第1章 内田花乃の日常 08
夜9時、ピコンと携帯が鳴る。
この時間にメッセージが来始めてもう1週間以上になる。
宿題やった?とか、さっきのバラエティ見た?とか、今何してんの?とか。
特に用事があってのメッセージではないのが、とんでもなく嬉しくて、携帯を抱きしめて自室に向かう。
今日のメッセージは、のどか屋でおすすめのメニューは?だった。
"お好み焼きは何を食べても美味しいけど、焼きそばもめっちゃ美味しいよ。
裏メニューに塩焼きそばがあって、海鮮がいっぱい入ってて、それも美味しい!"
"塩焼きそば、知らなかった!
姉貴からも聞いたことない。"
"あれ?
そう?"
"ちょっと気になるから、今度頼んでみよ。"
"そうして!
うちのおじいちゃんの好物だったの。"
"昨年亡くなったっていう?"
"そう。"
"じゃあ思い出の味じゃん。
そんな大切なの、俺が頼んでもいいのかな。"
"良いんだよー!
ぜひ、ぜひ食べてみて欲しい!"
"wwwわかった。
ところで、明日は金曜日ですね。"
"そうですね。"
"おばあさんの家に行く予定とかありますか?"
"ありますね。
お泊まりの予定です。"
"じゃあさ、会わない?"
(え!?)
"うん"
"この前みたいに公園とかでもいい?".
(えーーー?ホントに???)
"うん
大丈夫"
"じゃあ、明日おばあさんのお家をもう出れるって時間になったら教えて。"
(うそ、やだ、どうしよう、え?どうする?)
"わかりました"
"www
なんで敬語?"
(止まる、心臓が止まる!)
"何でかな?"
"じゃ、明日連絡待ってるね。"
(ちょっとほっぺたつねってみよう。
いったーーーー!!!)
"はい"
"おやすみ"
(スリスリ)
"おやすみ"
携帯を放り投げ、思わずベッドに突っ伏した。
死んだ…
死んでないなら寿命が50年は減った!!!
え?
会おうって言ってた?
あれ?目の錯覚???
もう一度読み返してみよ。
!!!!
やっぱり、会おうって言ってくれてる!!!
え、なんで?
これ、上げて落としてくるパターンのやつ?
あ、多分それだ。
ふぅ、危ない、危ない。
また、痛い目見るところだった。
ちょっと冷静になれた。
やーーー、でもさぁ、一ノ瀬君も悪いと思う!
こんな毎日同じ時間にメッセージくれて、挙句会おうって言われたら、そりゃ、ちょっとは、ちょびっとくらいは自惚れるって。
いくら人たらしとはいえ、私の気持ち弄び過ぎだと思う!!!
はぁ、とりあえず明日持っていく服の用意しよ。
ちょっとは可愛く見えるコーデ、考えよ。
***********
「じゃあ、行ってくるね!」
「はいはい、行ってらっしゃい。
お夕飯、7時半くらいにするから、それまでには帰っていらっしゃいね。」
「わかった〜!」
公園に向かいながら、もう一度携帯をチェックする。
キャンセルのメッセージは来てない。
良し!
ついでに前髪を直して、深呼吸を一つ。
公園の入り口を覗いたら、この間のベンチに一ノ瀬君がいた。
小走りで近づくと、気がついた一ノ瀬君が手を挙げてくれた。
「お待たせしちゃったかな?」
表情筋を引き締めドキドキを隠しつつ、一ノ瀬君の隣に座る。
一ノ瀬君は、フハッて笑って、待つような距離じゃないよって。
確かに。
私たちはクラスメイトだけど、クラスでは全然話さない。
それは、二人で話し合って決めたことでも何でもなくて、お互いに何となくそうしてる。
もちろん、修学旅行の後、グループ交際してるって噂が立ったり、女子に少し絡まれたりした事も理由の一つだ。
ただ、私としては一ノ瀬君とお話できるという事をとても大切に思っているので、周りの誰かに壊されたくないという気持ちが一番強い。
一ノ瀬君がどう思っているのかは、分からないけど。
「あのさ、北海道で松尾と三宅さんにソフトクリーム奢るって言ってたのに、内田さんが全部買ってくれたじゃん。
しかも、ファームでは俺の分も。
だから、そのお礼がしたいなって思って。」
あーーー、それね。
そういうことね。
はい、はい。
…。
「そんなの気にしないで良いのに。」
「いや、二人の分を奢らせた事はもちろん気にしてたけど、それより、俺がファーム楽しんでないの知って、買ってくれたんだろ?
