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第2章 一ノ瀬亮の日常 01


ブブブブブ

スマートウォッチのアラームが震える。


夢を見てた。

可愛くて、可愛くて、大切にしたかったあの子。


顔を洗って、髭を剃って、歯を磨いて、寝起きの頭を叩き起こす。

今日は、朝からお得意様3件と新規のお客様のところへ出向かなきゃ。

足が痛くなりにくい靴に合わせて、ベルトとネクタイを決める。


社会人になって2年。

仕事にも慣れてきたし、営業先にも顔を覚えられ、同行してくれていた先輩から仕事を引き継ぎ一人で営業に回れるようにもなり、やっと少し余裕が出てきたせいなのか、最近よく夢を見るようになった。


スーツに着替え、ヘアセットを済ますと、部屋を出た。




***********



高校の間の花乃との付き合いは、学校の誰にも内緒だった。

そんな中、姉貴と花乃のおばあさんが協力してくれ、二人が会う場所を提供してくれた。


付き合いは順調で、こんなに幸せでいいのか、と日々感謝したくらいだ。


3年になると進路を決めなくてはならない。

俺は花乃に一緒の大学に行こうと誘った。

最初は花乃もそのつもりのようだったが、家庭の事情から大学進学ではなく就職することになった。

俺の方も、地元ではなく東京の大学に学びたい学部があったため、そちらに志望校を変えた。



大学1年、花乃は社会人1年目。

花乃は、お給料を貰っているし、俺の家の方がゆっくり過ごせるからと、毎週末俺の住むアパートに来てくれるようになった。


今思うと、相当無理をしてくれていたことがわかる。

慣れない仕事、覚えなければならない事も沢山ある中、貴重な休みに片道2時間かけて来てくれていたのだ。


当時の俺は、その大変さの1/3だって理解していなかった。


なんなら、俺だって日中大学に行って、夕方からはバイトもしてるんだから、同じようなものくらいに考えていた。


そんな遠恋最初の1年目は、ただただ花乃の頑張りの上に成り立っていたように思う。


すれ違いがはっきりして来たのは2年目になってからだ。

20歳になると、お互いに飲みに誘われる機会が多くなっていった。

飲み会は大抵金曜の夜のため、土曜日は昼近くまで寝てるし、花乃の方も疲れが溜まるせいか週末に体調を崩すことが増えた。


毎週会っていたのが2週間毎になり、月1になる事もしばしばだった。


そんな頃のある金曜日、俺は先輩のウチに飲みにくるように誘われた。

早い時間から始まった飲み会でだいぶ酔いが回った頃、後から来たメンバーが2〜3人程女を連れて来た。

先輩ばかりのメンツの中、後輩の俺が誰よりも酒を飲まされたせいか、普段より酔ってしまい、気がつけば知らない部屋にいた。


隣には女が寝てる。


慌てて起きると、デニムは履いていたものの、上半身は何も着ていない。

慌てて女を起こし、何があったか尋ねるも、意味深に笑うだけだった。


後日、その女から告白をされたが、彼女がいるからといつもの断りを入れると、怪訝な顔をされた。


「まだ別れてないの?」


訳がわからない女のセリフに唖然としていると、女はあの日の写真を彼女に送ったと言うのだ。


慌てて携帯を確認したが、女が削除したのだろう、何の写真が送られていたのか確認できなかった。

だが、この女が花乃との間を壊すための工作をしていたのだけは分かった。


花乃から何も言われていない事も余計に不安を煽る。


花乃に仕事が終わったら教えて、とメッセージを打つ。

悶々としながら待っていると、18時過ぎに終わったよとの返信が来たので、すぐに通話した。


「もしもし、急にごめん。

なんか、先週だけど、変な写真送られた?」


花乃はしばらく沈黙していた。


「何の写真だった?

俺が酔っ払ってる間に、なんかされたみたいで。」


「うーーーん、まぁ、ありがちな?」


「何?

ありがちって?」


「え、ドラマでよくある感じ?

やーー、実際そんな事があるんだなって、ちょっと感動すらしたんだよね。」


「全然話がわかんないんだけど。

はっきり言って。」


「亮君、ここ、亮君が怒る場面じゃないからね。

本来、私がめっちゃ怒る場面だから!」


「ごめん。

でも俺、何があったのかさっぱりわからなくて。

花乃さん、教えてください。」


「うーーーーん、亮君が知らないなら、知らないままでも良かったんだけどね。

えっとね、私も写真すぐ消しちゃったから残ってないけど、寝てる亮君に女の人がくっついてるやつだった。


裸で。」


「やってないから!!!」


即座に否定する。

しかし、花乃からの返事はない。


「花乃、聞いてる?」


「亮君。

私、一ノ瀬亮の彼女、もう4年目なの。

こういうの予想通りだから。

高校生の頃から、キラキラ女子侍らせてた亮君だよ?

彼女と別れさせたいって願う人の一人や二人や三人や四人、五人、もっとかな、いるでしょ。」


「本気でそう思ってる?」


「うん。」


「じゃ、怒ってない?」


「怒ってはいないけど、いい気分ではない。」


「ですよね!!!

もう、お酒には呑まれないようにするから。」


「よろしい。

良い勉強になりましたね。

寛大な彼女に感謝しなさいね。」


「大好きだよ。」


「っ!!!!

そう言えば、何でも許されるって思わないでね!

じゃあね!」


もう付き合って4年目と言うくせに、好きだというとすぐに照れる彼女が、最高に可愛かった。




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