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第1章 内田花乃の日常 07


ピコンと携帯から音が鳴る。

バナーを見ると、ヒナちゃんからのメッセージだ。


"なんか、赤羽さん達にからまれた。

めんどくさ。"


修学旅行から帰ってきて1週間が経った今、どうやら私とヒナちゃんは女子から怒りを向けられている、らしい。


4人でバドミントンをして楽しんでいたのを誰かが見ていたらしく、それがグループ交際してるのではないかとか、抜け駆けしたとか、とりあえず一ノ瀬ファンには看過できない事態らしい。


そして、その怒りの矛先は何故か私ではなくヒナちゃんに向いてる。

まあ、ヒナちゃんはクール系美人さんだし、モテる子なので、一ノ瀬ファンはヒナちゃんを脅威に感じているのだろう。


"今どこ?"


近くにいるなら、ヒナちゃんのところに駆けつけて、赤羽さん達の誤解を解こうと思った。


だけど、ヒナちゃんからの返信では、私が使う路線とは別路線の駅だし、赤羽さん達も文句を言った後行ってしまったそう。

ヒナちゃん、彼氏がいるから一ノ瀬君の事は何とも思ってないって言えば良いのに、そうしたら今度は私に赤羽さん達の怒りが向くかもしれないからって、庇ってくれている。

時間が経ったら、みんな忘れるから大丈夫って。


だけど、私もひとつ気になっていることがあるんだ。

一ノ瀬君、修学旅行の後も、何かと金田君達といる時間が増えてるの。

いつもの仲間達と過ごす時間が減っているんだ。

もちろん一ノ瀬君は、上手にバランスをとってるけど、たまに女子達が金田君達の側にいる一ノ瀬君に不満そうな顔を向けているんだ。


で、金田君と杏ちゃんはお付き合いしてるし、小島君と柚月ちゃんもお付き合いしてるから、何となく金田グループと私たちのグループは一緒にいることが多くなってて、グループ交際してるって思われてるっぽい。

その中に一ノ瀬君も入ってるように見えるみたい。


実際のところ、一ノ瀬君は私たちがいる時には、ほとんど金田君のところには来ないんだけど。





金曜日の今日は、おばあちゃん家にお泊まりするため、最寄駅で降りる。

おばあちゃんに、商店街で買ってくるものはないかとメールすると、丁度お客さんが来るから松風堂さんのお菓子を買ってきて欲しいとの事。

すぐにOKのスタンプを送って商店街を進むと、後ろから、あの!と声をかけられた。

振り向くと、髪の毛を下ろした女の人が立っていた。


どこかで見たことあるような?

同じ学校?

中学の時、塾で一緒だった?

誰何していると、目の前の女の人はキッとした目を向けてきた。


「あの、迷惑なんです。

あなた達みたいなの、なんて言うか知ってます?

ストーカーって言うんですよ。

亮、あなた達みたいな人のせいで引越しまでしなくちゃいけなくなったし。


もう追いかけ回すの、やめてもらって良いですか?

次に会ったら、こっちも警察呼びますから。

じゃあ。」


目の前の女性は、言いたいことだけ言うと背を向けて行ってしまった。


呆気に取られて何も言い返すこともできなかったし、正直何の話をされているのか分からなくて、頭が回らなかったんだけど、その女性の後ろ姿が小さくなった時に、のどか屋さんでバイトしていた人だって思い出した。

一ノ瀬君の彼女の。



トボトボと歩きながら、さっきの言葉を反芻する。

一ノ瀬君をつけ回しているように見られた事、過去に実際にそういう被害を受けていたらしい事、一ノ瀬君を亮って呼んでた事。

気持ちがどんどん落ち込んでくる。


おばあちゃん家について松風堂のお菓子を渡した後、泊まる時に使わせてもらっている部屋に入り、携帯を取り出した。


"私、ストーカーじゃないよ。

でも、もし誤解させてたなら、それで嫌な思いさせてたならごめん。"


メッセージを打ったもののなかなか送れず、画面の自動ロックがかかる事、数回。

紙飛行機マークを押す手が震える。

でも、どうしてもこれだけは伝えたかった。

送信すると、すぐに既読がついた。


"何、急に。

ストーカーなんて思ってないしw

どうした?"


"のどか屋さんに行ったのは偶然なの。

おばあちゃん家が近くにあって。"


"のどか屋?

え、待って。

どういうこと?"


"知らなかったの。

一ノ瀬君が成浪商店街の近くに住んでるなんて。"


"今、どこにいる?"


