表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカリナ王国〜音楽の力が全てのこの世界で〜  作者: 早乙女リリィ
第 I 楽章 オカリナ王国〜自由と優しさ〜
7/45

第6小節目 ♫ 悲劇の煉瓦塔


 王城のてっぺんの塔にあるバルコニー。

 そこから見えるのは城下町、そして反対側は国を囲む針葉樹の林と、遠くに流れる川の景色だった。

 今夜この場所に漂う空気は冷たく、どこか張り詰めていた。


 クロウリーはそこで一人、オカリナを吹いていた。

 穏やかな旋律が夜風に乗って林の向こうへと響いていく。

 だがその音は、どこか寂しさ滲んでいた。

 突然、彼は後ろに気配を感じ、オカリナを吹くのをやめた。


 「こんな時間にどうしたんだい?ミケル。」

 ミケルの表情は、夜の影でよく見えなかった。

 「兄さん、この間、夜中に川辺に行ってたよね。」

 その声は震えていて、怒りと悲しみが混ざっていた。

 「なに、してたの?」

 そして、バルコニーの壁側に立つクロウリーの方へとじりじりと歩み寄る。

 「…ミケル、なぜそれを…。」

 弟の突然の問いに、クロウリーは少し驚いた。そして、なぜだかそれを言ってはならないことのように感じた。

 「…何も…。」

 クロウリーはまたミケルから目を背けた。

 「嘘つき!!」

 ミケルは怒りのまま、クロウリーの胸ぐらを掴み、背中をバルコニーの壁へと押しつけた。

 

 「違う。兄さんはそこで誰かとオカリナを吹いていた…。

 ぼくじゃない誰かと!!」

 ミケルの声はまた一段と大きくなる。

 「なんで!?ぼくたち二人で完璧なアンサンブルなんじゃなかったの!?」

 「ミケル、落ち着いてくれ。」

 クロウリーは低い声で制したが、ミケルの感情は抑えきれなかった。

 「兄さんはぼくを裏切った!」

 「違う!裏切ってなんか!ボクは…。」


 掴み合いの中、突然___。

 小さなものがミケルの上着のポケットから滑り落ちた。

 「ソプラニーノ…!」

 クリスタルの小さなオカリナが宙を舞い、バルコニーの外へと飛び出した。

 月の光を反射し、甘やかな七色に輝くそれは、ミケルにとって何よりも大切なものだった。


 「だめ…!」

 ミケルはそれを掴もうと身を乗り出した。

 その時、体がバルコニーのふちの外へと傾く。


 「ミケル!!」

 クロウリーは迷わず弟の腕を掴んだ。

 そして、自らの体を支えにしてミケルを引き戻した。

 しかし、その代償はあまりに大きかった。


 次の瞬間、クロウリーの体が宙へと落ちていった。

 「…兄さんっ!!」

 ミケルの叫び声が夜空に響く。

 そしてそのまま、クロウリーとミケルのソプラニーノオカリナは黒い林の中へと消えていった。

 ミケルはその場に崩れ落ちた。

 「嘘だろう…兄さん…。」


 林の中からは音ひとつ聞こえなかった。

 ただ風に乗ってかすかに聴こえるのは、クロウリーが吹いていた旋律の残響のようなものだった…____。



 つづく


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