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勇者と呼ばれたあいつと魔王と呼ばれた俺様。  作者: 柳乃 晟
「勇者と呼ばれたあいつと魔王と呼ばれた俺様。」
3/8

002話 「七将軍」

「此方が会議室で御座います」


 俺とセルフは服の置いてあった部屋から少しゆっくり進む事数分で目的の会議室へ着いた。

 少しだけだがゆっくり歩いた理由はセルフに聞きたい事があったからだ。

 それでも数分という短時間で着いてしまうのは失敗だったな、と思う。


「……もう少し遠いところの御部屋を用意すべきでした」


 俺の考えを的確に見抜いたのだろう。

 セルフは申し訳なさそうにそんな事を言ってきた。


「ま、過ぎた事をとやかく言ったってしょうがねえだろ。それよか早く入ろうぜ? …あんまりもたついてる(、、、、、、)と何人か機嫌を損ねちまう奴が居るだろ」


 俺の言葉にセルフは無言で頷く。

 扉の前での会話はきっと中の奴等には伝わらないだろうが、気配は伝わる。

 俺達が扉の前で長い間留まっていたら誰だって気分が良いもんじゃない。


 セルフが俺の目を見る。

 その視線に対して軽く頷いてやる。

 するとセルフは軽く頷いて部屋の扉を開けた。

 城に入る時とは違い軽い音が辺りに響く。

 当然と言えば当然の話なんだけどな。


 室内を軽く見渡すと半円の様な机に七人、人型の魔族が座っている。

 会議室というか気分的には裁判を受けるような心境になる。

 まあ、座ってる奴等は魔族だが部屋の雰囲気自体は禍々しい物ではなく日本に居た頃と明らかな違和感を感じるようなものではなかった。 

 ――しかし、空気は違った。

 開けた時に漏れてくるのは殺気や闘気だ。

 全員が全員歓迎してくれてる訳がないとは知っていてもここまであからさまに発してくるとは思いもしなかった。

 なんていったって隠すつもりがないのが数人居るのだから。


「新魔王候補、赤宮冬至様をお連れしてきた」


 セルフは部屋に入る前にそれだけ言うと一歩前へ足を踏み出し、俺に向かって頭を下げた。

 それを俺は視界の隅で確認し、一歩前へ足を踏み出す。


「俺が赤宮冬至だ」


 俺はそれだけ言い放つ。

 すると中に居た何人かが目の色を変える。


「――、人間じゃないか」


 目の色を変えた奴の中で最初に声を発したのは赤髪のイケメン野郎だ。


「ええ。それが何か?」


 セルフは野郎の言葉に眉一つ動かさず言葉を返す。


「それなら話が早い。俺はコイツの下で戦う気は起きねーな」


 フッ、と俺を馬鹿にするかのような笑みを浮かべそいつは言ってきた。

 その言葉に二人頷く奴がいる。

 ま、人間のほうが種族的には劣ってると思ってる奴等だ。

 仕方がないといえば仕方がない。


「――だろうな。そう言うと思ったぜ。ルキフェル」


 俺の言葉に赤髪の――ルキフェルは顔を(しか)めた。


「……俺の名を気安く呼ぶな人間。…セルフ、テメェが人間に俺の名前を教えたのか?」


 ルキフェルの言葉を今度は黙り込んで無視する。

 するとルキフェルはつまらなさそうな表情で舌打ちをした。


 因みに俺がセルフに聞いたのは七将軍の名前と性別、性格、特徴と。

 ――誰が俺に牙を向いてきそうか、という事を聞いた。

 結果、男で赤髪の傲慢なルキフェル。

