転生理系女子が『君を愛することはない』と言われたので、運命の恋を脳科学と行動科学で解体してみた
俺は、愛していない女と結婚した。
家柄は申し分なく、成績も優秀。いわゆる“理系女子”というやつだ。
瞳と髪の色だけは恋人のソフィーに似ているが、それ以外に華やかさの欠片もない女だ。
――だが、それでいい。
こいつは、俺たちの未来のための“道具”なのだから。
身分違いで結婚できないソフィーのために、俺はこの女を徹底的に従わせ、利用する。
そのための結婚だ。
「いいか。君を愛するつもりはないし、ベッドを共にするつもりもない」
ようやく本音を言える。
婚約から結婚式……そしてこの初夜の寝室まで。この女の機嫌を損ねないよう取り繕ってきた時間は、正直なところ苦痛でしかなかった。
「俺には、永遠の愛を誓った恋人がいる」
新妻の顔が絶望に染まる瞬間を想像し、俺は内心でほくそ笑んだ。
「……なるほど。状況を整理しますね」
だがセレスは絶望するというよりも、考え込むような素振りでそう言った。ベッドに腰掛けることもせず、俺を観察するように見つめている。
「つまり、婚約前から私が見てきたあなたは、結婚するための偽物だった……。そういうことですか?」
「まあ、そうだな。俺の顔と爵位に、いいように食いついてくれたな。滑稽だったよ」
「恋愛というバグの多い非論理的挙動を、自らを検体として実地検証できる絶好の機会だと思っていましたが……。どうやらその機会は、失われてしまったようですね。あっ、ですが、私の脳内で、フェニルエチルアミン(PEA)の分泌が、急激に失われていくのを感じます。どうやらこれが『百年の恋も覚める』という状態のようです。これはこれで興味深い……!」
セレスが話しながらメモを取りはじめた。いつの間に……そしてどこから取り出したんだ? それに……くそっ、何を言っているのか、まるで理解できない!
「説明しましょう。人は恋愛状態に陥ると、脳内ではフェニルエチルアミン(PEA)という脳内伝達物質が過剰に分泌されます。これは、いわゆる『恋の病』を引き起こす天然の麻薬のような物質です。これが分泌されると『多幸感』と『全能感』を感じます。『幸せで、この先の未来は全て上手くいく』という感覚です」
ほほう、なるほど。まさに俺の感じていること、そのものだな。ソフィーとの幸福な未来。この女はその礎にしてやるのだ。
「ところが……です!」
ビクリと肩が跳ねてしまう。なんでこの女はこんなにも楽しそうなんだ? 今、俺に『愛していない、これからも愛さない』と言われたばかりなんだぞ?!
「フェニルエチルアミン分泌はせいぜい2年から3年なんです。『恋愛』とは期間限定的に脳が陥っている一過性の認知バイアス……、わかりやすく言うと『状態異常』ですね」
「状態異常だと?」
俺のソフィーへの崇高な想いが、毒や麻痺に侵されているのと同じだというのか?
「はい、残念ながら。この状態に陥ると、相手の何もかもが素晴らしく見え、判断力が落ちて論理的な思考ができなくなります。『恋は盲目』と言われるのは、このためです。他のことに手がつかなくなっていたりしませんか?」
「た、確かに……。だがそれは俺たちの恋が特別で、運命だからだ!」
「いいえ、恋愛の初期状態には、ごく当たり前の感覚です。相手に集中して生殖活動を行い、効率的に妊娠・出産へと駒を進めるための本能の生存戦略ですよ」
「本能の……せいぞん、せんりゃく……?」
「そう。そして、悲しいお知らせがあります」
「な、なんだ……?」
「フェニルエチルアミンは約3年程度で分泌されなくなる……。そして同じ相手には、二度と分泌されません。あなたの今の気持ちが永遠に続くことは、生物学的に不可能です。これは1人に固執し過ぎた場合、遺伝子の拡散が非効率になるからです。――つまり人間は、恋愛を長く続けるようには設計されていないのです」
「恋と愛は違うだろう! 俺とソフィーの愛は、子供の恋愛ごっこじゃない!」
あまりの言い様に、俺は声を荒らげてサイドテーブルに拳を落とした。ドンッという音と共にテーブルが激しく揺れて、ワイングラスが倒れる。
だがセレスは、怯えることも狼狽えることもなく、平然として言った。
「そうですね……。あなたの私に対する排他的・暴力的な行動は、オキシトシンの分泌がはじまっているのかもしれませんね」
お、おきし……? なんなんだ、それは……。
「幸せホルモンや、愛情ホルモンと呼ばれる脳内伝達物質ですが……」
「ほら見ろ! 俺のソフィーへの想いは恋を凌駕して、愛へと至っている!」
「オキシトシンは、正しくは特定個体への結びつきを強化するための神経調整物質です」
そんな話は聞いたこともないぞ。何を根拠に言っているんだ?
