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3話 預言書

 アリーアは森の家に戻って軽く朝食を食べ休息を取った。彼に気づかれないよう、緊張しながら朝まで彼を見つめ続けていたせいで、疲れ切っていたのだ。まるでストーカーだ。いや、彼を守ろうとしていた親のような心境だと自分に言い聞かせても、彼の姿を忘れる事はできなかった。これ以上考えたら、本当にストーカーになってしまう。彼の事よりも預言書の事が問題だと思いながら、やはり彼のことを考えてしまう自分がいた。目が覚めてから預言書の事を考えよう。今は眠りたい…ベッドに横になるとすぐに眠りにおちた。



 一人の精霊が この預言を導く

 精霊は探す 一人の青年を 

 しばしの安寧

 背の「刻印」が証

 それは人心を惑わす地の神にもたらされる災い

 固く扉を閉じ 災いが過ぎ去るのを待て

 天の神は 災いを鎮めることを 一人の青年に託す 



 翌日、結局アリーアは自分が預言書の事を何も知らない事が問題だということに行き着いた。それなら知っていそうな人に聞かなければいけない。学院長に会うのは、あの解雇宣告の時以来。会わずに済むなら会わずに済ませたかったが、そうもいかない。目の前に現れた不気味な預言書の事を確かめたかった。普段着から少し堅苦しすぎると思われるくらいの服に着替え、先日までの職場だった王立高等学院に向かった。


 正門をくぐると、かつての教え子、同僚たちが彼女に向ける視線は冷たかった。彼女が学院長に面会を申し込むと秘書は驚いたような顔で彼女を見たが、胸に抱かれた預言書を見てすぐに学院長の部屋に通してくれた。「待っていましたよ。」学院長はアリーアが尋ねてくることを知っていたかのような口ぶりだった。学院長はフッと口元を緩め「あなたを待っていたわけではありません。私はその預言書を待っていたのですよ。秘書には古びた本を持ってきた人がいたらすぐに通してくださいと伝えてありました。」なるほど、だからこんなにあっさり学院長に面会できたのだ…納得。学院長は落ち着いた声で「アリーア先生…いやアリーアさん、あなたでしたか…。」と彼女の胸に抱かれた預言書を見て言った。アリーアはその時、あの本に触れていたもう一人の人物が学院長なのだろうと感じていたが念のために確認した。「図書館の奥に置かれていたこの預言書に触れていたのはノーマン・ブランド学院長、あなたなのですか。」。


 学院長は頷くと…しばらく考えて「何から話したら良いでしょうね。」と言葉を選んでいた。「アリーア先生、いえ、アリーアさん。その預言書があなたの元に現れた時、きっと驚かれたことでしょうね。それはあなたがその預言書に選ばれたという事です。それは決して幸いとは言い難いですが、ただ、その役目からは逃れられないのです。」。この学院長は何を言ってるんだ?アリーアの頭の中はフル回転で学院長の言葉を聞き逃すまいとしながら、言葉を組み立てて行った。いや、組み立てれば組み立てる程、もうわけがわからない世界に自分が巻き込まれようとしているのがわかった。心の中ではこれ以上聞いてはいけないと警鐘が鳴っている。でも、それを聞きに来たのは彼女自身だ。学院長の言葉を遮るわけにはいかなかった。


 「アリーアさん、預言のページを開いていただけますか。」と学院長が頼むと、アリーアは胸に抱いていた預言書をテーブルに置き預言のページを開いた。今開いた預言の内容は、昨日まで彼女が見ていた内容とは違っていた。誰が…。アリーアは声をあげそうになったが、学院長に気取られないよう、瞬時に咳をしたそぶりで誤魔化した。でも学院長はそんなアリーアの様子を見逃してはいなかった。


