16話 消滅
災いが収まると、人は全てを忘れた。奇妙な顔をし、なぜ家の戸も窓も固く閉ざし引きこもったのかさえ忘れてしまっていた。空は晴れ渡り、災いの痕跡など何もなかった。人々は口々に「私たち、どうしちまったのかしらと…。」
アリーアは神殿の前でひざまづき泣いていたが、その理由は自分でもわからなかった。何か忘れてはいけない事がある気がしたが思い出せなかった。ただ、言いようもない寂しさと虚無感に襲われて、しばらくその場から動けなかった。周りの人々の声に我に返って涙を拭った。森の家に戻って温かなココアを飲んでお風呂に入ろう…。ココアとお風呂…、またとめどなく涙が溢れてきた。なんだろう。
学院長とオーランが小部屋から出ると、学院長は神殿内の惨状を見て、オーラン神官の方を向き「何があったのでしょう。」と尋ねた。
オーランは、学院長の言葉から災いが終わり、災いの全ての記憶が消えたのだとわかった。「ブランド様、災いが過ぎ去ったのですよ。」と言うと、学院長は一瞬言葉を失い、そして涙を流した。「ブランド様、覚えていらっしゃいますか?」と尋ねると、学院長は首を横に振った。オーランは優しく小さな声で「大丈夫です。私が覚えています。」と独り言のように呟いた。
オーラン神官と学院長は神殿内を見て回ったが、神殿内に残っているのは二人だけだった。