 女で青髪の他人を妬み易いレヴィアタン。

 男で金髪、そして短気のサタン。

 男で紫の髪のサボり魔、ベルフェゴール。

 女でピンクの髪、欲張りなマンモン。

 男で黒髪、三度の飯が大好きなベルゼブブ。

 男で緑の髪、女好きのアスモデウス。

 という七人の情報を得た。


 その中でルキフェル、レヴィアタン、サタンの三人は反発派らしい。

 他の奴等は傍観派で支持派って奴は今のところ居なく、セルフくらいしか好意的な奴はいないという事だ。

 んで、反発派の中で俺に牙を向いてきそうなのがルキフェル、サタン。此の二人らしい。


「まあ、それでもあれだよね。ルキフェルの言い分も判るけど。魔王に選ばれた時点で僕達よりも彼の方が強いんだけどね」


 ここで違う奴が口を開く。

 セルフから聞いた情報だと緑の髪、アスモデウスだ。

 アスモデウスの言葉に反発派の三人は露骨(ろこつ)に怒りの表情を(あら)わにする。


「そんな表情しないでほしいな。僕は事実を言ったまでだよ。魔王召喚の査定方法は君達も知っての通り、力だ。力だけしか求めていない。事実君達は過去の魔王に対して何度も反発し各々殺そうとしてたみたいだけど結局勝てなかった。違うかい?」

「……チッ。けどよ、先代は龍族だった。その前は狼族。――人間よりかはマシだった」

「それでも、人間が喚ばれたんだ。なんなら喧嘩でも売ってみたら良いんじゃな――」

「ちょっと待て、アスモデウス」


 黙って各々の話を聞いていようと思ったけど、どうにも無視出来ない流れになってきたから口を挟む事にした。


「ん? どうかしましたか? 魔王様」

「先ず、それだ。俺はまだ魔王になるとは決めてねえんだよ」


 その言葉にアスモデウスは目を細める。


「魔王にはならないと?」

「そうゆう事だ」


 バン! と机を叩く音が室内に響いた。

 視線を向けるとルキフェルとサタンが同時に机を叩いたらしい。

 本来、セルフの話では此の二人の仲は良くないと聞く。

 そして実際その通りなのだろう目の前で二人は同時に同じ行動をしてしまった嫌悪感からか顔を顰めている。


 しかし、それでも怒りの矛先が変わる事はなかった。

 先ず口を開いたのはサタンだ。


「魔王にならない、唯の人間如きが我等の城に我が物顔で入ってきた、という事か?」


 言葉と同時に凄まじい殺気を放ってくる。

 隣に立つセルフが思わず後退(ずさ)りしてしまうほどの殺気だ。

 かという俺も余裕って訳じゃない。

 少しだけだが冷や汗が流れる。

 此れほどの殺気を日本で過ごしていて受ける事は先ず、なかった。


「つー事は、だ。テメェは魔王でもなんでもねえんだろ? 唯の人間って事だ」


 続いて口を開くのはルキフェル。

 ギロリと殺気の満ちた目で俺の方へガン付けてきた。


「――という事は、唯の人間であるのでしたら。……殺しても構わないでしょう?」


 空気が変わったのは最後のレヴィアタンの発言だ。

 セルフは目を見開いて驚き。

 傍観派はいつもの事かと呆れる表情の奴と、待てと静止を掛けようとする表情の奴の二組に分かれた。


 そして静止を掛ける為いち早く口を開いたのはマンモンだ。


「ちょっと待ちなさいって! 此処でコイツを殺しても意味ないでしょ! というか、勇者を倒せるのは魔王しかいなくて今現時点で一番強い魔王はコイツなんだから! 態々あたし達の戦力を弱体化させる必要なんかないでしょ!?」


