第3章 内田花乃の毎日 03
お正月3日目、マユさんからのメッセージでは、亮君は明日東京に戻るらしい。
結局私は、亮君に連絡することができずにいる。
会いたいけど、会うのが怖い。
もう何とも思われていないって確認するのが、どうしても怖いのだ。
だって、私は、ずっとずっと亮君を忘れられていないから。
やっぱり、ずっとずっと好きだから。
マユさんから、亮君に新しい彼女ができたとか、結婚したという話は聞いていないけど、あれだけ優しくて素敵な人だから、フリーな訳ないし。
二人は別の道を進んでいるはずなのに、私は岐路で立ち止まったまま、戻れもしないし、進むこともできない。
一目だけでも見れたら、もう吹っ切れるのだろうか。
私の知らない亮君を見たら、諦められるのだろうか。
一人でずっと答えの出ない問いを繰り返していた時、携帯が鳴った。
芽衣ちゃんからだ。
"もうすぐ着くけど、何か欲しいものある?"
昨年可愛い男の子を出産した芽衣ちゃんは、今年のお正月は旦那さんの実家へ赤ちゃんのお目見えのため戻っていたのだが、その帰りにおばあちゃん家に寄ってくれることになっていたのだ。
"無いよ!
それより、コウ君の長時間ドライブ、大丈夫だった?"
"しばらく興奮してたけど、疲れて寝てる!
多分、起きたらお腹すいたって泣きそうなんだけど、その辺におうどん屋さんあった?"
"商店街は多分今日までお休みのところが多いから、隣の駅前ならチェーン店がいくつかあるよ。"
"じゃあ、せっかくだからみんなで行こうよ。"
"わかった!
じゃあ、おばあちゃんと待ってるね!"
"うん。
あと10分くらいよ。"
メッセージを終えた後、すぐにおばあちゃんにもうすぐ芽衣ちゃん家族が到着することを伝え、お出かけの準備をした。
隣の駅には駅ビルと少し大きな商業ビルが建っている。
お正月3日目ともなると、人の出も多くて賑やかだ。
芽衣ちゃんの旦那さんのユージさんがパーキングに車を停める前に、うどん屋さんの前でみんなを先に下ろしてくれた。
入店後、早速注文しおうどんが届くのを待っている間、目を覚ましたコウ君が泣き出してしまった。
そこで、旦那さんのご実家滞在と長時間ドライブで疲れている芽衣ちゃんには座っててもらい、コウ君を抱っこして外に連れていく事にした。
芽衣ちゃんには、少し散歩してくるからおうどんが来たら先に食べててと伝える。
いつも先にコウ君に食べさせるから、芽衣ちゃんが食べる頃には冷めて伸びてしまっているのだ。
泣くコウ君の背中をトントンしながら、駅とは反対側へと歩いていく。
外の空気を吸って気分転換したのか、抱っこに抵抗しつつ全身で泣いていたコウ君は、徐々に泣き止み始め、私の首元にキュッとくっついてきた。
かわいい…。
私もコウ君をキュッとしつつ、あ、ワンちゃんいるよーとか、門松キレイねーとか、飛行機飛んでるよーなんて話しながら、のんびりと周辺を歩く。
のんびりと一周回ってうどん屋さんが見えてきた時、入り口でユージさんが待っていた。
こちらに手を振るので振り返す。
パパ、いるねー、とコウ君に話しかけながらお店の前に到着すると、ユージさんにコウ君を渡した。
「コウ君、お散歩大好きだね!」
「アウトドア派だな。」
笑いながら店内に戻り、既に届いていたおうどんを頂く。
コウ君の食べっぷりが見事で、私からも謹んでお裾分けをさせていただいた。
食事が終わり、芽衣ちゃん家族に送ってもらって家に戻ると、おばあちゃんが少し疲れたから休むと部屋に入っていった。
不自由な身体でお正月の準備を頑張り、連日家族が集まったり、おじいちゃんの昔馴染みの方が新年のご挨拶に来てくださったりしたので、気も張っていたのだろう。
おばあちゃんは夕方から少し発熱してしまった。
夜中に熱が上がるかもしれないので、経口補水液を買っておこう。
大きな薬局が最近駅前にオープンしたのでそこに行って、ついでに解熱剤とプリンやゼリーなんかも買ってこよう。
シャッターの閉まる夜の商店街を通って薬局に到着し、あれもこれもと買い込んだせいで買い物袋はずっしり重くなってしまった。
重っ…。
この重さを抱えて坂道登るの大変だなぁなんて思っていた、そんな時だった。
「手伝おうか?」




