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第十話 初めての都

「チェス、チェス、起きろ」

 両手足が自由になったハンクは、床に寝ころんでいるチェスを軽く揺する。チェスの両手足の縄も、ジェフリーがほどいていた。

「……ん? なぁに?」

 ようやく目を覚ましたチェスは、目をこすりながら起きあがり、寝ぼけ眼でハンクを見つめる。

「……あれ? 縄がほどけてる」

 チェスは、目をこすっていた手を止める。両手首には、痛々しい縄の跡が赤く残っている。

「こりゃ酷いな、痛いだろ」

 ジェフリーはチェスの元に寄って行くと、皮がすりむけている手をそっと取る。

「あっ、昨日のおじさんだ。気分は良くなった?」

 チェスはジェフリーの顔をまじまじと見つめる。

「顔色はいいみたいだね」

「坊主、俺はジェフリー・バインドだ。縄抜けのジェフと言えば、大抵の奴は知っている」

「わぁ、おじさん、スゴイね! 縄抜けが出来るなんて、手品師みたいだ」

 チェスは屈託なく笑う。

「ジェフと呼べ」

「山桃の種で船酔いも治ったんだってさ。また、分けてやんなよ」

 ハンクはククッと含み笑いしながら言う。

「え? ホントに? スゴイなおじさん」

「ジェフと── シッ、誰か来る」

 言葉を切り、ジェフリーは指を口にあてて耳を澄ませる。コツコツという足音が、ゆっくりと近づいて来るのが聞こえた。

「お前等、縛られたフリして寝ころんでろ。船員が入って来たら俺が後から殴る。お前等も加勢しな」

「おう! ボコボコにしてやる」

 ハンクは軽く縄を手に巻き付け、チェスとともに横たわる。

「ま、大して力にはならないだろうが……」

 立ち上がったジェフリーは、サッと扉の横に身を潜めると低く呟いた。


 ほどなく、二人の船員が歩いて来た。一人は飲み水と少量のパンをトレイに乗せていた。二人はチラリと覗き窓から横たわっているハンクとチェスを確認すると、呑気に扉を開けて監禁室に入って来る。

「おい、朝食──」

 先に入った一人はいきなりジェフリーに後頭部を殴られ、つんのめりになって床にくずおれた。

「あっ!」

 トレイを持ったもう一人も、声を上げた次の瞬間には床に倒れていた。水差しの水もパンも、大きな音を立ててトレイごと床にばらまかれる。

「なんだよ、弱っちいな。俺も殴ってやったのに」

 ハンクは身動き一つしなくなった船員達を見下ろしながら、殴るポーズをしてみせる。

「すぐに目を覚ますぞ。縄をかせ」

 ジェフリーは言うが早いか、気絶した二人の両手足を素早く縛りつけた。

「あんた、すげぇな。後で縄抜けと縄縛り教えてくれよ」

「ぐずぐずするな。船が港に着くまではどこかに身を潜めとくぞ」

 感心しているハンクを促し、ジェフリーは通路の様子を見て扉を開ける。

「チェス、早く来いよ」

 ジェフリーの後から出ようとしたハンクは、振り返ってチェスに言う。チェスは床に転がっていたパンを拾い、布袋に詰め込んでいた。

「ちょっと待って」

 朝食のパンを詰め込むと、チェスはハンクの荷物も抱えて持ってくる。

「ハンク、忘れ物」

「あ、サンキュ」

 ハンクはすっかり忘れていた自分の荷物を受け取る。

「お、坊主はなかなかしっかりしているな」

 そのやりとりを見ていたジェフリーはニヤリと笑う。

「さ、行くぞ」

 ジェフリーとハンクとチェスは、誰もいない通路を足音を潜めて走って行った。


 船はゆっくりと港に入って行く。

 ハンクの予定では、豪華客船の旅をもっと長く楽しむはずだったが、無事に監禁室から出られただけでも良しとしなければならない。

「わあ、大きな港だね!」

 船の甲板から近づく港を見つめ、チェスは感嘆の声を上げる。三人は他の乗船客に混ざって下船を待っていた。

 港の向こうは、チェスもハンクも生まれて初めて目にする別世界だ。

「下りる時捕まらないか?」

 港を眺めながら、ハンクはジェフリーに聞く。

「心配するな。乗る時のチェックは厳しいが下りる時は素通り出来るさ」

「ふ〜ん、あんた、船酔いする割りに乗り慣れてるんだな」

 ハンクはジェフリーを見てフッと笑う。目の前に迫ってくる初めての都に、ハンクの胸はわくわくとときめいてきた。




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