な子が、一人でこんな街にいるなんて危なっかしいよ。悪い男にひっかからないよう気を付けな」

「あ、はい……」

「良い男もいることを忘れてはいけないよ」

 フィルはきちんと整えた髪をなでつけながら、ジェナに言う。

「なんか一番危ない男って感じだけどな」

 ハンクはフィルに目を向けて笑う。

「それで、あんたは何でこの街に来た訳?」

 ワイングラスをテーブルに置き、ドロシーはジェナを見つめる。

「ジェナは悪い化け物に魔法をかけられて、ここに飛ばされて来たんだって。ラーク・ホープっていう国の王子様にかけられた魔法を解くために、これから旅に出るらしいよ」

 チェスは、居酒屋へ来るまでにジェナから聞いた話をドロシー達に話した。

「ラーク・ホープか。そう言えば、旅の男がそういう話しをしていたな。王子が眠りから覚めない魔法をかけられたと言っていた」

「エレック王子様です」

 フィルの話を聞き、俯いていたジェナはサッと顔を上げる。

「魔法を解く方法は聞き出しました。私、どんなことがあろうと、必ずエレック王子様の魔法を解いてみせます。私は王子様を助けたいんです」

 さっきまでのおどおどした表情は消え、ジェナはキッパリと言い切った。

「そう?」

 ドロシーは少し驚いてジェナの横顔を見つめる。

「あんたは、よっぽどその王子様のことが好きなんだね」

「えっ?……あ、いえ、はい……」

 ジェナはどぎまぎしながら答え、湯気が出そうなほど顔を染めた。その様子を見て、ドロシーは面白そうに笑う。

「あたしも、そのエレック王子様に会ってみたいね」

「あの、ぜひ、お会いになって下さい。エレック王子様は素敵な方ですから……」

 ジェナは頬を赤らめ、夢見るようにうっとりと言った。

「うわ、やめといた方がいいぜ。王子様、ドロシーに襲われちまう」

「何だって?」

 ドロシーはハンクをギロリと睨む。

「俺もいつ襲われるか分からねぇから冷や冷やしてんだ。あ、でもちょっと襲われてみたい気もするけどなぁ」

 ハンクは頭をかきながらハハハと笑った。

「え?……」

 ジェナはキョトンとした顔をする。

「まぁ、君には私という良い男がついているんだから、わざわざ王子に会いに行く必要はないよ」

 咳払いしてフィルは言った。

「王子様の魔法が解けるといいね」

 チェスはジェナの顔を見つめて言う。

「魔法を解くにはどうしたらいいの?」

「それは……」

 ジェナは目を伏せた。強い決意はあるものの、魔法を解く三つの条件を思い出しジェナは軽く息を吐く。それは簡単にみたすことの出来ない条件だった。

「魔法を解くには三つの条件があります……その三つを揃えないと魔法は解けないそうです。その一つに『黄金の木の実』という果実を探し出さなきゃならなくて……」

「黄金の木の実? 聞いたこともない名前ね。フィルは知ってる?」

 ドロシーは隣りに座っているフィルに目を向ける。

「……いや、初めて聞く名だな。大抵の果実なら知っているんだが」

 フィルは食事の手を休め考える。

「それは、世界に一つしかない木になる実なんだそうです……それも一年のうち一日しかならないらしくて……」

「なんだよ、それじゃ探しようがねぇな」

「……」

 ハンクが言い、ジェナは言葉を詰まらせて目を伏せる。

「けど、世界中のどこかにはあるってことだから、探し出せるさ」

 ガッカリと肩を落とすジェナを見て、ハンクは付け加えて言った。

「そうだよ。誰か必ず知ってる人がいるよ」

 チェスはニコリと笑う。

「僕もジェナと一緒に探してあげる。僕もハンクも旅の途中なんだ。これから行く所はまだ決めてないから、ジェナも一緒に行こうよ。ね、いいでしょハンク?」

「は?……」

 突然のチェスの申し出にハンクは戸惑う。確かにこれから先のことは全く考えていない。だが、今日会ったばかりの少女と旅に出ていいのだろうか? 果実を見つけるのはかなり大変そうだ。しかも、見つかる可能性はかなり低い。だが、そんな戸惑いよりもハンクは未知の旅に対する好奇心の方が強かった。

「そうだな。面白そうだよな」

 深く考えることもなく、ハンクはOKの返事をしていた。

「ありがとう」

 ジェナは微笑む。

「出来るだけ早く探しに出たいんです。食事が終わったら、直ぐに旅立っても良いですか?」

「OK! 『黄金の果実』を探す旅に出発だ」

「ちょっと、待ちなさいよ」

 浮かれるハンクを制し、ドロシーは呆れた顔をして話しに入る。

「そんなに焦ってどこに行くつもり? 長い旅には準備と情報集めが必要よ。遊びに行くんじゃないんだから」

「……ごめんなさい。エレック王子様のことが心配で……」

「焦る気持ちは分かるよ」

 ドロシーはフフッと笑った。

「ま、今日はお祭りなんだし、今夜は泊まってゆっくりして行きな。その間、あたしとフィルも情報を集めてやるよ。ね、フィル?」

 ドロシーは流し目でフィルを見る。

「もちろんだよ、ハニー」

 フィルは軽くウィンクして答えた。



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