 顔を真っ赤にして必死に三人に叫ぶマンモン。

 言ってる事は傍観、って感じではないがきっと状況が想定外なんだろう。

 コイツ等が反発か傍観に分かれてる状況の前提は俺が魔王である、というのが前提なんだろう。

 つまり、傍観派は誰が魔王でも構わないくらいなスタンスで反発派は自分が誰かの下で戦うのを嫌うといったスタンスなんだと思う。

 その前提を俺が今此の場で否定してしまったのは問題だったらしい。

 魔王でなければ俺は敵である唯の人間にしかならない。

 今現在戦争中である事を考えれば確かに当然の反応だとさえ思う。


 セルフも俺も考えが甘かったと言う事だ。

 魔王にならないという選択肢を持ったまま此処に来るのは敵陣に単体で攻め込むに等しい行為だ。


「んじゃ、何か? マンモン。テメェはコイツを説得して魔王にするのが最善だとでも言うのか?」

「そりゃそうでしょ? 今此の場で一番強いのはコイツなんだから。コイツより弱い奴を喚ぶメリットが他にあるの?」

「……あるでしょう? 人間以外が来るかもしれないのだから」


 その言葉に呆れと驚きの混ざった複雑な表情でマンモンは固まった。


 実際レヴィアタンの考え方は間違いではない。

 まあ、正解でもないだろうけど。

 人間という存在ってだけで此処では唯の敵なのだから、ならばそれを除外するって考え方は理解出来なくもない。

 といっても効率をメインに考えれば最悪な一手だろうが。


 マンモンが黙ってからは場に沈黙が流れる。

 無意味に時間が過ぎ時間が経っている事に苦痛を感じ始めた頃、ベルフェゴールが口を開く。


「……てゆーか、なんでその人は魔王になりたくないの?」


 僕には理解が出来ないよ、と肩を竦めてやれやれといった風に俺を見る。


「魔界の最高権力者の席だし、破壊と暴虐の象徴。此の世での最強の証。その席に座るだけで好き放題出来るのにさー。――なんで?」


 ベルフェゴールの発言にその場全員の視線が俺に集まる。

 確かにこいつ等からしてみりゃそうなんだろうさ。

 青い未来から来た猫型ロボットのポケットを渡されて要らないって答えたような感じなんだろ。

 けど、俺にだって理由はある。


「簡単に言うと面倒臭い」


 俺の答えが意外だったのだろうベルフェゴールは目を丸くして驚く。


「今までの魔王がどんな奴だったかは話しか聞いてねえからよく判らんけど、俺が魔王になったらって考えると今までのようなそんないい加減な事はしたくねーな、とか思うんだろうと思ってな」


 要は適当な事はしたくないんだ。

 やるなら徹底的にやる。

 だけど、そうなるとやっぱり面倒な事には変わりない。

 出来るならそんな事はしたくねーし。

 だって、そうだろ?

 そんな事したら色々責任とかあるだろうし、逃げられない事態も多々あるだろう。

 そう思うと面倒だ。

 ――権力や立ち位置には不満はねえが、やらなきゃいけねえ事には不満しかない。


 俺の言葉に一瞬場は静まり返ったが、それは本当に一瞬だけだった。


「……そんなに深く考えていたのですね」


 その声の主は意外な事にセルフだった。

 俺の後ろから聞こえたその声に俺は表情は変えず振り返る。


「……なんだ? 意外か?」


 俺の言葉にセルフは困った表情をして頷く。

 どうやら意外だったらしい。


「本当に唯面倒臭くて断っていたのかと思っていました」

「――失礼だな。それだけを理由に断る気もねえよ。一応、色々と便利な特権も付いてるんだからな」

「それはそうで御座いますが……」

「ま、つっても半分くらいは本当に唯面倒なだけだけどな」


 そう言うと複雑な表情でセルフは溜息を吐いた。

 なんなんだ、その顔はよ。

 俺がセルフに対して文句の一つでも言ってやろうかと悩んでたら場違いなくらい盛大な笑い声が場を支配した。

 俺はその笑い声に驚いて慌ててその声の主の方に目を向ける。


「あははははははっ! これは愉快だっ!」


 手を叩きそうな勢いでアスモデウスが爆笑していた。

 つか、手は叩いてねえけど、腹は抱えてた。

 何がそんな面白いのか疑問に思って怪訝そうな表情で俺はアスモデウスを見ていた。


「これはこれは失礼しましたまお――、っと冬至様、でしたっけ? 冬至様。僕は貴方を支持します。というか、個人的に気に入りました」

「アスモデウス!」


 アスモデウスの発言にルキフェルが声を荒げる。

 当のアスモデウスはその声に反応せずけろっとした表情を続ける。

 その表情に益々苛立ったのかルキフェルは言葉を続けた。


「テメェはコイツの下に就くってのか!?」

「ああ、そうだよ? 僕は冬至様の言葉に感動したんだ。自分は適当な事をしたくない唯その業務が責任が面倒だと。冬至様はそう(おっしゃ)った。――良いじゃないか。無責任に見えてその発言は実に素直で素晴らしいと僕は思うよ? 少なくとも今までの魔王様より僕は好印象を受けた」


