8話 森
お風呂から上がってきた彼は…うっ!腰にタオルを巻いただけ。しかも拭いてない。もう一枚タオルを用意し体を拭き、着替えを促した。服から彼の筋肉質な細く長い手足が予想以上にはみ出している。華奢だと思っていても彼女の服では窮屈そうに感じる。嵐が収まったら、彼の身の回りの物を用意しよう。いや待て!同居を前提で物事を考えている自分に戸惑ってしまう。彼の意向も聞かなければ。決して自分の気持ちを押し付けてはいけない。それから彼女もお風呂で体を温めた。お風呂から上がった彼女の姿を見て、彼は目をそらした。アリーアは後悔した。うっ!私はグレーのトレーナー姿だ。すまない。お見苦しいものを見せてしまった、と。
簡単な食事を二人で静かに味わったが…緊張で味がわからなかった。美味しく食べてもらえただろうか。それを聞く勇気もなかった。
彼はソファに体を横たえると、あっという間に眠りについた。きっと疲れていたのだろう。彼の体に新しい毛布をかけると穏やかな寝顔につい見惚れてしまう。「ルーク、どうか、いい夢を。おやすみ。」。電灯を消して彼女は自分の部屋に戻った。
さらに嵐は2日間続いた。その間、日中は二人同じ部屋で過ごした。彼は窓から心配そうに嵐の様子を見て過ごし、彼女は彼を意識しないよう、歴史書の山と格闘した。大好きな歴史書で、もう何度も読んだ本ばかりなのに内容は全く頭に入ってこなかった。とりあえず読んでいるふりをしていた。それが彼女にとっては、なんとも幸せな時間だった。思わず心の中で「嵐よ、ありがとう。」と思ってしまっていた。
やっと嵐がおさまった早朝、二人で湖の辺りに行ってみることにした。木々の枝は折れ、葉は濡れた地面に張り付いている。岩陰には落ち葉が吹き溜まって塊になっている。幹の折れた木さえある。川が氾濫したのだろうか。折れた木や枝が川の流れを堰き止めている。動物たちの水飲み場にも木や枝が押し寄せていた。彼が手から虹色の光を放つと折れた木や枝が消えていき、少しずつ元の姿を取り戻し、動物たちが集まってきた。地面に作り出された小さな水の流れがキラキラと輝き、元の森に戻ろうとする力がなんとも綺麗だった。エルフの自分が思うのもなんだが、彼は本当に森の妖精そのものだった。
彼の虹色の光は不思議だった。この世界で魔法はよく眼にする。ほとんどの人が簡単な魔法なら扱える。意識を魔法に込めて力として発動するものだ。でも彼の魔法は今まで見たどの魔法とも違っていた。虹色の光は魔法なのかさえわからない。虹色の光そのものが彼の意識が向かう道筋として現れるだけ…そこには力もないのに強い意識が存在する、そんな感じがした。
彼は青い空を見上げると木漏れ日に目を細めた。ふとアリーアは災いとはこんな嵐みたいな感じなのだろうか、と思った。災いが過ぎれば、全て自然に回復していき、何事もなかったかのように忘れてしまうのだろうかと。それではあの預言の中の青年に神様は何を託しているのだろう。答えの出ない問いだ。