「特定の相手にのみ執着・依存し、その人を守るために排他的になります。恋愛期間を経て相手が妊娠すると考えると、オキシトシンはとても合理的な仕事をしていますね」
セレスがうんうんと頷きながらメモを取る。
「なんだその、観察するような視線は、不愉快だ!」
「あなたは、フェニルエチルアミンが分泌されて、盲目的に恋に浮かれ、恋人の妊娠でオキシトシンが分泌し、私を傷つけてでもソフィーさんを守ろうとした。そして今は『これで幸せになれる!』とドーパミンに酔いしれている。脳内物質のフルコースですが、実に教科書的な反応です」
「俺の意志ではないというのか?」
「そうとも限りません。人間には、理性と倫理観がありますから。なかなかここまで、本能に忠実な行動には出られません。大変希少で有意義なデータを得られました」
それだとまるで、俺には理性と倫理観が欠如しているみたいじゃないか。
セレスは満足そうにふふっと笑い、メモ用紙をテーブルの上に置いた。
「では、本能が仕掛ける、生存戦略の話をしましょうか」
「はっ? なぜ?」
「人はなぜ、恋をし、愛するのか……という話です」
う、うむ、聞こうじゃないか。それが終わったら、俺とソフィーの運命的な出会いを聞かせてやろう。
「生物の究極の生存目的は、自分の遺伝子を次世代に残すことです。この点は、貴族の徹底的な血統管理は理にかなっていると言えますね。ライオンのオスが群れを支配する時に、前のオスの子供を全て殺すのに似ています」
なんだその血なまぐさい話は……だが、確かに。王朝の変わり目には同じことが起きるな……。獣のオスと同じ……?
「次代に自分の血統を残すには、何が必要か分かりますか? そう……、生殖行為です」
いや俺は、何も言っていないぞ? 若い女がなんてことを……!
「恋愛とは、効率的に生殖行為を促すための、行動制御プログラムです。出産や育児には多大なリスクとリソース(資源)を必要とします。そのリスクを自覚させる前に生殖を行わせるのが恋で、出産と育児にかかるコストを背負わせるのが愛です。『多幸感』や『万能感』『性行為の快楽』はその報酬……餌と言い換えてもいいかもしれませんね」
「そんなはずはない! 俺とソフィーは運命に導かれて出会い、お互いに一目惚れして結ばれた。リスクとかコストとか、下世話なことを言うな!」
「一目惚れですか。ソフィーさんは美しい人なんですね?」
「ああ、お前とは比べ物にならないくらい、華やかで美しい! 平民とは思えないくらいにな!」
どうだ、傷つけてやったぞ! 貴族女性の美への執着は相当なものだからな!
「あなたが、なぜ美しい女性が好きなのか説明しましょう」
あれ、それほど傷ついて……ないのか?
「人間が美しいものに惹かれることに、理由などあるものか!」
「いいえ、あるんです」
セレスが不敵に笑った。ゾクリと震えが走る。医者に冷たい聴診器を背中に当てられた気分だ。
「顔が左右対称であればあるほど、人は「美しい」と感じます。左右対称な顔は成長が順調だった証拠なんです。病気にも強く栄養状態も良くて、遺伝的なエラーも少ない。つまり“健康で優秀な遺伝子を持っている可能性が高い”」
「そ、それのどこが悪いんだ! 美しいから優秀な子を産めるんだろう? 素晴らしいじゃないか!」
「順番が逆なんですよ。味覚で説明しますね。人は『美味しいから食べる』のではありません。必要な栄養素だから、人間が食べたくなるよう脳が『美味しい』という味覚を作ったのです」
どういうことだ? よくわからん……。くそっ! こんな女の説明が理解できんとは、屈辱だ!
