第十八話 手ごわい美女
ロープを引かれ、ジェフリーは銀髪の女の元にたぐり寄せられる。ロープはジェフリーの体に食い込み、ジリジリと縛り上げていく。港の通行人達は、面白そうにその様子を遠巻きに見守っていた。
「あんた、何したんだよ?」
強い力でグイグイと引かれていくジェフリーの後を追いながら、ハンクは聞く。睨みをきかせた美女がロープを引っ張りながら、こちらを見ている。
「何もしていない……」
ジェフリーは歯を食いしばって引きずられまいとするが、女の力は予想以上に強くずるずると引かれていく。
「縄抜け名人なんだから、ロープなんか簡単にほどけるだろ」
「あの女の縄だけは抜けられねぇのさ」
「だらしねぇなぁ」
話しているうちに、縄に引かれる囚人のように、ジェフリーは銀髪の美女の元に辿り着く。
「あたしから逃げようったって無駄だよ。この前の物の金、ちゃんと払って貰うからね」
ジェフリーをたぐり寄せた美女は、きつい口調で言い放つ。
「あんた、カッコイイね。ジェフリーよりずっと逞しいや」
ハンクは美女の前に進み出る。彼女はしっかりとロープを握りながら、ハンクに目を向ける。
「ん? 坊や誰?」
「ハンクさ。坊やじゃない、もう十八のれっきとした大人だからな」
「あら、そう? 随分可愛いからお子さまかと思った」
ムッとするハンクを見ながら、美女は鼻で笑う。
「ハンクは僕の親代わりだよ。お姉さんの名前は何ていうの?」
銀髪美人の隣りでチェスが聞く。
「ドロシー・Q・クラックホーン、趣味は機械いじりと縄投げ」
銀髪美人のドロシーはフフッと笑うと、ジェフリーの縄をキュッと縛り上げる。
「おい、きつく絞めるな」
体に食い込むロープに、ジェフリーは顔を歪める。
「なぁ、それより、俺達腹減って死にそうなんだ。どこかで食事しようよ」
ハンクはお腹を押さえて、ドロシーに目を向ける。ジェフリーのことより、今は腹ごしらえが一番大事だとハンクは思っている。
「おい、この状況を見ろ。食事どころじゃねぇだろ」
ジェフリーは恨めしそうに呟いた。
「ハンク、船でもらったパンがあるよ」
チェスは無邪気に言うと、鞄の中のパンをごそごそと探す。
「パンだけじゃ可愛そうだね。いいわ、私があんた達を奢ってあげる。こいつを捕まえられたのはあんた達のお陰だし」
「おっ、さすがドロシー! 話しが分かるね」
ハンクはチェスが取りだしたパンをかじりながら、嬉しそうに笑う。
「ついて来な。こいつの顔が利く店を知っているから」
ドロシーはジェフリーを一瞥すると縄を引いて歩き出す。
「おい、お前のおごりだと言っただろ」
「つべこべ言わないで、ついて来なよ」
ドロシーはもう一度強く縄を引っ張り、ジェフリーが呻くのもお構いなしに歩き続ける。
ジェフリーの顔が利くという店は、港近くの路地裏にあった。賑やかな表通りとはうって変わって、薄暗くひっそりとしている。日の差さない店内も薄暗く、朝っぱらから酒を飲んでいる数名の男達の姿があった。
「四人前の食事何か持って来て、それとワイン!」
奥のテーブルについたドロシーは、ボーイに向かって声を上げる。
「ドロシー、いい加減縄をほどけ。これじゃ食えないだろ」
店内に入っても縄をほどこうとしないドロシーに、ジェフリーは言う。
「もうどこへも逃げ隠れしねぇよ」
ドロシーはロープの端を握ったまま、どっかりと椅子に座り足を組む。
「信用出来ないね。あんたはあたし達が食べた後、食べさせてやるよ」
ドロシーは腰から鋭いナイフを抜き取ると、ジェフリーの目前でちらつかせる。
「あたしはナイフ投げも得意だから、もし逃げたらあんたの後をナイフが追っかけていくよ」
ドロシーは口の端を上げて微笑む。
「わぁ、スゴイな。ナイフ投げの大道芸は一度見たことがあるんだ。ドロシーのも見てみたい」
ドロシーの前に座っていたチェスは、身を乗り出してナイフを見つめる。
「おい、冗談はやめろ……」
「ハハ、俺もあんたがナイフに追いかけられる姿見てみたいよ」
顔をしかめるジェフリーを見て、ハンクは笑う。
「……」
その間ドロシーは、目の前のチェスの首から覗いている金色のチェーンをじっと見つめていた。港をうろついていたチェスの姿を見かけた時から、その首のキラキラと神々しく輝くチェーンがずっと気になっていた。
今回(前回から)、ハルタニロビンさんご提供のキャラ、ドロシーを登場させました。設定は微妙に変わってます。^(^^;)
ハルタニロビンさん、ありがとうございました。