11話 喧騒
彼が森の家の生活にも慣れてきた事もあり、次はいよいよ街デビュー。アリーアは彼を街に連れて行くことにした。
彼の容姿はフードとマントでできるだけ隠した。それほど彼は人間離れしている。エルフのアリーアでさえこれ程の儚さを身に纏った生き物を見たことがない。ましてや人間。街の喧騒から彼を守るためには必要だと思えた。もし彼に少しでも異変が見えたら、即刻家に戻ることは二人で決めていた。
賑やかな街に到着すると彼とは手を繋いで、決して離さないよう細心の注意を払って歩いた。ある人からは「仲良しね。」と声をかけられれば、アリーアは笑い返し、「いちゃついてんじゃねぇよ。」と絡まれそうになればルークの手を引いて足早にその場を離れながら、それでも順調に街を歩いた。
彼は人々の言葉に耳を傾け、人々の様子を面白そうに見ていた。屋台で買った物を一緒に食べ歩きしたり、彼女が屋台の店主と値段の交渉をしているのも面白そうに見ていた。彼の表情はいつもと変わらず静かにただ全てを受け入れているようだった。
しばらくすると彼は立ち止まりアリーアの手を握る力が強くなっていった。アリーアは彼が徐々に何かに怯えた表情に変わっていくのに気づいた。森での彼からは感じたことのない怯え。やはり喧騒が彼の許容範囲を越えたのだろうか。その怯えが確固たる物になったのは、神殿の鐘が鳴った時だった。
神殿を見上げた彼の表情は凍りついた。アリーアはただ一刻も早くこの場を離れなければいけない事だけはわかった。彼の手を引くと夢中で彼女は走り始めた。
神殿の鐘の音に呼応するかのように人々の「祝福あれ」と言う声がこだまする。彼の瞳の色は赤と緑が強くなっていく。瞳の色が黒にさえ見える。こんなにも強い感情を表出させる彼は初めてだった。彼の手を離さないよう強く握り、ひたすら走った。神殿から離れなければ、早く森に帰らなければ彼が壊れる。