「味覚と同じですよ。『きれい』は脳が優秀だと判断した相手に、あなたが手を伸ばしたくなるように設定された感覚です」
「……誘導されているというのか? 俺がソフィーに惚れたことさえ、自分の意志ではないと?」
「私はあなたが美しいソフィーさんに一目惚れしたことこそ、本能の生存戦略が勝利した実例だと思います」
こいつ……なんでこんなに人を丸め込むのが上手いんだ? 理系女子ってみんなこうなのか? あっ、またメモを取っている! 俺を研究対象のように扱うな!
「お前だって俺の顔にポーッとなっていたくせに! お前だって生存戦略とやらに負けてるじゃないか!」
「それは認めます」
おお、はじめて勝てそうだ!
「ですが……」
あっ……『ですが』が来た……!
「大脳新皮質(理性)が扁桃体や視床下部(本能)に負ける瞬間を、自分の体験として確認できました。大変興味深いです」
おかしい。理論で勝ったはずなのに、少しも嬉しくない。
✱ ✱ ✱
その時、寝室のドアが大音響と共に開いた。
「ハロルド! け、結婚したって本当なの? どうして……!」
ソフィー! なぜここに?! どうして誰も止めないんだ!
「あ、あなたが、花嫁なの? だめよ! ハロルドは私と愛し合っているの! 永遠の愛を誓ってくれたのよ!」
ソフィーが泣き腫らした目でセレスを睨みつけ、掴みかかる勢いで詰め寄った。
「やめるんだソフィー! この女にそんなことを言ったら、何を言われるか……!」
「なるほど、浮気に対する女性の嫉妬が、相手の女性に向かいやすいという実例ですね」
ほら、始まった!
「男性の嫉妬は、自分以外の男性の子供を作られるリスク管理です。それに対して女性の嫉妬は、競合相手を排除し、パートナーを自分に縛りつけリソースを確保するための“生存戦略”です」
「私が財産目当てだって言いたいの? そんなんじゃないわ!」
「リソースの中には、愛情も含まれます」
「えっ、あ、うん。そ、そうなんだ……?」
ソフィーがきょとんとした顔で、俺の方を振り向いた。説明を求められても困る。俺だってこの女の言っていることの半分も理解していない。
「あ、あの、私、妊娠しているの。ハロルドの赤ちゃんがお腹にいるの。だから、この子のために、あなたに負けるわけにはいかないの……」
セレスは、ソフィーの尻すぼみになった言葉を聞き、カッと目を見開いた。
「なるほど。ソフィーさん、あなたは間違っていません。妊娠、出産、育児は、女性にとって非常にリスクとコストが高い。そのリソースを脅かす私を『危険因子』と判断するのも、無理はありません。ですが……」
ああ……『ですが』だ。ソフィーが論破されてしまう……。
「一旦、落ち着きましょう。深呼吸して、こちらのソファに座って下さい。興奮しては母体とお腹の赤ちゃんによくありません」
あれ、優しい……?
「あなたはこの男性が、自分になんの相談もなく結婚したことを、憤っている。あなた方は別れ話すらしていない。ここまで合っていますか?」
「ええ。昨日だって『俺に任せておけば全て上手くいく』『愛してるよ』って言ってくれたわ。なのに、結婚したって聞いて……。どうしてって……!」
「お、おお、俺の愛しているのはソフィーだけだ! この結婚は形だけのものだ! 今、こいつにその話をしていたところだ!」
「……そうなの?」
ソフィーがチロリとセレスを上目遣いで見た。全くもって愛らしい。理屈ばかり捏ねるセレスとは比べ物にならない。
「おおむね間違っていませんが、私もソフィーさんという恋人がいることも、私と誠実な夫婦関係を結ぶつもりはないということも初耳です。これは明確な『結婚詐欺』にあたります」
「……そうなの?」
今度は俺をチロリと睨む。はぁー、愛しさが爆発しそうだ。これがなんとか物質の分泌なのか? それが何だというのだ。幸せで愛しければ、それでいいじゃないか!