 アスモデウスがそう言うとルキフェルは眉を(ひそ)める。

 だが、ルキフェルの苛立ちは収まるどころか更に悪化する事態へと動く。


「あたしも冬至様に就くわ」


 俺は驚いた。

 アスモデウスの発言だけでも十分驚いていたのだがそれに続いた声に更に驚く。


「……テメェもか。マンモン」

「そうよ? あたしもアスモデウスと同じ。――(しゃく)だけどね。私利私欲で動く奴より全然良いじゃない。もし、冬至様がやる気になったら良い魔王様になると思うけど?」

「――そーだな。じゃあ、俺も就こうかな」


 マンモンの言葉に続いたのはベルゼブブだ。


「適当に動く奴よりしっかり考えてくれる奴の方が良いと思うのは自然の事だと俺は思うよー」


 俺はセルフの方へ振り返る。

 すると、セルフはにっこりと俺に微笑み掛けた。


 なんだ? なんなんだ?


 俺は状況が上手く飲み込めない頭を必死にフル稼働させようとする。

 コイツ等馬鹿か?

 俺は偉そうに言ったが結局のところ要訳(ようやく)してしまえば面倒な事はしたくないって言ってるだけだぞ?

 なのに、魔王でもねえ今は唯の人間に三人も就くとか言ってやがる。

 なんなんだ?


