第4小節目 ♫ クリスタルは虹色
これはミケルがまだ幼く、クロウリーも少年であった頃の話…___。
クロウリーはその時代の神童として知られていた。
大人になってからこそ、テノールオカリナは彼を象徴する楽器となったものの、実は子ども時代はソプラニーノの使い手であった。
彼の自由かつ超絶的技巧は、国中の人々を魅了していた。
そんな兄の姿を、幼い弟ミケルはいつも目を輝かせて見つめていた。
そしてある年の星歴祭の日の夜のこと。
しんしんた雪が降り積もる美しい日であった。
城下町の灯りは金にも銀にも光り、誰もが幸せそうに笑っていた。
城の暖炉の火は静かに温もりを与え、そのそばでクロウリーはミケルに特別な贈り物をした。
それは、クリスタルでできた小さな小さなオカリナだった。
暖かな炎の光を受けて柔らかな虹色に煌めき、息を呑むほどに美しかった。
『それは、兄さんのソプラニーノオカリナ…!』
『そう。でもボクの手にはもう小さすぎる。でもミケルなら、きっと上手く吹けるよ。
君のソプラニーノの音色を、兄さんに聴かせておくれ。』
クロウリーは微笑みながら、自らのオカリナを弟の白く小さな手に握らせた。
天使の瞳は潤み、嬉しそうに頷いた。
『…ぼく、これを一番に大切にするよ!』
その日からであった。ミケルが一日も休まず昼も夜もオカリナを吹き続けたのは。
兄から受け継いだソプラニーノをかまえ、部屋に籠りきりで練習を続けた。
譜面台と向き合い、完璧以外を許さず、他の子どもたちのように遊ぶこともしなかった。
すべては、兄のようなソプラニーノを吹くためだけに。
そしてクロウリーはというと、ミケルにソプラニーノオカリナを譲ったかわりに、新たなオカリナを手に取った。
それは漆黒の黒曜石で作られた、大きなテノールオカリナだった。
彼は弟の類い稀ない技術の才能、そして努力することの才能を確信していた。
ミケルは、いづれこの国一のソプラニーノ吹きになれるだろう、と。
そして自らは、それを支える伴奏者となった。
ミケルの成長は著しく、毎日上手くなっていく様子を見るのは兄としてこの上ない幸せであった。
クロウリーの中低音は、ミケルの高音に寄り添い、穏やかに支えた。
その調和は、国中の光となった。
二人のデュエットは、他に何も欠くとののない、完全なものとなった。
クロウリーは、いつまでも弟の左隣でテノールを吹き続けていた。
つづく