 学院長はアリーアに告げた。「まず、預言書には時々一つの預言が現れます。」ん?時々?ん?現れる?「その預言は誰が書いたわけでもありません。自然に預言書に浮かび上がるのです。」ん?自然に?「そしてその預言は必ず起こります。」ん?必ず?「アリーアさん、馬鹿げていると思っているでしょう?でも本当なのです。きっと、あなたはこれから、その事をご自分の目で見ることになるでしょう。」。学院長は自ら入れた柑橘系の香りのするお茶をアリーアに勧めた。確かにこんな訳のわからない事を聞いている時に、このお茶の香りは頭を冴えさせてくれる気がした。学院長は「気分が落ち着きますよ。変な薬とか入っていませんから、安心して飲んでください。」と言って笑うと、学院長は一口飲んで深く息を吐いた。「こんな話は、私でさえこのお茶を飲んでしか話せないのです。」と言うとまた言葉を選んでいるかのように黙ってしまった。


学院長は再び深く息を吐くと「これから言うことは信じられないかもしれませんが、どうか最後まで聞いてください。…。先ほども言いましたが、この預言書にはたった一つの預言が、ある時、突然に現れます。そして必ずその預言は災いとして起こるのです。しかもこの預言書は意志を持っています。その預言の災いを成し遂げるために必要な人の所に自ら近付くのです。その必要な人というのがこの預言を導く者なのです。預言書が人を選ぶのです。」。ここまで一気に言うと、学院長はまたお茶を飲んで考えこんだ。アリーアは何か反論しようとしたが、実際に森の家に現れた事実を考えれば反論も否定もできなかった。さらに学院長は続けた。「預言はその預言自体を少しずつ変化させながら実行されていくのです。たぶん…私の考えですが…。」学院長は何かを思い出しているのだろうか。「導く者の道標となるように預言を変化させて必ず目的を達成させようとするのかもしれません。そしてその預言が最後まで達成されると預言は消滅します。そして全ての人の記憶から完全に消滅してしまうのです。」。学院長は悲しげな表情で「そしてまた時が来れば新たな預言が現れるのです。今また預言は発現し、今回の預言を導く者としてアリーアさん、あなたが選ばれたのですよ。」。


 アリーアはこれが真実なのだと言うことは感覚でわかっていたが、「いやいや、そんな神がかった話を信じろというのは無理です。それに天の神が災いを鎮めれば良いことであって、私が導いたり一人の青年が鎮めるために犠牲になったりなんて道理が通らないと思いませんか。」と学院長に食い下がった。これまで生きてきたあらゆる知識を総動員しても到底受け入れられるものではなく、納得できるはずもなく、どうしても拒絶したかった。


 「そうだったら…、どんなに良かったでしょう…。天の神は私たちを見守りますが、私たちの運命を変えることはされないのです。だから、その力のある者にお願いしているのでしょう。それがこの預言です。この一人の青年にしかその力はないと、天の神は言われているのです。」。学院長自身も、もしかしたら彼女のように考えた事があったのかもしれないとアリーアは感じた。


 アリーアは、それでも学院長の言葉を拒絶したかった。単なる馬鹿げた預言だ、世迷言だと否定したかったが、これ以上否定も反論する力もなかった。それほど学院長の話とアリーアに起こった現実が合致していたのだから。アリーアは関わりたくない気持ちと非現実的な事を受け入れられない気持ちから「すみません。やはりこの本は図書館の元の場所に置いて帰ります。」と伝えた。学院長は、「あなたがそうしたいなら…。」と言って彼女が部屋を出ていくのを見送った。


 アリーアは学院長室を出て図書館に向かった。そしてあの本棚の前に立った。以前と同じ闇とも言えるほどの暗がりにある本棚に預言書はなかった。彼女の持つ預言書はもしかしたら別物かもしれないと淡い期待もしていたのに、その預言書こそが先日までこの本棚にあった預言書なのだという事実を突きつけられただけだった。預言書を持つアリーアの手に力が入った。元の場所に戻されることをこの預言書が嫌がっていることが強く伝わってきたからだ。やはりこの本は意志を持っているのかもしれないと思った。それでも元の場所に本を置くとアリーアは急いで図書館を出た。家に帰ったら、ココアを飲んで暖かなお風呂に入って忘れよう。アーリアは帰りを急いだ。

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