表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/53

船を手配せよ!

翌日から俺達は江戸脱出作戦のために動き出す。

芳春院さんと娘を連れて歩いて逃げたらすぐに捕まってしまう。となれば船で逃げるしかない。

幸いこの寺から港までは近い。


まずは乗せてくれる船を手配しなければならない。しかも徳川にバレずにだ。


そんな都合の良い船主なんているもんかと思いつつも、俺とすず、小次郎と紫乃さんの二手に別れて船を探す。


しかし案外港をうろついていると向こうから声をかけてくる。

「よぉ!兄ちゃん!船探してるんだろう?安くしとくぜ」

「あんちゃん!そっちはやめときな!沈むよ」

「うちの方が安いよ!」

と、引く手数多だ。


俺はその中で一番安い金額を提示してきた船主と交渉する。


「荷の内容は言えないんだろ?いいぜ!うちは金さえもらえれば文句はねぇ。ん?行き先は出港してから?あぁ構わねぇぜ。その代わり今金を払っていってくれよな!こっちも水夫を雇わなければならないからな!それでも他と比べたら格安だぜ!」


とトントン拍子に話が纏まる。


「ねぇ…お兄ちゃん…大丈夫かな?あの船」

俺がるんるん気分で小次郎と紫乃さんを探しているとすずが後ろから心配そうに声をかけてくる。


「何が?」

「だって。あまりに都合良すぎない?」

すずは不安げな表情だ。


「ここは天下の江戸だぞ!?大丈夫だって!さてさてさてさて!今日の夜には江戸とおさらば」

俺は鼻唄混じりで再び歩き出す。

「大丈夫かなぁ…」



「さすが太助様!」

「やるなぁ太助」

船が見つかったと報告すると2人とも喜んでくれた。

今回ばかりは俺の手柄だ。


「でも…ちょっと怪しくて…」

すずが遠慮がちに声をあげる。


「ダイジョーブダイジョーブ!船なんてどこもそんなに変わらないから」

小次郎が笑い飛ばす。


「すずさん?どこが怪しいの?」

紫乃さんはすずの話を聞いているが俺と小次郎は思ったより早く船が見つかったのでどこに遊びに行こうか相談することにした。


「じゃあ、俺と小次郎はちょっとその辺うろついてくるからすずと紫乃さんも適当に遊んでおいでよ!夕刻には寺に戻るから!」

俺は小次郎と肩を組んで歩き始める。


「吉原ってどっちだ?」

「吉原ってなんだ?」

「あっちか?」

「あっちだろ」

吉原がまだこの時代に無いことを知ったのはずっと後になってからだった。


夕刻。歩き疲れて小次郎と寺に戻る道で紫乃さんに呼び止められる。すずも一緒だ。

2人とも浮かない顔をしている。


「??どうした?」

「太助様…」

「お兄ちゃん…」

「うん。どした?」

「あの船主…」

「全くのモグリだったよ」

「…え?」

「船なんて持ってなかったんだよ…」

すずが残念そうに言った。


あの後すずと紫乃さんがあの男の元に戻ると男は既に居なくなっていた。周りの人間に聞き込んでも知らないの一点張りだったが紫乃さんが色仕掛けをしたら1人の男が教えてくれた。


教えてもらった酒場に行くとそいつが自慢げに今日騙した相手―つまり俺だ―のことをベラベラと喋っていたというわけだった。


「嘘だろ…」

「お金はもう全部使ってしまったらしいですわ…」

「私と紫乃さんで他の船探したけど…やっぱりお金が無いと…」


…終わった。切腹だ。ハラキリだ。

いや、それ以上に、芳春院さんにあんなに偉そうなこと言っておいてこんな…


「太助!諦めんな!」

小次郎が俺の肩を叩く。


「小次郎…でも…」


「いいから!とにかく港に行くぞ!」


小次郎に引き摺られるようにして港に着く。

しかし俺達が詐欺に遭って金が無いことが知れ渡っているのだろう。誰も声をかけてこない。


「誰かぁー!船のせてくれぇー!」

小次郎が大声で叫ぶ。


「おい。小次郎。無理だって…」


「うるせぇ!太助も叫べ!誰かー!船ー!」


「船…」


「船ー!乗りたいー!ほら!太助!」


「ふ…船ー!船船船!ふーねー!」

ヤケクソになって叫ぶ。


「あの…」

背後から声をかけられる。


振り返るとそこには壮年の男性が心配そうな面持ちで立っていた。


「船でお困りですか?」

その男性がおずおずと声をかけてくる。


「ああ…はい。実は…船に乗りたいんだけど、お金無くて…それで…無理ですよね」

俺は下を向いてぶつぶつと言う。


「良いですよ!」

その男性はあっさりと言う。


『えっ!?』

俺と小次郎同時に驚きの声をあげる。


「だって。おいらたち金ないんだぜ?」


「はい」


「しかも荷はちょっと特殊というか。危険が伴うんだぜ?」


「かまいません」


「何でだい?」


「はい。主人に仰せつかっていますので、何かあったら必ずお返ししろと」


「えっ?」

俺はそこで初めて気付く。

声に聞き覚えがある。


「お久しぶりです。太助さん」

男性がにっこりと笑いかける。


「孫七さん!?」


「はい。偶然ですねこんな所で」


そう。大坂の城下町で暴漢に襲われているところを(誾千代さんとすずが)助けた今井宗薫の手代の孫七さんだったのだ。


「今夜の出港準備のためにたまたま通りかかったら叫んでる人がいるから何かと思って見に来たんですよ、そしたら太助さんだから、驚きました」

孫七さんはそう言って笑う。


孫七さんと打ち合わせを済ませると寺に戻る。

心配そうな面持ちで待っていたすずと紫乃さんに経緯を伝えると2人は自分のことのように喜んでくれた。


いよいよ今夜、江戸を脱出する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