 と必死に考えてる俺を余所に叫ぶような怒声が響いた。


「貴様等は馬鹿か!!」


 ダン! と勢いよくサタンは机を叩いて立ち上がった。

 眼には凄まじい怒りと――殺意を含めて。


「今、我々は人間共と戦争を行っているのだ! それを貴様等はその人間に就き従うと申すのか!!」


 サタンの視線は三人を見据えている。

 だが、サタンの睨みを受けて尚三人の表情は揺るがない。

 力量の差はある筈だ。

 それなりに修羅場を潜って来たから判る。

 此の中で間違いなく危ないのはルキフェルとサタンだ。

 その二人の怒り、殺気を受けて尚三人は平然としている。

 魔界の七将軍に選ばれているだけの事はあるのだろうが、俺は素直に感心した。


 だが、それと此れとは話が別だ。


 このままだと二人に三人は殺されかねない。

 それはなんとなく(まず)い。

 そして、俺の予感は最悪な事に当たった。


「……テメェ等、殺すぞ?」


 場を凍らせる静かな一言。

 だが、その言葉に平然としていた三人の額に冷や汗が(にじ)んだ。


「貴様等には心底落胆した。魔族としての誇りがないようだな」


 サタンの言葉を切欠にルキフェルも席を立った。

 それと同時に三人も席を立つ。


 そして、俺はそれと同時に悟った。


 三人は間違いなく殺されると。


「――はあ。ルキフェル。サタン。表に出よう」


 俺は溜息混じりにそう言う。

 場に居た全員が眼を見開いて驚いた。


「御前等と争うつもりは全くなかったんだけどよ。……俺の下に就くって言った部下を見殺しには出来ねえな」


 すると三人は更に驚いた表情になった。


「つー訳で、外出ようぜ? 此処でやんのはあんまり良くねえだろ?」


 自分でも理解に苦しむ。

 ぶっちゃけ関係ないと言ったら関係ない。

 奴等が殺されようが俺には何の関係もねえ。

 だけど、俺に就くと公言した奴等を見殺しに出来るほど薄情でもない。

 あー、もうちょい薄情でいい加減な性格だったらこんな事にはならなかったんだろうな。


 ルキフェルとサタンは口元を吊り上げて俺を見ている。


「良いぜ? ()ってやるよ」


 ルキフェルはそう言うと部屋から出て行った。

 続いてサタン、レヴィアタンも出て行く。


 ――本当は仲良かったりしねえの? 奴等。


「宜しいのですか?」


 三人が出て行ったのを確認してセルフが声を掛けてきた。


「宜しい訳がねえだろ。あいつ等規格外に強いだろ」


 そう言うと今日何度目になるのか数えるのも面倒だがセルフは驚いた。


「判るのですか?」

「判るっつーか、まあ、なんとなくだけどな。あいつ等半端ないだろ」

「ええ。少なくとも歴代の魔王様が無傷で勝てる相手では御座いません」

「だろうなぁ。下手したら奴等が魔王になっても良いレベルだろ?」

「その通りで御座います」


 それを聞いて憂鬱になる。

 此の世界での強さの相場は判んねえけど、日本では規格外だ。

 少なくとも今までであった人間と比較すれば間違いなく最強だ。


「てゆーか、間違いなくレヴィアタンも参戦するだろうね」


 更に憂鬱になる。


「あいつ等仲が悪いんじゃねーのかよ」

「仲は悪いよ。てゆーか、最悪だね。でも、良く共同戦線は張る。お互いの力量は認めてるみたいだから良く三人で魔王様に立ち向かってたしね」


 あー。あれか。

 一人じゃ無理なら三人でって魂胆か。

 そりゃ歴代の魔王とやらも無傷じゃ済まねえだろうさ。


「あたし達も戦おうか?」


 心配そうな表情でマンモンは言ってくる。

 ――オイ。覗き込むな顔が近い。


「あー、有難いけど遠慮しとくわ。けど、危なかったら助けて」


 とここで又全員の顔が驚きに変わった。

 待て。なんでそんなに俺の発言に驚くんだ。

 と心に思っていた事が顔に出てたんだろう、ベルゼブブが口を開いた。


「冬至様ってあれっすね。全然魔王様って感じしないっすね」

「どうゆう意味だよ?」

「まあ、私利私欲で動かない的な事を言ったり、今みたいに助けてなんて。今までの魔王様なら絶対言わないっすよ、それ」


 ……確かに。

 なんか、そんな事を言う魔王なんて想像出来ないな。

 RPGとかのイメージになるから俺のイメージが此の世界と一致するかはいまいち不明だけど。

 それでも、部下に向かって「あー。あいつ等強そうだからヤバそうだったら助けてくれ」なんて言うラスボスに魅力は感じねえわな。


「ま、俺魔王じゃねえし」

「……それはそうっすけどー」


 ベルゼブブはどこか不満気に言葉を切った。


「ところで、ちょっと聞きたい事がある」


 戦いに向かう前に聞いておきたい事があった。

 俺はそういう意味を込めて言うと真っ先にセルフが口を開く。


(わたくし)共に答える事が出来る内容でしたらなんなりと」

「先ず、奴等の戦闘スタイルだな。此れを知りたい」

「んー。そうですね。ルキフェルは例えるなら魔法剣士みたいな感じです。大刀である愛剣"聖邪剣エゼキエル"を振るいながら魔法での中距離攻撃、又は魔法によって炎を剣に付加して攻撃してきます。近・中戦闘と幅広い間合いでの戦闘が彼の持ち味ですね。サタンはバリバリの近接戦闘を得意としている大鎌使いです。魔法は不得意ですが……普段息やそりが合わないのに共同戦線を張ると途端に息が合うルキフェルがフォローに入ったり援護に入ったりして鎌に炎を付加して攻撃する事もあります。こう言うとサタンは強くなさそうに感じますが近接では間違いなく魔族最強です。今のところ彼の右に出る者は居ません。最後にレヴィアタンですが、彼女は後方援護型ですね。単体では然程苦戦するイメージはないですが彼等と組む事によって最凶と化します。ルキフェルのように付加したりなどという支援魔法は使えませんが爆発的な火力のある攻撃魔法が彼女の武器です」


 アスモデウスの説明を聞いたら頭痛が襲ってきた。


 要するにかなりバランスの取れたパーティーらしい。

 ルキフェルとサタンだけでも厄介な印象を受けるのにレヴィアタンの存在が恐ろしさを倍増させてる。

 よく昔の魔王は勝てたなとさえ思う内容だ。


「……あー。んじゃ次に御前等の戦闘スタイルは?」

「あたしは支援メインの後方支援型。レヴィアタンが攻撃特化ならあたしは支援特化って感じかな。唯レヴィアタンは魔法以外の攻撃手段がないけどあたしは一応弓が使えるから自分で弓に属性を付加させて攻撃する事も出来るよ」

