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第十九話 取引

「ちょっと、その首飾りよく見せてくれない?」

 ドロシーはチェスの首に手を伸ばす。

「よせよ、これはチェスの大事な宝物なんだ」

 ハンクは、身を乗り出していたチェスの体を引っ張って席につかせる。

「あら、見せるだけならいいじゃない。減るもんじゃあるまいし」

「フン、あんたも首飾りが欲しいんだろ、分かってるんだからな。孤児院でも何度も盗まれそうになったんだから」

 ハンクは腕組みしてドロシーを睨む。

「いいよ、見せてあげる」

 チェスは微笑むと首飾りをはずす。

「あっ」

 ハンクがとめるのも構わず、チェスはドロシーに首飾りを手渡した。

「……」

 ドロシーはしばし言葉を失い、食い入るように首飾りを見つめる。

「……思った通り、これはかなりな値打ち物ね。薔薇の模様が素晴らしい」

 感嘆のため息をもらしつつ、ドロシーは十字架を隅々までチェックする。

「返せ!」

 ハンクは立ち上がって、ドロシーの手から首飾りを奪い返す。

「チェス、首飾りを人に見せるなっていつも言ってるだろ。これは、お前にとって命の次に大事な物なんだからな」

「分かってる。いつも身につけているから大丈夫だよ」

「全然、大丈夫じゃねぇや」

 ハンクはムッとした表情で、チェスに首飾りを渡す。

「そうね、随分高価な物だから気を付けた方が良いね」

 チェスが手慣れた動作で首飾りをつける様子をみながら、ドロシーは言う。

「どこで泥棒が狙ってるか分かりゃしない」

 ドロシーは意味ありげな眼差しをジェフリーに送る。

「……」

 ジェフリーは黙ったまま舌打ちする。



「ハンク、大丈夫?」

 ハンクは大声で歌いながら足元をふらつかせ、チェスの肩にすがって通りを歩いて行く。居酒屋で初めてワインを飲み、調子に乗って飲み過ぎたようだ。

「え〜? 大丈夫に決まってんだろ! ハンク様はいつも元気だ! もっとワイン持って来い! あんな美味しい酒は初めてだぁ!」

「全く……ガキに飲ませるんじゃなかったね」

 ジェフリーの縄を引きながら、ドロシーは呟く。ハンクはまた歌を歌い出し、チェスとともにフラフラと先を歩いていく。

「おい、俺をどうする気だ?」

「フフ、どうしようか」

 ドロシーはキュッとロープを引き、ジェフリーが顔をしかめるのを眺めた。

「この前あたしが修理した物の金さえ払えば、直ぐに自由にしてやるよ」

「だから、今は金がねぇって言ってるだろ」

「じゃ、このまま警察に直行だ。あんたには前科があるから、今度捕まったらなかなか出られないよ」

 ドロシーは鼻で笑う。

「チ、待てよ。もう少ししたら必ず金は作る」

「信用出来ないね。あんたはいつもそう言って逃げるだろ」

「今度こそは逃げねぇよ」

「……それより」

 ドロシーはふと立ち止まり、前を歩いて行くハンクとチェスを見つめる。

「あのチェスっていう子の首飾り……あれはかなり高価なもんだった」

 ドロシーはジェフリーのロープを引き寄せ、ジェフリーの耳に口を近づけ囁く。

「元泥棒のあんたなら簡単に手に入れられるだろ」

「馬鹿な、俺はもう足を洗った。それにあの首飾りはあの子の……」

「嫌なら良いよ。あんたは牢屋に入るだけさ」

 ジェフリーを突き放すと、ドロシーはまた歩き始める。

「明日の朝まで待ってやるよ。泣く子も黙るジェフが子供から首飾りを巻き上げるくらいたいしたことじゃないだろ」

 ドロシーはフフッと笑う。

「チェ、小悪魔め……」

 ドロシーに縄で引かれながら、ジェフリーは深くため息をついた。   




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