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帰還

「ありがとうございました」

すずが深々と孫七さんに頭を下げる。

孫七さんは俺をちらっと見たあと頭を一つ下げて船に乗り込んでいった。


ここは伊勢の港。

江戸を出港した俺達の船はその後追手もかからず順調に伊勢に着いた。

ここからは陸路で目的地に向かう。


芳春院さんに加賀に帰るかと聞くと「息子の邪魔はしたくない」と言うことで、京の高台院さんの所に身を寄せることにした。孫娘役の女の子も連れて行くと言う。


ひとまず佐和山に入りその後は左近さんに任せよう。


無事に芳春院さんを取り戻したのにすずにも、小次郎にも、当然俺にも笑顔はなかった。


…紫乃さんを死なせてしまったのは俺のせいだ…

船に乗ってる間中俺はずっと考えていた。

俺が前田様と軽い気持ちで約束したから

俺が紫乃さんをこの作戦に巻き込んだから

俺が紫乃さんを後衛にしたから

俺が…俺が…何度考えてもどう考えても紫乃さんが死んでしまったのは俺のせいだった。


唯一平常運転なのは才蔵だけだった。


伊勢の港に着くや否や


「私は信繁様の元に帰る。まぁまぁ楽しかった。またな」


と言って去っていった。





「芳春院様は無事に京に向けて出立された。今は徳川の勢力は畿内には無い。安心だろう」

左近さんが俺の部屋に来て教えてくれる。


「太助。気を落とすな。戦なのだ、仕方ない」

左近さんはそう言って俺の肩を叩くと部屋から出て行った。


俺は畳に仰向けになる。


天井に紫乃さんの顔が浮かんでは消える。


何で紫乃さんは残ったのだろう。

そうまでして命をかける理由は彼女にはないのに…。

これも何度も考えた。

それでもわからない。

紫乃さんは何のために生きたんだろうか?


「あー。景勝さんと直江さんに謝らないとなぁ…」

天井に向けて独り言を言った。

 

「太助様…」


左近さんが開けっ放しで出て行った障子の隙間からひかるさんの顔が覗いている。


「ひかるさん…」


俺は起き上がる気力もなく仰向けに寝転んだまま顔だけひかるさんの方に向ける。


「大丈夫ですか?」

ひかるさんはそっと部屋の中に入ってくる。


「いやー。ははは…大丈夫…では、ないかもしれません」


「申し訳ありません」


「ひかるさんが謝ることないですよ。全部俺のせいなんです」


「でも、それは治部少輔様のためであり、父のためであり…つまりそれは私のせいということだと思います」

ひかるさんが俯く。


俺が仰向けに寝てるからひかるさんが俯くと却って目が合う。


…相変わらず美人だ。


「えっ!?」

ひかるさんが顔を赤くする。


「あぁ…また声に出てましたか?」

俺は力なく笑う。 

なんだかもう全部どうでもいい。


「はい。太助様はうっかりさんですね」

ひかるさんは顔を赤くしたまま微笑む。


「はい。うっかりさんなんです」

2人して微笑む。


「ひかるさん…」

「はい?」


「ちょっと…泣いてもいいですか?」


「はい…」

ひかるさんは頷くとにじって俺の頭のすぐ上に座る。


「どうぞ、頭をここへ」

ひかるさんは俺の頭を膝の上に載せる。


「私の髪で泣き顔を隠して差し上げます」

ひかるさんはそう言うと。俺の顔に自分の顔を近づける。

長い黒い髪が簾のように俺の顔を隠す。


ひかるさんの美しい顔の前で俺は子供みたいに泣いた。声を上げて泣いた。


その様子を庭から見ている人がいるなんて気が付かずに泣き続けた。





「芳春院を逃がしたか…」

「面目次第もございません」

「最近そればかりだな…」

「本当に面目次第もございません」

「うーん。佐渡。どう思う?」

「はっ。恐らく前田は内府様に反旗を翻すつもりでしょうな」

「やはりそうよな」

「半蔵。伊達はどうなっておる?」

「はっ。それが…」

「ん?どうした?」

「伊達に仕込んだネズミからの連絡が途絶えまして…」

「はぁ〜半蔵。どうなってる?さすがの儂も堪忍袋の緒が切れるぞ?」

「まぁまぁ、内府様。半蔵のせいばかりとは言えませぬ。どうやら向こうも相当な腕の忍びを飼っている模様」

「ふん。前田は敵。上杉も敵。宇喜多も敵。伊達は不明と来たら儂の味方はどこにいる?うん?」

「はてさて…西のあのお人はいかが?」

「西の…毛利か…しかしあの男も儂のことはあまり良く思っておらんだろう」

「でしょうなぁ。しかしあの家は昔から安全第一。大きな冒険はしない家。切り崩す手段はいくらでもあるかと…」

「ふむ…よし佐渡。任せる」

「ははっ!」


第3部完


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