6話 出会い
湖を訪れるようになって何度目の夜だろう。彼はそこにいた。相変わらず儚げでありながら、整った筋肉、端正な顔。彼の元に集まったすべての魂を彼の手から放たれる虹色の光で守っているかのようだった。ああ、これが祝福というものかもしれないと思った。光に照らし出された彼はそのまま光に溶けてしまいそうなほどだった。
どれほどの時間、アリーアは彼を見つめていただろう。はっと気づくと彼は静かに彼女のすぐ近くまでやってきて立っていた。木陰に隠れていたアリーアにとっくに気づいていたのだろうか。彼女はどうしたらいいかわからなかった。のぞいていたのは自分だ、何を言われても仕方がないと覚悟した。でも彼は彼女を見ているだけで怒っている様子はなく、ただ優しい表情で立っていた。恥ずかしい、穴があれば逃げ込みたいくらいだ。彼女自身は普通の男性くらいの身長はあるはずなのに、それでも彼が自分を見下ろしているのがわかった。
彼女は彼の瞳を見たい衝動にかられ、彼女は顔をあげ彼を見あげた。でも彼は何も話さなず、静かにじっと彼女を見つめているだけ。アリーアは困った。「こんばんは、冷えますね。」と本当にくだらない挨拶を試みた。すると彼の目が少し笑いかけてくれたが、またすぐに元の優しくも儚げな表情に戻ってしまった。本当に綺麗な瞳…。自分がアリーアという名であること、この近くの家に一人で住んでいることを話した。自分の無防備さに一瞬焦ったが、それよりも彼と話せる嬉しさで声が弾んでいるのが自分でもわかった。彼は何も話さず、ただ黙って彼女の話を聞いていた。彼の名前を尋ねたが返事はなかった。言葉は理解できているようだが、もしかしたら話せないのだろうか。記憶をなくしているのかもしれない。とりあえず呼び方を決めても良いか尋ねると、頷いた。トム、レイン、クライ、…彼女の叔父や知り合いの名前を順番に言っていくと、彼は「ルーク」のところで軽く頷いた。ルークと呼んでも良いか確認してみると、また頷いた。彼女は微笑んだ。子供の頃に家に迷い込んできた大好きな犬の名前だ。ピッタリだ。
その時の彼は、前回見た時と同じ、ほぼ肩から布をかけているだけだった。だから彼女は目のやり場に困った。それでも話をやめたくはなかった。自分が教師をしていた事、今は森の家で歴史の本を読んだりして過ごしている事を話した。でも預言書については彼に話す気にはなれなかった。これだけは言えない、言えば、この時間が終わってしまう気がした。彼はただ彼女の話に静かに耳を傾け、優しい表情で聞いてくれていた。
彼女は否定したかった。学院長が言ったような、私が導く者であるはずがない。もし導く者なら、あの預言に書かれた一人の青年はルークなのか?私はルークと偶然出会っただけだ。探してなどいない。ただ再び会えることを期待してこの湖に通っていただけだ。心の中でこの儚げな青年が決して預言の中の青年ではないことを心から心から祈った。




