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徳川家康を暗殺せよ!

「来たぞ…」

木の上から左近さんが囁く。


俺は地面に掘った穴の中に隠れている。

言われてみれば遠くに隊列が見える。ただあれが徳川家康のものかは俺にはわからない。


隣で小次郎があくびをしている。


あの日佐和山を出てから今日で5日目だ。


来る日も来る日も地面に寝転がって時間が過ぎるのを待つのは苦痛以外の何物でもなかった。


しかしそれもそろそろ終わる。

…ただ俺の命も終わるかもしれない…


「まだあと半刻はかかるな…」

左近さんは遠くを見ながら呟く。


「ならもう一眠りできるな」

小次郎はそういうと刀を抱きしめて眠りに落ちる。


…すごいな。こいつの神経どうなってるんだ?


俺はすでに心臓が早鐘を打っている。


「いいな。音はたてるなよ。先鋒をうまくやり過ごして、家康1人だけを狙うのだ。小次郎によく言っておけ」

左近さんが木の上から指示を出す。

…言っておけったって寝てるよ。


「むっ!」

と、突然小次郎が目を覚ます。


「おっさん!」

小次郎は鞘を払って刀を抜く。


左近さんも木から飛び降りて刀を抜いた。


「え?何何何何?怖い怖い怖い怖い」

俺だけ状況が掴めない。


「ちっ。囲まれてるな」

左近さんが苦々しげに呟く。


「お前ら、内府様を狙っているのか」

繁みの中から声だけがする。


「そうだと言ったら?」

小次郎が不敵に返す。


「殺す!」

繁みから何かが飛んでくる。


『ぎぃん』

小次郎はそれを刀で叩き落とす。

『ぎぃん』

『ぎぃん』

『ガギぃ』

次次飛んでくる物体を小次郎と左近さんは慌てず刀で叩き落としていく。


俺は悲鳴もあげられず掘った穴に身体を埋める。


「なるほど。なかなかやるようだな」

繁みの中から次々と人が現れる。その数10人以上。


その姿はいかにも『忍者』という装束であった。


「…佐渡に言われて露払いに出たら。まさか本当に内府様を暗殺しようなどという馬鹿者がいるとはなぁ」

中心に立つ忍者がクックックと笑う。


「3人で来るとは敵ながら天晴よ。冥途の土産に我が名を教えてやろう…」

「いや。別にいい」

忍者の言葉を小次郎が遮る。

…やめとけ…怒らせるなって


「何を言う。自分のことを殺すものの名だぞ?聞いておけ…我が名は…」

「いや、だからいいって。おいらまだ殺されないし」

小次郎が再び言葉を遮る。

…あーあ。なんで琴子といい小次郎といい、相手を怒らせちゃうんだろ?


「お前はこの服部半蔵に殺されるのだぁ〜!」

「ぶふっ!」

「!?」

「はっとりって忍者ハットリくんじゃん!ひゃはは!こんな時にギャグ言…言わないでへへへ。面白!まさに緊張と緩和!ハットリくんって」

…忍者の人が突然ギャグを言うもんだからつい笑ってしまった。面白い人だなこの人。


…って。あれ?ハットリくんめちゃくちゃ怒ってる?


「服部半蔵正成…歴とした徳川内府様の家臣である。その名乗りを笑うとは…死だけでは済まさんぞ…」

ハットリくんは低い声でそう言うと背中から忍者刀を抜いた。


「あーあ。太助怒らせてやんの」

「相変わらず馬鹿な奴だな」

小次郎と左近さんが冷たい目で見てくる。


「かかれ!」

ハットリくんの号令で忍者が一斉にこちらに飛びかかってくる。

俺は慌てて地面に伏せる。


『ドンッ』

という音がしたかと思うと俺の目の前に忍者刀を持った腕が落ちてくる。

その切り口から血が静かに流れ出る。

「ひぃっ」

俺は後退る。


「おら!まだまだ!」

小次郎の周りには忍者が4人倒れてもがいている。

…え?今の一瞬で4人も?


「ちっ!なかなかつかえるようだな」

ハットリくんが距離を取る。


「おい!」

ハットリくんが声をかけると木の枝の隙間から火が見える。


「火縄銃!」

俺が咄嗟に叫ぶと左近さんと小次郎はそれぞれ木の幹に身体を隠す。


『ぱぱぱーん』

林の中に乾いた音が鳴り響く。

先ほどまで2人がいたあたりの落ち葉が跳ね上がる。


「もう一度だ」

ハットリくんが言うと木の上からカツカツカツカツという音が聞こえてくる。


…ダメだ。次はもう避けられない。


『パーン』

乾いた音に俺は目を閉じる。


「な!何だ!?」

ハットリくんの狼狽した声がすると同時に俺は誰かに手を引かれる。


目を開けると辺りは白い煙に包まれていた。


「お兄ちゃん。こっち!左近様!小次郎君もついてきてください」

…すずの声だ。

小さいすずの手が俺の手を引く。


俺は走った。産まれて初めてと言って差し支えないくらい全力で走った。


山をいくつ越えただろうか。

最後はヘロヘロになって倒れ込んだ。


「ここまでくれば大丈夫でしょう」

すずも汗だくになっている。


「すず…どうして?」


「三成様が、左近さんとお兄ちゃんと小次郎君がいないことに気付いて、それでもしかしたら危ないことしてるんじゃないか。って、それで危なくなったら助けてやってくれって」

すずはそう言って微笑む。


「殿…」

左近さんは涙を堪えている。


「いやーすず!助かったよ」

小次郎はすずに頭を下げる。


「はい!」

すずは満面の笑みでそれに応えた。


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