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いきなりチュッチュ♡

 どれくらいの時間が経っただろう。障子は陽にさらされ部屋の気温はどんどん上がっていく。


 蝉の声が障子の隙間から割り込んでくる。


 ひかるさんも琴子も身じろぎ一つしない。だから俺もなんとなく動けない。


…汗拭きたいな…


「上杉殿だな…」

 熊男がぽつりと言う。


「この戦の発端ほったん核心部かくしんぶも上杉殿だ。まずは上杉殿との連携れんけいを強化する!」

 熊男が宣言する。


「まだ上方に留まっているか?そろそろ会津へ帰国という話もあったな…こうしてはおれん」

 熊男はぶつぶつと独り言を言う。


「殿に説明して来る!お主たちは好きにしておれ!ひかる!ともに来い!」

 熊男はそう言って立ち上がるとひかるさんを連れて三成さんのところに向かった。


…ひかるさん顔真っ赤だったな。

…よっぽど…暑かったんだな。


 残された俺と琴子。広げられた地図のはしが部屋の湿気で丸まってきている。俺は何となくその端を畳に押さえつけて伸ばそうとするが手を離すとまたクルンと戻ってしまう。


「琴子…お前本当にすごいな…」

「あんたって本当にひかるさんの婚約者なの?」

 俺と琴子、同時に言葉をはっする。


「えっ!?」

 俺は驚いて琴子を見返す。琴子は真剣な顔でこちらを見ている。

「琴子今なんて…?」


「だから…本当にあんたとひかるさん婚約してるの?」

…聞き間違いではなかった。


「まぁな!しかも逆プロポーズだぜ!ひかるさんが俺にぞっこんなわけよ」

 俺は無理やりテンションを上げて答える。


「ふぅん…」

 琴子は興味無さそうに相槌あいづちをうつと立ち上がり部屋を出ていった。


…あー。びっくりした。何だよ琴子のやつ。突然…本当に婚約者なのかって…俺が聞きたいよ…。



 喜作爺さんの小屋に戻ると琴子は床で寝転んでいた。この小屋はあまり外の光が入らずいつでも薄暗い。


「喜作爺は?」


「知らなーい!」

 琴子は俺に背を向け寝転んだまま返事をする。


 俺も琴子とは離れたところで横になる。


「ねぇ…」

 琴子がまた背を向けたまま話しかけてくる。


「あー?」


「ひかるさんとの婚約ってさ…いつしたの?」


…またその話かよ…


「うん?んーと4ヶ月くらい前かな?」

 俺は指を折って数える。カレンダーがないからわからない。


「もうキスした?」


…はっ!?何言ってるんだ?こいつ。


「し…してないよ…俺達は純愛なんだよ!」


…何正直に答えてんだ?俺。


「ふぅん…じゃあキスしてみる?」


「えっ!?」


 いつの間にか琴子がニヤニヤしてこちらを見ている。


「バカ!するわけないだろ!」

 俺は何だか急に恥ずかしくなり琴子に背を向ける。


「練習しといた方がいいよー?ひかるさんに嫌われちゃうよー?」


…無視無視!


「いいのかなぁ?こんな美少女とキスできるチャンスないよぉ?」


…ふん!何が美少女だ!ガキンチョめ!


「あと5秒以内ね!…ごぉ…よーん…さーん…」


…あー!もう五月蠅うるさい!


「うるさっ…」

「…にぃ」

 振り返った俺の目の前に琴子の顔があった。目を閉じ、人差し指でそのぷるんとした唇を触っている。そこはリップもしていないのにピンク色でつやつやとしていた。

「ごくり…」

 唾を飲み込む音が自分にも聞こえる。

…女の子とこんなに近付いたことないな…いい匂いがする…。

「…いーち…」

…こいつ。こんなに可愛かったっけ…

 俺はゆっくりと琴子の唇に吸い寄せられる。


『がらっ』


「太助君!琴子ちゃん!川に行かない!?………?どうしたの?2人して壁に貼り付いて…」


 俺の唇が琴子の唇に触れる直前に扉が開く。入ってきたのは新吉君だった。


 扉が開いた瞬間に俺と琴子は逆方向に飛び退すさり壁に貼り付いていた。


「へへ…こうしてるとひんやりして気持ちいいんだよ…な?琴子?」


「うんうん。そう。ひんやり。新吉君もする?」

 

 俺と琴子は愛想笑いを浮かべて言い訳をする。俺は全身汗びっしょりだった。


「いや…遠慮しておくよ。それより暑いなら川こうよ!」

 新吉君は爽やかな笑顔で言った。


 俺と琴子は「いいね!」と言ってその後大きく安堵の息を吐いた。


 3人で川に行く。

 俺は足だけ川の流れにつけて涼む。

 琴子は新吉君と水をかけあって遊んでいる。年相応の無邪気な笑顔だ。



…まったくなんなんだよ…琴子のやつ…わけわからん。

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