13話 苦悩
神殿の真上に黒い雲が渦巻き、神殿を飲み込もうとしていた。災いが目の前に現れると、神官たちはこの時ばかりは神に祈った。だが、民の安寧を祈ることもせず、神の名を使い私利私欲にまみれていった神官たちに対して災いが収まるはずもなかった。
神殿では、「青年を早く探し出さなければ。」と口々に言っていた。だが、どんな人物かもわからない人を探すなどできるわけがなかった。ここにきて初めて行いを悔いる者もいたが、もう遅い。逃げ惑う神官たち。神殿を逃げ出そうとする者もいたが、結局は神殿から出ることはできなかった。街の人たちは、神殿に現れた災いを恐れた。
ルークは森の家を出て行く前に、アリーアに言わなければいけない事があった。「僕があの預言書のシュビラムなんだよ。大預言者と言われるのは、あの預言が必ず現実となる代わりに大預言者としての名声が与えられる呪いがかけられているから…。僕自身が大預言者になりたいと願ってしまったから…。」。彼の表情から深い苦悩が伝わってきた。そして静かに続けた。「災いを止める方法はただ一つ、預言に従う事、だから僕にしか止められないんだ。災いを止めなければ罪もない人々までも飲み込まれてしまう。だから災いを鎮めるために僕が存在するんだ。」。静かに息を吐くと「新たな災いが生まれるたびに僕の運命を呪ったよ。僕は生きたいと願ってしまう。でも…。だからいつしか僕は願うことをやめたんだよ。ごめん。それにね。僕が災いを止めても止めなくても、僕は災いに飲み込まれてしまうんだよ。それなら、誰かを守りたい。」。だからあんなに儚げだったのだ。ただアリーアは黙って聞いているしかできなかった。ただ涙を流すしかできなかった。
ルークは真っ直ぐアリーアの顔を見て「今度も災いを終わらせるよ。災いが終われば預言の事も僕のことも全ての人の記憶から消えてなくなる。それでもいいんだ。君が生きていてくれれば…。だから泣かないで。」。預言書に目をやり抗えない事を確認し、運命に従うことを決めると、そっとアリーアを抱きしめて口づけし災いに向かった。残されたアリーアは涙で彼の後ろ姿さえ見えなくなっていた。
学院長は災いの地の神殿に向かっていた。街の人々に叫んでいた。「決して外に出てはいけない。固く戸を閉めてください。災いが済むまで決して外に出てはいけない。災いと戦っている人がいます。どうかその人の無事を家の中で祈ってください。どうか…。」学院長の声は涙で消えそうになっていた。




