第1話:もう恋なんて、しないと思っていた
はじめまして、作品をご覧いただきありがとうございます。
これは、“恋愛に不向きだと思っていた”一人の女性が、
高校時代に経験した淡い片想いと、
大人になってからの再会を通して、
少しずつ自分と向き合っていく物語です。
感情の揺れや静かな心の変化を丁寧に描けたらと思っています。
ゆったりしたペースで進む恋愛小説になりますが、
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
高校2年の初夏、私は「あなた」という存在に心を奪われた。
あなたのことをもっと知りたくて、取りとめもない話をたくさんした。
可愛いと思ってもらいたくて、必死に「可愛い女の子」を演じた。
けれど――あなたが私を好きになることはなかった。
「恋愛なんて、私には向いていない」
社会人1年目の春、私が最初に学んだのは、そんな皮肉な教訓だった。
大崎彩香は、専門学校をなんとか卒業し、看護師として働き始めた。
ある日、友人と居酒屋で食事をしていたとき、隣の席にいた男性に声をかけられた。
そのとき、一緒にいた友人に強く勧められたこともあり、私はその男性と付き合うことになった。
けれど、交際はわずか1ヶ月で終わった。
その時思ったことが、私は恋愛に不向きなのだということ。「恋愛に向き・不向きなんてあるのだろうか?」
そんな疑問を抱いていた過去の私へ――それは間違いだった。
恋愛が不向きなのではなく、私という人間が、恋愛に向いていなかったのだ。
人を好きになるためには、その人のことを知ろうとする気持ちが必要だ。
けれど私には、彼のことを「知りたい」という欲がなかった。
それよりも、「一緒に過ごしたい」という気持ちより、「ひとりの時間がほしい」という欲のほうが強かった。故に、私は彼を好きになれず別れた。
彼からはなんで別れたいとかを聞かれ、知りたい欲や一緒にいたいという想いがないことを伝えて別れた。
彼は、ごく普通の人だった。
ただ、私が「人に興味を持てない人間」だったのだ
――誰かを本気で好きになることもできない、そんな自分に気づいてしまっただけだった。
それ以降私は恋愛をしてこなかった。性欲が強いわけでもなかったため、彼氏という存在がいなくても問題なかった。友達に彼氏ができた際には羨ましさという感情もなくただ喜びしかなかった。
母親からは、相手はいないのかと何度か聞かれたが、途中で諦められた。職場で結婚の話が出ても自分には関係なかった。今時、独り身も多いし私も今後はずっと独り身で生きていくのだろう。そう思っていた。
ある休日、何気なくSNSを眺めていたとき、ふと後輩の投稿が目に留まった。
「ラーメン屋行ってきたぜ」
そんな何気ない日常の一コマ。
でも、私はそこから目を離せなかった。
画面の中には――あの夏以来、ずっと心の片隅にいた「彼」がいた。
「懐かしいな……」
その瞬間、胸の奥がふわりと熱を帯びた
(元気そうだな。今何やっているんだろう…)
スクロールしていた指がふと止まる。
「今、彼は何をしているんだろう」
そんな想いが胸に浮かんだと同時に、あの夏の日が脳裏をよぎった。
私が、初めて“恋”をしたあの夏――。
あれは、私が高校2年の夏のこと。
学校祭の準備が始まり、校内はお祭りムード一色だった。
そんな中、各学年で数名の代表を選出し、催し物を企画することになった。
私は特にやりたいこともなかったので、なんとなく立候補した。
結果的に、私と幼なじみ、それから男子1人の計3人が代表に選ばれた。
その後、全学年の代表が集まり、企画内容について話し合う機会があった。
そこに、1年生代表の一人として“彼”がいた。
そのときの私は、「男子多いな〜」くらいにしか思っていなかった。
そんな中催しとして、お化け屋敷を行うこととなった。
準備を進めるうちに、自然と彼と接する機会が増えていった。
彼とは、小・中・高とずっと同じ学校だったけれど、こんなに話したのは初めてだった。
会話を重ねるたびに、彼の印象が少しずつ変わっていった。
「年下のくせに、なんだか落ち着いてるな……」
誰にでも平等で、冷静に全体を見渡せるその姿は、とても1歳下には見えなかった。
催しの準備は順調に進んでいたが、メンバーが少なかったぶん、休日も返上して作業を続けることになった。
私は、幼なじみ1人と、彼を含む後輩2人――合わせて4人で、催しの装飾をしていた。
「……暑すぎる。溶ける」
「ほんと、今日はやばいね」
私と幼なじみは、汗を拭いながらぐったりしていた。
「マジで暑いっすね……」
後輩たちも、同じようにバテていた。
そんな暑さの中で作業していたとき、ふと彼に目がいった。
制服を着ていたころの彼は、どちらかといえば華奢な印象だった。
けれど、ジャージにTシャツというラフな姿の彼は違っていた。
腕や肩、動くたびに見える筋肉――思ったより、しっかりしていた。
そんな彼を見て、「ああ、やっぱり彼は“男”なんだ」と、はっきり意識してしまった。
自分とは、まったく違う存在なのだと。
たぶん、あれがきっかけだったのだと思う。
それ以来、彼のふとしたしぐさや声のトーン、何気ない行動一つひとつが気になるようになった。
――このとき、私の中で“長い恋”が静かに始まったのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
今回は主人公が再び“彼”と出会ってしまう現在から、
高校時代の回想に入るまでを描きました。
恋愛に不向きな自分、誰かを好きになる感情ってどんなものだったのか――
そんな“静かで長い片思い”の始まりを、少しでも共感していただけたなら幸いです。
次回は、彼との交流が始まり、少しずつ気持ちが動き始める場面を書いていきます。
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