俺は自信満々に、ソフィーへの愛を謳い上げた。
「ああ。俺はソフィーとの愛に生きる。子供のことは心配するな。そのためにソフィーと同じ色のこの女と結婚したんだ」
決定的な言葉を浴びせかける。自分が選ばれた理由を知れば、いくらこの女でも泣き崩れるだろう。俺はそう確信して言ってやった。
「ああ、だから私の目の色と髪の色を、結婚の条件として重要視していたんですね。ようやく腑に落ちました」
だが、セレスは少しも取り乱さなかった。むしろ、難解な数式の答えを見つけた学生のような、さっぱりとした表情を浮かべている。
「どういうこと?」
「この男性は、あなたとの子供を、私が産んだことにして、この家の正統な後継者に仕立て上げるつもりです」
「えっ、それって、私は赤ちゃんを育てられないの? 一緒に暮らせないの?」
俺は今更ながら、この面子で会話することの厄介さに気がついた。ソフィーへの愛を歌えばセレスに突っ込まれ、セレスを納得させようとすれば、ソフィーを傷つける。
「そ、それは仕方ないだろう? 君は平民だ。結婚は無理だ。だからといって、俺の子供が平民になるなど耐えられない」
「私から赤ちゃんを取り上げるの? 結婚は無理って……。じゃあ、私は花嫁にも、妻にも、お母さんにもなれないの?」
「ソフィーは一生、俺の恋人でいればいい」
俺としては、情熱的でロマンチックな、最高のプロポーズのつもりだった。
「一生、日陰の……。生まれた子供を、取り上げられて……」
だがソフィーは、俯いて顔色を悪くしている。プロポーズの返事も口にしようとしない。意図が伝わっていないのか?
「すみません、お取り込み中、失礼します。ひとつ確認なんですが、それは私が受け入れるという前提が必要ですよね?」
「受け入れないのか?」
「逆にお聞きしたいですね。なぜ受け入れると思えるのですか? 結婚詐欺を」
「詐欺詐欺言うな! お前は俺に惚れていただろう、お前が望んだ結婚だ!」
確かにセレスを利用しようとしていた。でもそれは詐欺などではないだろう? 契約結婚など、それほど珍しい話ではない。
「では……今は結婚の継続を望んではいないので、離婚しましょう」
「結婚式の当日だぞ?!」
「結婚詐欺。加えて、血統詐称の意図が明確です。貴族の後継問題に関わる犯罪として、問題視されます」
「大げさにもほどがある!」
ふと視線を向けると、さっきまで顔色を悪くしていたソフィーが、しっかりと顔をあげて、俺とセレスのやり取りを聞いていた。その無表情で観察するような視線は、どこがセレスに似ている。
「たった一日で離婚など……女は醜聞になるぞ!」
「結婚詐欺で収監される、あなたの醜聞にはとても敵いません。近年の法改正をご存じのないのですか?」
侯爵家の嫡男である俺が、収監だと? あり得ない! 少なくとも、当主である父上は俺を守ってくれるはずだ。なぜなら父上にだって愛人がいた。
「家督継承と血統維持の観点から見ても、托卵など許されることではありません。血統の正当性は、この国の貴族制度そのものを支える基盤です。そこを偽装する行為は、家だけではなく“制度そのもの”への裏切りと見なされますよ」
情報過多で頭がついていかない。だが『もう一度言ってくれ、もしくはもう少し易しく』などと、言えるわけがない。男の沽券に関わる。
「ソフィーさん、あなたは共犯者ではなく被害者なので、私と一緒に朝一番で侯爵夫妻の元を訪ねましょう」
「私……、消されたりしないかしら?」
「……あり得ますね。やめましょう。いっそ公開裁判にしてもらいましょうか。そうすれば、いくら侯爵家とはいえ、手出しはできなくなります。公開記録に残った時点で、庇えば共犯と見なされますから」
「そうかしら? 事故に見せかけてとか、ありそうよ?」
「裁判の冒頭でこう宣言すればいいのです」
『治安当局の皆様、この先、私や私の家族が事故に遭ったり、行方不明になった場合、必ず一番最初に侯爵家を捜査して下さい。本日の傍聴人の皆様は、私亡き後、その見届人となって下さい』
「わあー、煽ってるー! でも格好いいかも!」
「ふふ、そうですね」
おい、待て! なぜソフィーがそっち側なんだ!