"四申町のおばあちゃん家。"


"今から出てこれる?"


"うん。"


"じゃ、四申町の第一公園に15分後に来て。"


"わかった。"



おばあちゃんに出かけてくると伝え、公園に急ぐ。

ここからは5分くらいしか掛からないけど、居ても立ってもいられなかった。


一ノ瀬君はまだ来ていなかったので、遊具の側のベンチに座る。

夕方だから、たくさんの子ども達が遊んでいた。

その姿を何となしに眺めてると、公園入り口からカップルが入ってきた。


一ノ瀬君と彼女だ。


嫌、だと思った。

今、彼女には会いたくなかった。

ただ一ノ瀬君に、ストーキングなんてしてないって伝えたかっただけなのに。

思わず下を向いてしまう。


「内田さん。」


一ノ瀬君が呼ぶ。

私は顔を上げる覚悟を決めた。


目の前に一ノ瀬君と彼女が来たので、立ち上がる。


すると一ノ瀬君は彼女に、ほら、と促した。

彼女は少し不貞腐れた様子で一ノ瀬君の顔を見て、それから私に視線を合わせた。


「ごめんなさい。

誤解していたみたい。」


一ノ瀬君は、謝ってきた彼女の方を見ながらため息をついて、私を見た。


「これ、姉のマユ。」


ん?


「何があったか聞いたよ。

姉貴、俺が小さい頃から嫌な目にあってるの知ってるから、ちょっと過保護で。

迷惑かけたみたいで、ごめんな。」


お姉さん???


「え、と、あの。

内田花乃と言います。

一ノ瀬君とは同じクラスで、えっと、私、ストーカーじゃないんです。

この坂の上におばあちゃんの家があって、よく遊びにきてて。

一ノ瀬君がこの辺りに住んでるのは、さっきまで知らなかったんです。」


私の言葉に、お姉さんは少し気まずそうにした。


「みたいだね。

本当にごめんね。

バイト先に亮と同じ学校の子が来たと思ったら、今日も同じ子がいて。

亮はよく私のバイト帰りに迎えに来てくれるから、てっきり偶然を装って会いに来てるもんだと。」


「いえ。

その、お姉さんの気持ちもちょっとわかるっていうか。

なにより誤解が解けたのなら、それで良かったです。」


「うん、本当にごめんね。

あー、もうこんな時間。

私これからバイトあるから、もう行くね。」


お姉さんは、私に手を振って公園を出て行き、残された一ノ瀬君と私は、ベンチに座り直した。


「姉貴、ひどい事言ったでしょ?」


一ノ瀬君の言葉に首を横に振る。


「これまでもストーカーの被害にあったことがあって、引越しまでしたって。

そんなことあったんなら、お姉さんが一ノ瀬君を守ろうとした気持ちも分かるから。」


「でも、ごめんな。」


「ううん、本当に大丈夫。

松尾君もね、言ってたよ。

モテすぎるのも大変って。」


そっかって一ノ瀬君がちょっと笑うから、私も少し笑った。


それから私たちは、暗くなるまでずっと公園のベンチに座りしゃべり続けた。

おすすめの本とか、家族の話とか、好きな動物とか、本当にくだらないことばかりだけど、凄く楽しかった。


本当は、彼女の事とか、これまでのモテ過ぎて困った話とかを聞いてみたかったけど、一ノ瀬君は話してくれないような気がしたから、そこには触れないようにした。



暗くなったから送るよって言われて、すぐ側だからって断ったけど、この辺は道が暗いから遠慮しないでと言われ、甘えることにした。

公園ではずっと話が続いていたけど、今は二人とも黙って歩いてる。

黙ってるのにそれが全然気にならない、というよりむしろ居心地が良かった。

そう思っていた時、一ノ瀬君が内田さんとは自然体でいられるとポツリと呟いた。


ボンッ、顔が赤くなった音がした。

暗いから、気づかれてないよね?

ちょっとアワアワしながら、そっかって答えた。

何て答えていいのか分からなくて、でも何も言わないのもおかしいと思って、結局そっかってしか言葉が出てこなかった。


おばあちゃん家の前まで来ると、じゃあ、またメッセージ送るねって一ノ瀬君は自転車に乗って行ってしまった。

送ってくれてありがとう!って声を出したら、振り返らないで片手を上げてくれた。





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― 新着の感想 ―
お姉さん??? 姉のバイト終わりに迎えに来てくれるイケメン弟とな? 良い子過ぎん?
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