あれは、マジで嬉しかったから。」
だから、ありがとうなって微笑まれた。
「そんなの全然だよ。
同じ状況になったら、また差し入れするよ!」
一ノ瀬君はあははと笑って、はいコレって小さな箱をくれた。
「ん?なに?」
「開けてみて。」
包装を開けると、箱の中にはラケットのチャームのついたシルバーネックレスが入っていた。
「かっわいい!
え、でも、こんなのもらえないよ。
ソフトクリームのお礼にしては、高価すぎる!」
慌てて一ノ瀬君に箱を返そうとしたその時。
「彼氏からの初めてのプレゼントとして、受け取って欲しい。」
「ん?」
「内田花乃さん、好きです。
付き合ってください。」
「ふぇ!?
え?え??
私?」
「うん。」
「え?
これ、一ノ瀬君、罰ゲームやらされてる?
誰か隠れてる?」
「やらされてないし、誰も隠れてない。
罰ゲームなら、特に用も無いのに毎日毎日同じ時間にメッセージ送ったりしないし、こんなにドキドキしてない。」
「…。」
「好きだよ。」
「…、夢?」
「じゃない。」
「あの。
嘘告だったら、ご近所中に聞こえるくらい大きな声で泣くけど」
「嘘告じゃないから、泣く必要ないよ。」
「え、と。
えっと、あの、それじゃあ。
私も。
私も、一ノ瀬君が好きです。」
一ノ瀬君は大きく息を吸った。
「っしゃー!!!」
それから一ノ瀬君はネックレスを付けてくれた。
嬉し過ぎて、恥ずかし過ぎて、うなじが弾けるかと思った。
ヤバかった!!!
日が暮れて涼しくなった風が、火照った頭を冷やし始めると、確認したいことを思い出した。
「あの、先程、告白していただいたと思うのですが。」
「ふふ、はい、しましたね。」
「あの、一応の確認ですが、一ノ瀬君には彼女がいないという前提でよろしいでしょうか?」
「たった今、かわいい彼女ができましたが、それが何か?」
「っ!
えと、一ノ瀬君には、中学から続く彼女がいるとの噂が、全校に広まっておりまして。
そちらの方は、あの、もう、問題がない、ということでよろしいですか?」
「その噂はあえて流していた嘘なので、何の問題もないです。」
「ん?」
「ちょっと自分の身辺が騒がしいことに疲れた当時の一ノ瀬君は、高校に入る前の引越しを機に、中学から続く超ラブラブな彼女がいるという作り話を周りに流したのです。
丁度姉貴と歩いてたのを目撃したやつもいて、噂は瞬く間に定着したのでした。」
「なるほど。」
「ん。
だから、安心して。」
「はい。
それなら、良かった。」
「ねぇ、それより、花乃って呼んでいい?」
「っ!!!!!!!
いきなり、ハードルを上げてきましたね!!!」
「まあ、今日のところはコレくらいで勘弁するから。
で、いい?」
こくんと小さく頷く。
「花乃。」
ひぇ〜〜〜。
心臓が持たん!!!
「やっぱダメっ!
無理〜!」
「本当にダメ?花乃。」
「わざと!
それ、絶対わざとやってるでしょ?
わざと、私の心臓止めに来てるでしょ!!!」
あははって笑った一ノ瀬君は、心臓止めるつもりならこんなもんじゃないって言った。
ぷはぁっ!
もう一ノ瀬君に溺れそうです。




