9話 選択
陽に照らされて乾いた、ちょうど二人が座れるくらいの大きな石にアリーアが座るとルークもその横に座った。あの嵐で川の上流から流れてきたのだろうか。腕が触れるくらいの近距離。アリーアは自分の鼓動が早くなるのを彼に悟られないよう、少し体を離した。
アリーアは湖を眺めながら、努めてゆっくり冷静に、ルークを意識しないように独り言のように言った。「湖で以前のように一人で暮らしてもいいし、これからも私の家で二人で暮らしてもいい、どちらを選んでもいいよ。ルーク、君の好きにして。私は家に戻るから。もし二人で暮らしたいと思えば、訪ねてきて。」と。彼女はルークを湖に残して一人家に戻った。
どれ程時間がたっただろう。彼には家に来て欲しかったのに、どうしてあんな酷い言葉を言ってしまったのか。どうしてあんな選択をさせてしまったのか。素直に、なりふり構わず一緒に暮らして欲しい、と言えば良かったのだ。どうしてあんな意地を張ったのか。誠実であろうとして、誠実ではなかった。自分の本心を偽り、彼に選択させることで、より強く彼を縛ろうとしていた自分がいる。なんて浅ましい、本当に自分のエゴに嫌気がさす。カチカチという時計の音が耳障りだ。寂しい。窓から茜色の夕陽が差し込んでくる。寂しい。
きっと彼は元の場所に戻ったのかもしれない。もうここへは来ないだろう。ただ涙が流れ続ける。また一人に戻っただけ。そう思っても寂しい。戸をノックする音が聞こえた。こんな最悪な時に誰が訪ねてきたのだろう。涙を拭き戸を開けると彼が立っていた。彼女の服から細く長い手足が窮屈そうに出ている。思わず、涙が溢れた。「ありがとう。」その言葉を言うのがやっとだった。彼は少し困った顔で彼女の体をそっと抱きしめてくれた。彼がいてくれるだけで、もう十分だ。