「さっきの『ソフィーは一生俺の恋人でいればいい』で目が覚めたわ。フェニルエチルアミンとオキシトシンの分泌がピタッと止まった。『百年の恋が覚めた』ってやつね」
なぜソフィーがその分泌物を知っている? セレスが説明している時はいなかっただろう?
「あまりのショックで色々、思い出したの。そもそも、あなたの計画って、あなた以外は誰も幸せになれないじゃない。私は子供を取り上げられた上で、いつ捨てられるかわからない日陰者。セレスさんは愛人の子供を育てさせられて、子供は愛を知らずに育つ。ゲス過ぎて引いちゃったわ」
「ソ、ソフィー……、どうしたんだ? 別人みたいだぞ」
「ふふ。生まれ変わった気分……! ちょうどいいわ、だって私はお母さんになるんだもん。以前のソフィーは、甘ちゃん過ぎる」
「もしかして……ソフィーさん、記憶が?」
「うん、さっき突然。私は平成生まれなの。セレスさんは?」
「私もです。それは嬉しい偶然ですね。あっ、ソフィーさんの場合は慰謝料だけではなく、生活の保証費や養育費ももらえますよ」
「ほんと? 助かる! 子育てはお金掛かるから!」
「協力しますよ。二人で育てましょう。ところでソフィーさん、錬金術とか興味あります? この世界の錬金術、とても面白そうなんですよ」
「セレスさん、錬金術師、似合うわー! あたしは魔導具とかやってみたいなー」
「おい、待て! どこへ行く気だ!?」
「もうここには用がないもん。二人で宿屋でも借りるわ」
「逃げてもいいですよ。あなたに貴族の地位もプライドも全て捨てられるなら」
逃げる……? 本気で治安当局に訴えるつもりなのか? とても貴族令嬢の思考回路とは思えない。社交界で笑いものにされることが、怖くないのか?
「ねぇ、最後に一発、いっとく?」
「いいですね! 一発目は譲ります」
「じゃあ、失礼するね」
ソフィーがニコニコと俺に歩み寄って来た。なんだ、やっぱり未練があるんじゃないか。何か悪いものでも憑いた様子だったが、やはり俺のソフィーは……。
そっと抱きしめようとしたら、いきなり横っ面を張り倒された。
「な、何をする!」
「愛してたわ。でも、もう無理。私はあなたの愛玩用品じゃない」
「あ、あいがん……違う、そんなつもりじゃ……!」
続いて、セレスが背筋をピンと伸ばして、まっすぐ歩いて来る。嵐の後にたった一本、棘を隠さずに咲く野ばらのようだ。
俺はなぜこの女を地味だなどと……。
思わず見惚れていたら、やはり頬を張られた。ソフィーと反対側の頬だ。
「あなたに恋をしました。初恋でした。こんな結果になって残念です」
何も言えなかった。ジンジンと痛む両頬を押さえて立ち尽くす。
『恋は脳が見せる夢で、愛は本能が課す役割』
あの女は、そう言っていた。
それでも人は、自分の意志で未来を選ぼうとする。
あの二人は未来に向かって軽やかに歩き出した……。
そして……俺の手の中には、何も残らなかった。
こういう時こそ……。
脳が何か都合のいい伝達物質でも、分泌してくれると助かるのだが。
※本作に登場する本能や伝達物質に関する記述は、必ずしも学術的に正しいものではありません。あくまで作者の独自の解釈と偏見で組み立てられたフィクション上のロジックです。娯楽作品として、さらっとお楽しみいただければ幸いです。
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