5話 災い
アリーアが森の家に戻ると机の上には再びあの預言書が置かれていた。なんで…。もう考える気力もない。この不気味さにも慣れた。慣れたというより、学院長の話をほぼ信じている自分がいた。だから、預言書を見ても、やっぱり…という感想しか起こらなかった。身体も、心も、もう疲れた。ココアを飲んで熱めのお風呂に入った。
少し落ち着くと、預言書のページを開いた。学院長室で見た預言の内容には驚いたが、きっとそれは自分の記憶違いだったのだろうと思った。学院長の言う書き変わりながら預言が実行されていくなんて、到底信じることができなかった。それにあの学院長はまだ何かを隠している。いや、言えない事があるのかもしれない。あの学院長の悲しく、でも確信のある言い方が忘れられなかった。学院の図書館からまた戻ってきた預言書をどうしたものか考えた。そして預言書を戸棚の奥に置くと鍵をかけた。これでもう書き変わるなんてありえない、と自分の不安と共に戸棚の奥にしまい込んだ。
アリーアは好きな歴史書、特に近代史書を机の上に積んだ。そしてひたすら読んだ。預言書のことを忘れるように、気にしないように…。歴史は平穏と戦乱を繰り返している。戦乱が起これば偉大な王や勇者が現れ、再び平穏な世界をもたらしていた。そして、またその平穏の中に綻びができ始めると、戦乱の世になる。人々の愚かさは痛々しい程、歴史の中に埋もれている。そんな史実の中に生きる王や勇者、民の姿を想像する事が好きだった。
でも今は、無意識のうちに災いについて探し出そうとしている。高く積み上げられた史書の何処にも神がかった災いの記述がない。災いかどうかなんて考え方次第だ。それがたまたま預言書に現れた内容と似ていれば、神がかった災いと言えるかもしれない。学院長の言葉と、この預言書の不気味さが合致しているから、彼女自身が信じ始めているように。でも大預言者としてシュビラムの名前は残っているのに預言が残っていないチグハグさがアリーア自身を悩ませている。どこが大預言者なんだ。
学院長の言葉はやはり頭の中で反芻される。そして、あの時学院長はなぜあんな悲しい顔をしたのか、わからない事が多すぎる。深く息をすると、今夜もあの湖に行ってみる事にした。彼に会いたい。淡い期待だ。




