26 考えもせずに行動してる者の考えなど分かるわけもない
「どうなってる?」
コウサクが山で畑仕事にいそしんでる頃。
教会は混乱に陥っていた。
各地で破壊される村や教会。
これらがもたらす被害の大きさに頭を抱えていた。
しかも、これらは何の前触れもなく始まったのだ。
あとに残るのは、広大な田畑と、わずかに残った農民のみ。
「誰がこんな事を?」
何者によるものなのか?
教会の疑問はまずこれだった。
誰が始めたのか?
首謀者や実行犯の存在をまずは確かめたかった。
しかし、調査は難航している。
生き残った住民から聞き取りは行っている。
何なら、自白や意識を読み取る魔術すら使ってる。
しかし、それでも情報らしい情報は得られなかった。
生き残りの口は硬く、意識を読み取る事も困難だった。
これはコウサクの持つ農師の能力による。
農師の支配下や指導下にいれば、様々な恩恵を得る。
農作業への能力上方修正に、経験値増加。
そして、農師に不利になる事への妨害。
これは情報の漏洩なども当然含まれる。
この能力のおかげで、農民達への自白や意識の読み取りは失敗に終わった。
コウサクへの不利になると判断されたためだ。
ただ、これで分かった事もある。
魔術の妨害には、強力な対抗手段が必要になる。
それが施せるだけの能力を持つ者がいる。
「何かがいる」
強力で手強い相手が。
これだけは教会も把握した。
「だが、何が目的だ?」
相手がいる、敵がいる。
これが分かっても今度は別の問題が発生する。
村や町を破壊した者が何を求めてるのか?
これがさっぱり分からない。
反乱でも起こったのかとは思った。
しかし、その割には行動に思慮が感じられない
反乱が目的なら、教会を破壊していくはず。
また、政治権力の中枢や中心地を狙うはず。
その地域の中心となってる教会などをだ。
しかし、今回の破壊活動にそういった形跡はみられない。
あちこちの村や町がただ破壊されている。
この中には確かに地域の中心となる教会も含まれていた。
だが、それを標的にしてるとは思えない。
拠点となる教会を中心に狙ってるようには見えないからだ。
むしろ、破壊範囲の中にたまたま教会がまぎれていたというように思える。
それだけ破壊活動は広範囲におよぶ。
日本に当てはめると、複数の市町村に及ぶ地域が破壊されている。
もし、反乱が目的なら、教会を中心に狙うはず。
だが、被害を受けたのは、教会という一点だけではない。
周辺地域全てを含む広範囲に及ぶ。
だとすれば無差別テロなのか?
教会だけではなく、人々を含めたあらゆるものを破壊するつもりなのか?
こう考えれば、納得もいく。
教会だけでなく村や町などを破壊する理由も理解が出来る。
しかし、これはこれで問題だった。
無差別テロならば、住民を根絶やしにするだろう。
しかし、そうはなってない。
一部ではあるが、住民は生き残ってる。
それらは今も居住地で生活をしている。
皆殺しが目的なら、このように生き残る者が出て来るわけがない。
広範囲にわたる破壊活動。
しかし、生き残った住民もいる。
この矛盾が教会を悩ませた。
「いったい何を考えてる?」
首謀者の思惑が分からなかった。
当たり前だ。
コウサクは何も考えてない。
ただ、手当たり次第に村や町を破壊しただけ。
主な目的は教会であるが。
ついでに、自分に従わない者達を畑の肥やしにしていった。
そこに生き残った者達を配置していっただけだ。
コウサクの意に従う者達を。
これも温情によるものではない。
指導下においた農民に畑仕事をさせる事で経験値を得るためだ。
自動的に手に入る経験値を手に入れるために、意に従う者を確保した。
もちろん、皆殺しにするのがしのびないというのもある。
だが、基本的には己の利益を優先したコウサクの思惑がある。
こんなコウサクの真意など教会が分かるはずもなく。
ただただ理解不能な行動と結果に戸惑うだけだった。
そんな破壊活動も、ある時期を境に止まる。
これまた何の前触れもなく。
始まった時と同じように、終わる時も突然だった。
「いったい、何なんだ?」
問題が発生しなくなったのは良い。
しかし、教会は更に困惑する事になった。
そんな教会は、どうにか対策を立てようとした。
しかし、巨大化した教会組織は、これが困難だった。
何をするにも手続きが必要。
そして、承認を得なければ何も始まらない。
硬直した組織の典型的な症状があらわれていた。
相手の動きが分からないから、決定を下しようもない。
分からないから調査をしなければならないのだが。
その調査も、相手の意図が読めないから出来ないという。
「まず、明快な理由がないとどうにもならない」
これが教会上層部の判断である。
本末転倒である。
このあたり、大組織による問題が発生してる。
何か動くためには根拠が必要。
上層部の承認が必要。
さすがに突発的な事態への対処ならば別だが。
今回のような調査にはそれなりの理由や根拠が必要になる。
そして、これらが下る事はまずない。
見えない何かに、不安だからと行動が出来るほど教会に柔軟性はない。
宗教らしく教義でがんじがらめになっている。
教義に沿わない事はしないしさせない。
それこそ秩序によって全てを規制する独裁国家らしく。
いっそ法治国家といった方がよい。
決めた事以外は何もさせない。
法律だけで全てを規制し規定する。
この世界の場合、宗教の教義が法律にあたる。
この教義によって活動や行動が決められてしまう。
それこそ人の生き方そのものも。
頑迷とすらいえる。
それくらい教会は己の行動を戒めていた。
宗教の教義によって。
だからこそ、今回のような事態への対処が遅くなる。
出来ない事も多い。
もちろん、事件が起こってるのだ。
動かないわけにはいかない。
しかし、調査のために動ける者は限られてる。
教会にも自由に動ける者達はいる。
己の裁量で好き勝手に動ける部署はある。
だが、これらは人も少なく、活動におのずと制限が発生する。
それに、教会の上層部直属で現場からの依頼で動く事はまずない。
現地からの情報は広く集め、これらを元にして調査などに動きはするが。
いつ、どこに出向くかはその部署次第だ。
問題が起こってる場所の神官達の意向に従う事はない。
ただ、よほどの大事ならば、即座に動く事はある。
また、教会上層部の指示が出れば、すぐに動きはする。
今回の出来事が、そういった重大事件であるよう、報告をあげた神官は願った。
彼らの崇拝する女神に。




