第十七話 賑やかな港で
ラークホープ国で大変な事件が起きる数日前。ハンクとチェスとジェフリーは、無事に船を下船していた。大きな港にはたくさんの船が碇泊し、積み荷や人々で溢れかえっていた。船の警笛、物売りの声、飛び交う人々の話し声や笑い声。
ハンク達は、人の波をかき分けるように港を歩いて行く。
「こんなデカイ港初めて見た。人も多いなぁ」
ハンクは物珍しそうに人々の行き交う様子を眺める。
「これくらいの街で驚いてちゃダメだな。世の中にはもっと大きな国がある」
「ここは何て言う国?」
ジェフリーを見上げてチェスは聞く。
「セント・ベリーだ。ま、中くらいの大きさの国と言ったところだな」
ジェフリーは、悠々と港を見渡しながら言う。
「あんたはここに来たことあるのか?」
「俺には馴染みの国だ。さてと、まずは腹ごしらえに行くとするか」
「賛成! 腹減って死にそうだ」
ハンクはパチンと指をならし、満面笑顔になる。昨日の晩からほとんど何も食べていない。空腹で頭がくらくらしそうだった。
「待て、お前等と一緒に行くとは言ってないぞ。ここでお前等とはお別れだ」
ジェフリーはハンクをチラッと見て低く言い、速度を速めて歩く。
「ちょっと、ちょっと、幼気な子供を置いていくっていうのか? 俺達一文無しなのに」
ハンクも遅れずにジェフリーの後についていく。
「それは俺も同じだ」
「じゃ、どうやって腹ごしらえするんだよ?」
「この国は馴染みだと言ったろ。顔が利くのさ」
ジェフリーは人差し指で軽く自分の顔をつつく。
「なるほど。な、頼む! 俺達にも何か食わせてくれよ」
ハンクは胸の前で指を組んで、ジェフリーに懇願する。
「チェスも頼め」
ハンクは横を歩いていたチェスに向かって言うが、そこにいたはずのチェスの姿はなかった。
「あれ? チェス?」
はぐれたかと思いキョロキョロと辺りを見渡すと、後方で一人の女性と話しているチェスの姿が見えた。女性は銀髪の長い髪を三つ編みにしてたらし、スリムな体に男装をしている。知的な笑みを浮かべたなかなかの美人だった。
「チェスもなかなかやるなぁ、いつの間に女をナンパしてんだよ。あんたより上手だね」
ハンクは笑いながらジェフリーに目をやる。
「……」
「それとも逆にナンパされたのか?」
ジェフリーは体を硬直させて、じっとその女に見入っている。
「あんたの好み?」
口をポカンと開け言葉を失ってしまったジェフリーに、ハンクはからかうように言う。
「……行くぞ。あの女はやばい……」
突然ジェフリーはくるりと背を向けると、逃げるように歩いていく。
「何だよ、あんたの知り合いか? あ、ちょっと」
サッサと先を歩いて行くジェフリーの背を目で追いながら、ハンクはチェスの方に手を振る。
「チェス! 何やってんだ、早く来いよ! オヤジが逃げてくぜ!」
チェスと女はハンクに気づき、その先を足早に歩いていくジェフリーの姿を目にした。
「あっ、ジェフリー待って!」
チェスが声を上げると同時に、隣りに立っていた女は腰に巻き付けていた細いロープを外す。そして、素早くクルクルとロープを回し、逃げていくジェフリーめがけて投げつけた。獲物に狙いを定めた獣のように、ロープは矢のような早さで一直線にジェフリーの元に飛んでいく。
「ギェッ!」
声にならない声を漏らすジェフリー。一瞬にしてロープはジェフリーの体を捕らえ、その体に巻き付く。ロープに拘束されたジェフリーは、あっけなくその場に倒された。
ハンクとチェスは唖然として、その様子を見守っていた。
「待ちな、ジェフリー。今度は逃がさないよ」
銀髪の女は手元でキュッとロープを引っ張ると、ニヤリと笑う。
ようやくハンクとチェスの話に戻ってきました〜
しばらく同時進行していきます。