28 いざ、転職の時
「よしよし」
山にこもって1年。
ひたすらに農地化をすすめてきた成果があらわれる。
森の木々や草花は適度に生い茂り。
食料や資源になる木々も適度に生えている。
新たに入った農民によって、これらの管理も出来ている。
だが、それ以上にありがたい事が起こった。
指導下の農民が転職可能になったのだ。
様々な村や町を壊滅させてきた。
コウサクに従う者以外の全てを。
残った者達は農民としてコウサクが手に入れ、農師の能力で配下とした。
当然、農民以外の職業はほぼ壊滅した。
さすがにこれでは社会が成り立たない。
道具を作る職人や、物を売り買いする商人などは必要になる。
この他、様々な職業が求められる。
なのに今は農民しかいない。
それでもかまわないとは思ってる。
別に世の中がどうなろうと、コウサクにはどうでも良い。
食っていくものは作れるのだから、飢え死には免れる。
それで十分ではあった。
ただ、一つだけ困る事があった。
情報が手に入らないのだ。
地図がろくにない世界だ。
どこに何があるのか分からない。
これでは潰すべき教会を見つけられない。
今までは手当たり次第に破壊していたが。
出来ればもう少し効率よく破壊活動を続けたい。
どうしても教会の位置情報が必要になる。
これを探るための人間が欲しかった。
隠密や密偵という潜入工作員もそうだが。
そうではなく、あちこちの村や町に出向ける人間が欲しかった。
情報を合法的に手広く集める事が出来る人間がだ。
それをようやく手に入れる事が出来る。
「じゃあ、何人かは職人や商人になってくれ」
素質や素養のある人間を転職させていく。
それも、コウサクにとって都合のよい人間を。
農民でなくなれば、農師の影響から外れる事になる。
その瞬間に離反や反逆が起こる可能性がある。
そうならないように、人を選んで転職させていった。
出来るだけ誠実な人間を。
教会に従わず、自立した人間を。
従順な人間ではなく、あえてこういう性質の者を選んでいった
自分で考えて行動できる。
誰にも従わないが、協力や協調が出来る。
そんな人間を転職させていった。
どうせいつまでも従わせる事は出来ない。
ならば、共に手を取り合える者を。
理非を判断して、一緒に活動出来る者を。
そういう人間を転職させていった。
これらは転職と同時にコウサクの指導下から離れた。
しかし、離反はしなかった。
「なるほど」
状況を理解した転職者は、そのままコウサクとの協力を選んでいく。
「その方がよさそうだからな」
彼らも教会のあり方ややり方に疑問を抱いていった。
嫌悪感ともいう。
「こんな状態じゃ、何をする事も出来ない」
6割の税収。
思考や思想の制限。
秩序という独裁。
こんな中では人が人らしく生きる事も難しい。
そもそも、自分たちの稼ぎをなんで理由もなく奪われなければならないのか?
勝手に義務とされた税、寄付という名目で奪われる成果。
これを認められるほど、転職者は馬鹿ではなかった。
少なくともコウサクの下にいた方がもっと利益が得られる。
金銭的なものだけではない。
人間らしい生活。
穏やかな日々。
こうした有形無形様々な恩恵。
自由と自立。
こうしたものがコウサクと共に活動すれば手に入る。
転職者にとってこれは魅力的だった。
農師の指導したにいた時に既に体験した。
コウサクは農民を支配していたのは確かだ。
しかし、圧政や悪政を施したわけではない。
むしろ、指導下にいる事で農民としての能力や成果に補正を得る事が出来た。
こうして得た成果は大きい。
作物などを奪われる事もなかった。
「作ったものは自分で好きにしろ」
こういってコウサクは収穫を農民のものとした。
出来たものの6割を奪っていく教会とは大違いだ。
どちらがマシなのか?
考えるまでもなく、コウサクだ。
だから転職者達はコウサクと手をとりあっていく。
「今後もよろしく」
「こちらこそ」
互いに信頼する事で成り立つ関係。
それが出来上がっていった。
この日からコウサクに各地の情報が入るようになる。
あちこちに出向いた商人や職人が、情報をもたらしてくる。
そんな彼らの情報をもとに、コウサクは次の襲撃目標を決定していった。
ただ、転職者に無理はさせないよう気をつけた。
これは転職して分かったのだが。
基本職から基本職に転職すると、レベルが上がっても能力値が増えない。
おそらくだが、上級職業や上位職業にならない限り、レベルが上がっても能力値は増えないのだろう。
当然といえば当然なのだろうとは思った。
基本職を転々とする事で能力値が上がるなら、最強キャラクターが発生してしまう。
そうならないようにしてるのだろう。
ただ、職業の特性は手に入る。
新たな職業になれば、職業に必要な知識や技術が手に入る。
そして、これまでの職業の能力や経験も残る。
農民から他の職業に転職しても、農民としての知識や技術は継承する。
職人や商人になっても、農民として手に入れた事はそのまま使える。
これはこれで大きな利点だった。
転職した瞬間にこれまでの全てを失うわけではないのだから。
ただ、問題もある。
能力値が職業に適したものにならない。
農民として上昇した能力値は、農民としての作業や活動に適したものになる。
職人や商人などの他の職業で能力を上げた場合とはいささか異なる。
このため、農民としてあげた能力値は他の職業に適したものにはならない。
どうしても専業でレベル1から能力を上げてきた者には劣る。
これが今後どのような影響をもたらすのか。
ここが未知数である。
「まずい事にならなければいいんだけど」
不安はあるが、今は出来る事をやっていくしかない。
それでも商人や職人などが発生した。
これらを動かす事で、必要な物を作れる。
各地で作ったものを売買出来る、あちこちにもたらす事が出来る。
コウサクが耕した領域を発展させていける。
それらを期待しつつ、コウサクも歩き出す。
再び教会を潰すために。
「しくじったなあ」
少しばかり後悔をする。
デタラメに歩いていたから、ついには何もない山に行き当たってしまった。
これを反省して、まずは情報を集めようとしたのだが。
「そんな事する必要なかったよな」
あたるを幸いに見つけた教会を潰していく。
これを繰り返していれば良かったのだ。
そのせいで、人里離れた山に入ってしまったのだが。
ならば、山とは逆の方向へと向かえば良かった。
そうして適当に動いていくだけでも、教会は見つけられる。
倒して潰す事もできる。
「もったいない」
そうしていれば、今はもっと多くの教会を潰す事が出来た。
田畑ももっと増やす事が出来た。
転職者ももっと増やす事が出来た。
その機会を逃してしまった。
機会損失。
やっていれば出来た事。
やらなかったから失った事。
それを思うと頭が痛い。
とはいえ、失ったものを嘆いてもどうしようもない。
今はこれから手に入れられるものに目を向けるしかない。
「やってやる」
気合いをいれて歩き出す。
次の教会を見つけるために。




