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#4 便利すぎるコンビニ

 電車にゆられること30分。

 ダンジョンがある最寄り駅に到着した。


 なにを思ったのか、多くの人が行き来する駅前の広場で、魔術師がスクワットをはじめた。「フンハ!」という妙な掛け声が夏の暑さに拍車をかける。


 魔術師は図体がデカイため、目立って仕方ない。

 爽やかな顔立ちのくせに暑苦しいのが不思議だ。


 そんな暑苦師(あつくるし)、いや、魔術師がスクワりながら少しずつ回転する。

 180度くらい回ったころだ。

 考え事をしていた俺のほうを向いた。


「ねえ、リーダー。コンビニ寄って行かない?」


 全面ガラス張りという謎のコンビニを魔術師が指さした。


 俺と魔術師が見据える先には、“ダイナマイトはじめました”と書かれたノボリがハタめいている。

 駐車場に設置されたノボリの数、およそ500本。

 なんだか戦国時代にやってきたような錯覚に陥ってしまう。


 “車が止められねぇじゃん”というツッコミを忘れてしまうほどノボリだらけだ。


「コンビニ? 紺色のビニールかい? ちょうどいいや、アッシにちょうだいよ、吐きそうだし……」


 頬をピンク色に染めたシスターが、酒瓶を抱えて車道に転がっている。

 ゴロゴロと右へ左へ行ったり来たり。

 熱々のアスファルトの上でよく平気なもんだ。


「ヘルプ、ヘルペス……。ヘルファイヤー!」


 瞳を潤ませたシスターが、俺に救済を求めてくる。

 むしろ、オマエが救いの手を差し伸べる側だと思うが。


 地面が熱いらしい。

 たまにブリッジをして、アスファルトとの接地面積を小さくしている。

 シスターの動きは、起き上がれなくなったメスのカブトムシのようだ。


 ローリングブリッジをしているシスターの姿を、俺と魔術師は黙って見ていた。


「ヘルプ、ヘルパー、ヘルペスト……。アーメン。おやつカルパンス。だ、だれかアッシにツマミを……」


 意味不明なことをほざくホッパン美女の転がる姿が珍しいのだろう。

 複数の通行人が、いつまで経っても起き上がらないシスターの写真をパチクリ撮りはじめた。


 けしからんヤツらだ。

 魔力が残っていれば、俺は心置きなく新しい魔法を試しているところだ。


「勝手に写真を撮るな。可愛そうだろ。ローリングシスターの頭で、おまいらのドタマをカチ割るぞ! アーメン」

「おっ! めずらしくカッコいいこと言ったね。さすがリーダーだね。アーメン」

「コイツの写真をネットに晒すのは俺の仕事だ。なんなら、マニアに販売してもいい」


 シスターの弱みをにぎろうと、俺も撮影に参加していたのだ。


「アンタはゴミ箱がお似合いだよ」


 さげすむような目を俺に向けると、魔術師は筋トレを再開した。


「なあ、魔術師。いつも筋トレしているよな? なにが楽しいんだ?」

「楽しいというか、なんちゅうか。ボクの場合、こうして筋トレをすることで魔力が溜まるんだよね。魔法なんて一度も使ったことないけど。なに? そんなにボクのことが知りたいのかい?」


