14話 祭壇
学院長は街の人々の避難を促し終え、災いの渦は大きくなっていくのをただ見ていることしかできなかった。「ルーク…ごめん。」。そして立ち尽くしていた。オーランはそんな学院長の手を取ると「ブランド様、外は危険です。どうか神殿の中へ。」と礼拝堂の中に学院長を引き入れ扉を固く閉めた。二人は奥の祭壇まで走り、祭壇の影に隠れた時、固く閉められたはずの神殿の扉は災いの渦によって開かれた。ものすごい風が吹き込んでくる。神官たちの恐ろしい断末魔の叫び声が、四方から聞こえてくる。神官たちが飲み込まれていっているのだ。オーランは祭壇の陰も危険だと、学院長の腕を取り、祭壇の陰に隠された小さな扉を開けた。
学院長は驚いた。礼拝堂の祭壇の陰にこんな小部屋があったなんて。これもきっと毎日祭壇を清め、祈りを捧げていたオーラン神官だからこそ見つけた部屋なのだろう。オーランは小部屋の戸を閉め、灯りをつけた。そこは外の風も、叫びからも二人を守ってくれているようだった。小部屋の真ん中に置かれた小さな机と椅子。その椅子に学院長を座らせ、学院長を落ち着かせようと、話し始めた。その壁に描かれている聖人たちを見て、「私はくじけそうになると、ここに来て神に祈ります。そうするといつも勇気と祝福が与えられる気がするのです。」と。きっとこれまで彼は何度もくじけそうになったに違いない。学院長は、いつかルークもここに連れてきたいと思った。叶えられない願いだと思いながら、ルークを助けたかった。でも自分はこうして何もできないまま、また災いが過ぎるのを待っているのが悔しかった。
小部屋の薄暗い灯りの中で、オーランは学院長に災いの事を尋ねた。学院長は預言書に現れる預言について話し始めた。預言は必ず災いとなって現実に起こる事。最後はいつも一人の青年が命と引き換えにその災いに終止符を打つ事を。でもそれと同時にその預言も災いも誰の記憶にも残らず、預言書からさえも消えてしまうと。学院長の目から涙が溢れた。学院長自身は預言が発現している間だけは、過去に起こってきた全ての預言の災いと青年の事を思い出せるのに、災いが終わると同時に預言の災いも青年の事も全てを忘れてしまう、いつも青年を助けられない自分の無力に耐えられないと、その声は震えていた。今、こうして話をしている間もきっと彼は災いと対峙しているのにと、涙が溢れていた。
オーランは学院長の悲しみを少しでも癒そうと、そっと学院長の背中を撫でた。その手は温かだった。そして何かを考えていた。
「ブランド様、見てください。」とオーランは壁に描かれた聖人を指差した。「あの神様は本に何かを記しています。隣の神様は本を持ったまま天を指差しているでしょう。次の神様は本を持ち、天を見て剣を振り上げています。ブランド様の話を聞いて、預言書の災いと戦う青年はまるでここの神様たちだな、って思ったんです。」。学院長は目を見開き、壁の聖人たちを見た。オーランはまた話しを続けた。「でも次は女性なのですよ。しかもその聖女が今度は本を持ち、両手を天に向かって広げているのです。」とはにかんだように笑った。学院長はこの若い神官こそ、神から遣わされた使徒なのかもしれないと、この奇跡に感謝した。でも、やっぱり私はまた忘れてしまうだろう…。




