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4話 神殿

 ついに預言は動き出した。学院長はアリーアが学院を出ると神殿に向かった。預言の中の「人心を惑わす地の神」とは神殿のことではないかと感じたからだ。

 今の神殿の状況を学院長は長年憂えていた。特に最近は、人々に高額な寄付をするほど神から祝福が与えられると言い、寄付できない人には冷酷な言葉さえ投げつける有様だった。彼らに災いが起こっても自ら招いた事だとも思った。だが学院長はただ一人のためにそれを食い止めたかった、どうしても…。預言が発現している間だけ呼び起こされる記憶の中の人のために。



 神殿の一室ではそこが神殿だとは思えない光景が繰り広げられていた。毎晩神官たちの酒盛りが開かれていたのだ。ただ一人、若い神官のオーランだけが祭壇を念入りに清めてから、ひざまづくと一心に祈りを捧げ、騒ぎ声のする部屋からは遠ざかっていた。オーランが祈りを捧げている姿を他の神官たちは「また、一人だけ善良ぶりやがって。」と言って通り過ぎて行った。オーランは彼らから受ける扱いにはもう慣れていた。そして気にしないようにした。以前オーランは一度だけ上級神官に相談したことがあったが、かえって戒められた。それからは一人黙々と、神官として精進し、いつかこの神殿を神の祝福で満たしたいと祈りを捧げ続けた。ただ自分の信じる事を行うという一点に、逃げ道を求めていたのかもしれない。逃げているだけの自分は他の神官たちと何も変わらないと思って落ち込む事もあった。今の神殿はもはや神に祈る場所などと、口が裂けても言えない状態にまで荒んでいた。

 

 学院長は神殿に着くと、発現した預言の内容を上級神官たちに示していた。今の神官たちの振る舞いこそ災いの元凶であり、必ずこのままではこの神殿に災いが起こると説得していた。今なら、まだ助かる余地があるかもしれない、自らを省みて欲しいと訴えた。いつもなら街の有力者である学院長を無碍にもできなかった神官たちだが、今回ばかりは学院長の糾弾に対して、「曖昧な預言の『地の神』が我々神官を指すとはあなたの思い過ごしだ。私たちは神に使える身だ。神から災いをもたらされるはずがない。」と反論した。さらに神官たちは、そんな呪いの預言書を書いたシュビラムこそ捕らえるべきとし、シュビラムを探すよう各方面に手配書を出すと言い出したのだ。

 

 学院長はこれほど神官たちが愚かだとは思っていなかった。顔も年齢も性別さえ謎の大預言者を探し出す手配書など無駄だとわからない彼らに訴える言葉はないと感じた。そしてその災いがやってきた時、本当に後悔すればいい。その災いが過ぎて、次の平穏が訪れるなら、それはそれで良いことだとも思った。それほど学院長は名ばかりの神官たちを見限っていた。だがそれでも、やはり災いを止めたかった。何より、自分は記憶の中の人がまた傷つき苦しむ事が辛かった。自分には、この神官たちに訴えるしかできない、災いを止められない自分の無能さが何よりも悲しかった。神官たちは学院長に自分達はこれから祈りの時間だと言い、学院長を神殿から追い返した。


 学院長は神殿を後にしようとした時、オーラン神官とすれ違った。この若い神官が初めて神殿にやってきた時、来賓の一人として学院長も神殿に呼ばれていたのだ。若いオーランはこの神殿に来たことを喜び、この神殿を神の祝福で満たしたいと目を輝かせて言っていた。だがそれを他の年長の神官たちは冷笑していた。確かにそれは今のこの神殿では難しいことだが、学院長は真剣にそれを望む若いオーラン神官が好きになった。そして彼が他の神官と同様に荒んでいかないよう気を配り、常に声をかけていた。「オーラン神官、この頃どうですか?」と尋ねると彼は困ったような顔になったが「毎日、この神殿の礼拝堂で一人静かに祈りを捧げられることが私の幸せです。」と小さな声で答えた。この神殿内がどれほどの状態になっているかを知るには十分な答えだった。


 帰り道、ふと、もしかしたら神官たちはシュビラムを探す事を諦めた時、預言を導く者を探そうとするかもしれない、もしもアリーアが預言を導く事を失敗すれば災いは止まらず暴走し、この世界は災いに飲み込まれてしまうだろう事に気がついた。アリーアが導く者である事を誰にも悟られてはいけない。彼女とは災いが終わるまで連絡を断つ事にした。決して、特に神官たちには知られてはいけない。ただただアリーアの無事を祈り、学院長はこの災いを止めるために自分にできる事をしようと決めた。

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