 ヒョウ柄のスキニーパンツという姿は、元気なオバちゃんを彷彿とさせる。

 タンクトップにいたっては、かなり痛い文字が書かれている。


  ねじったバンダナを頭に巻く魔術師の出で立ちは、ひとむかし前のエアロビのインストラクターそのものだ。


 ついでに言えば、コイツが身に着けている服は全て蛍光色のため、目が痛い。


「オネエっぽいオマエに興味はないが、ひとつ気になることがある。魔力はどこに溜まるんだ?」

「魔力かい? 液化した魔力、通称“液化天然魔力”はキ〇タマと腸に溜まるけど何か? テキトーに抜かないと暴発しちゃうんだよね。ヌクって魔力だからね!」


 魔力は液体だったのか。

 ということは、俺の魔力汁はヒザに溜まっているのかもしれない。


 液化天然魔力なんて初耳だ。

 いっそのこと“魔力汁”とか称したほうが分かりやすくていいと思うが。


 そんなことより、魔術師のタマは異常にでかいのが気になって仕方がない。

 小振りのスイカほどの大きさだ。

 スキニーパンツのせいで、タマが異様に目立っている。

 オスのネコを後ろから見た感じだ。


「いつか見せてあげるよ。ボクのすごい魔法。そう、“腸(超)魔術”をね!」


 魔術師が腸の辺りをスリスリしながら、ドヤ顔でダジャレを放つ。


「もういい。コンビニで安いおやつ、ちょっと高いおやつ、1番高いおやつを調達するか。武器も必要だな」

「なあ、クズ勇者。おやつ3兄弟はいいけど、武器なんかいらねえし。というか、もう持ってっし」


 ほろ酔い加減のシスターが、ブリッジ体勢でシャンパンの空き瓶を掲げてみせた。


「それはゴブリンっぽいキャバ嬢の武器だ。しまえ」

「なあ、ダンジョン目指すんだろ? でかいショベルカー入手してくんね? レンタルでもいいんだけど」

「シスターのオマエは何を目指しているんだ? 大型の魔女か? スコップの魔女か?」

「んなワケねぇだろし。あ、そうだ。ダイナマイト500本と魔導書も買ってこいだし」

「オマエはダイナマイトでジャングルジムでも作る気か?」


 500本も売ってるワケねえだろ、みたいな顔をしている魔術師を横目に、俺はキッチリと『ほしいものリスト』に追記した。


 そういえば、シスターは調達してこいと言ったか。

 俺についてくる気はないようだ。勇者づかいの荒い女だ。

 コイツ(シスター)を1回なぐりたい。


 女子に手をあげるのは避けたいが、一度でいい。

 なぐり倒したい。


「タマのでかい魔術師。すぐに筋トレをやめろ。バーベルを持ってコンビニへは入れないと思うぞ。ムダにブリッジを決めているシスターの上に置いていけ」

「バーベルは、ボクの親友だから持っていかせてもらうよ」


 道具を親友と言い出したよ、この魔術師。夏の平均気温を3度くらい上げてくれそうな暑苦しいヤツは嫌いではないが。


 俺に続いて、バーベルを手にした魔術師が入店するやいなや、女性店員が血相を変えて駆け寄ってくる。どうやら“バーベル”の持ち込みはNGらしい。


 魔術師の着ているタンクトップに一瞥くれると、女性店員が頬を赤らめる。

 コホンとかるく咳払いをすると、ひどく恐縮した様子でつぶやいた。


「あのう、お客様……。大変申し訳ございません。テカテカした魔術師の持ち込みはご遠慮ください」


 そっちかよ……。

 コイツが魔術師だと言い当てた店員には、少しビビったが。


「テカテカしてなきゃセーフだったのか?」

「アウトです!」

「コイツは魔法を使ったことがないらしいぞ? ゆえに、魔法使いにあらず。もはやゴミだ」

「ツーアウトです!」

「魔法使いがゴミ使いにジョブチェンジしたら問題ないか?」

「スリーアウトです!」


 口から白い歯を覗かせる女性店員が、自身の首を掻き切るような動作をしてみせた。


「それなら仕方ない。オマエは先にもどっていろ。そうだ、財布は置いていけよ」


 右のタマをさすっている涙目の魔術師の肩をポンと叩く。


 やけに分厚い財布だ。

 レシートがたんまり入っているブタ財布かと思ったが、全て一万円札だった。

 魔術師はカネ持ちらしい。


「わかった……」


 素直に店を後にする魔術師の背中が、いつもより小さく見えた。

 左のタマもさすってやれ、魔術師よ。

 どうでもいいが、親友を置いていかないでくれ……。


 結局、魔術師の親友バーベルは俺が持つハメになった。

 重さ150キロのバーベルで商品をなぎ倒しながら、店内をみて回る。


 呪いの影響だろう。

 なにを頼まれたかスッカリ忘れてしまった。


 スマホに記録してあるリストを開く。

 なんということだ。

 ほしいものリストが“干しイモのリスト”になっているじゃないか!


 大声で叫ぶ俺を女性店員が白眼視しているが、誤字のほうが気になる。

 スマホをいじりながら、導火線の短いダイナマイト・駄菓子・魔導書、シャンプーハットなどをレジまで運ぶ。


「さっそく、シャンプーハットを着けたのですね。便座に顔を突っこんだ泥酔者みたいで、とてもお似合いです! 顔面に装着する方は初めて見ましたけど」


 女性店員が冷笑しているのは何故だ?

 白いシャンプーハットを選んだから便座に見えるのだろうか。


「顔から頭部にスライドさせようとしたら、シャンプーハットが嵌ってしまった。そんなことはいい。この“バルサミコ”って魔導書は本物か?」

「はい? ネクロノミコソのことでしょうか? まがいものです。本物ならネクロノミコンのはずです」


 あっさりとニセモノと認めた女性店員。

 彼女が小声で言い放った「コンビニで手に入るわけねえだろ」という言葉を俺は聞き逃さなかった。 


 まあ、そうだろう。週刊『ネクロノミコソ』。

 そんな雑誌のような魔導書なんてあるわけがない。

 3千ページはありそうな書籍が、税込み50円で手に入るはずがない。


 は? 創刊号の付録が『杖の先っちょ』だけだと?

 20冊購入して、ようやく一本の杖が出来上がるそうだ。


「高い。ディスカウント(値引き)しろ。ディスれ」

「それはちょっと……。ところで、コンビニで300万円も使うなんて、イケメンのくせに、先ほどから横柄な態度をとるお客様は神様ですか? ダイナマイトを500本も買うなんて、音だけの花火大会でも開催するんですか? ひょっとしてバカですか? 夢見るアンディーさんですか? オッサンですか? シャアですか?」


 “夢見るなんとか”は良く知らないが、女性店員の言葉に熱がこもり始めている。

 いい調子だ。

 うまく値切れるかもしれない。

 どうでもいいが、質問が多すぎるんだよ。


「ダイナマイトの火薬を抜け。そのぶん|ディスカウントしろ。ディスれ!」

「もはや太いストローですね。巨大なタピオカでも吸うんですか? やっぱり火薬は必要ですよ」

「それなら導火線を引っこ抜け。ちり紙で何とかする。ディスれ!」


 悪魔っぽくなった顔の女性店員が拳を固くしている。

 仕方ない。魔術師の財布からプロテインの粉にまみれた札束を取り出し、カウンターに置いた。


「つりはいいぞ」

「はい? あの、ちょっと足りないようですが……」

「ボッチ冒険者が釣れる釣り堀を知っているか?」

「そっちの釣りですか……」

「この季節なら、ヒラマサがいいだろう」

「それって、おさかなですか?」

「戦国武将だ。興味があるなら行ってみるといい」


 ショベルカーのレンタル手続きをして、便利すぎるコンビニを後にした。


 すこし歩くと、女性店員がついてきているのに気がついた。


 俺の横を歩くシスターと魔術師に指示を与える。


「全力で走れ!」

「待てゴルア! クッソ勇者がぁ!」


 女性店員の怒声が近づいてきたかと思えば、俺たちを抜き去り、そのままどえらい勢いで走り去って行った。


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