「僕は近接攻撃がメインになりますね。マンモンやルキフェルほどじゃないですが風属性の付加魔法を少し扱えます。――サタンに唯一勝るとするならばスピードだけですが彼と一対一で戦って勝てた試しもないですし勝てる気もしません。扱う武器はレイピアです」

「俺は盾と鎧での壁役がメインっすね。支援魔法は防御特化っす。一応斧での攻撃も可能っすけど、攻撃は当てにしないほうが得策だと思うくらい粗末なもんっす」

「なるほどな」


 こっちはこっちでバランスは悪くない――が、如何(いかん)せん火力不足は(いな)めない。

 すると意外なところから助け舟が出された。


「……私はレヴィアタンほどでは御座いませんが攻撃魔法がメインの後方援護型です。支援魔法も少し扱えます」

「セルフ!?」

「……私も魔王様のお傍でお仕えになっていた身。将軍達ほどでは御座いませんが戦闘は出来ます」

「――()てにしても良いのか?」

「ええ。火力はレヴィアタンが十だとすれば私は六から七程度だと思ってください」

「そうか。それなら十分だ」


 これで万が一の時は五分五分、もしくは勝つ事は可能だろう。

 そう思うと気が少し楽になった。


「僕はどっち側の魔族じゃないので立会人でもさせてもらうよ」

「ベルフェゴール……君は一緒に来ないのかい?」

「個人的には冬至様に仕えても良いんだけど、ちょーっとっていうかかなり? 僕はあの三人が怖いんだよね。だから此の戦いで勝ったら冬至様に仕えるよ」


 ふふふ、と笑みを零しながらベルフェゴールは言った。

 すると他の三人は複雑な表情を浮かべ、少し笑った。

 その笑みは苦笑だったけど。


 とりあえず、俺はベルフェゴールを除く四人に最初は手を出すなという(むね)を伝え部屋を出るよう促した。

 セルフは俺の発言に不安そうな表情を浮かべ抗議しようと口を開き掛けたが寸でのところで口を閉じる事にしたらしい。

 俺を信用しての事なのか、俺に言っても無駄だと思ったのかそれは俺には判らなかったがどっちでも良かった。

 ぶっちゃけ今の俺には抗議されてもそれを自信満々に拒否するほどの余裕はなかった。

 そりゃそうだ。

 こっちに来て…というか、人生初だな。

 本当の意味での死闘ってのを経験しようとするのは。

 しかも、相手は核兵器並みのスペックを持った化け物達だ。

 余裕なんてある筈がない。

 俺は唯の人間だ。

 手を(かざ)して適当に放ったものがミサイル並みの破壊力だったとしても、中身は唯の人間だ。

 つーか、ミサイルで核兵器に勝てるかってーの。

 あー。余計な事考えたら怖くなってきた。

 ……つか、俺も怖いって思うんだなぁ。

 日本に居た時は怖い者知らずだったのによ。

 そう考えると日本ってマジ平和だよな。


 ――はあ。


 余計な事考えるのは辞めよう。

 とりあえず、今は俺の力量を測ってみるっていう小さな目標でも掲げて頑張ってみるとするか。


「ところで、冬至様」


 俺がもやもやっとした考え事を切り上げたのと同時にセルフが声を掛けてきた。


「武器は用意しなくても宜しいので?」


 あー、武器か。

 考えてなかったなぁ。


「んー……、いや、良いわ。俺武器なんて使った事がねえし」

「大丈夫ですか?」

「なんとかなるんじゃねえかな? つか、武器使った事ねえ人間が下手に武器なんか使ったらそっちのが危ねえだろ?」


 俺の言葉に納得したのか「ふむ」と(あご)に手を当て一つ頷く。


「確かに、冬至様の言う通りですな」

「だろ? 変に武器なんか持ったら逆にそっちに頼っちまう。だが、扱い方を満足に心得てねえ人間が持つには逆に毒だろ」

御尤(ごもっと)もです」


 会話はそれきりで俺達は無言で廊下をひた進む。

 道が出口に近付く度に緊張が増していくのが判る。

 堂々と歩いてるつもりだけど、どーなんだろうな。

 手足が同時に出てたらさすがに情けない。


 そんなくだらないプライドを感じながらも足は着々と出口へと向かっていく。


 そして、


 三人が待つ外へ繋がる扉が開いた。

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