第3小節目 ♫ 謎の音色に囚われて
オカリナ王城の見た目は、栃木県にある『ロックハート城』を勝手にモデルにしています。
ドラマの撮影等でもよく使われる、レンガ造りの素敵なお城です♫
それから夜はふけ、城は静寂に包まれていた。
冷たい月の光が赤土のレンガの城壁を照らし、皆が寝た空間には静かさだけが漂っていた。
だが、その中で微かに足音が響く。
クロウリーは自室の扉をそっと閉めると、廊下を慎重に歩いていた。
手には自らのテノールオカリナを握りしめている。
そして、あの川のある森へと向かうのだった。
一方、隣室で眠れずにいたミケルは、わずかな物音に気がづいた。
そしてその音の主が兄であると分かった瞬間、胸がざわついた。
ミケルは寝間着のまま、足音を忍ばせて兄の後を追った。
そして、肩までつく長いプラチナの髪が夜露に濡れることも気にせず、森の中へと入る。
クロウリーが向かった先は、やはり以前謎のオカリナの音色を耳にした川辺だった。
森の中を進むうちに、やがて川の流れる音が近づく。
瞬く星々と月明かりの下、その川の向こう岸。
クロウリーは足を止め、目を凝らした。
その時だった。
川の反対側から、低くおだやかなバスオカリナの音が微かに響いてきた。
そのしらべは深く、包み込まれるような温かさを持ち、再びクロウリーの心を揺さぶった。
「これだ…。この音だ!」
胸の奥で熱が広がるような感覚を覚えながら、彼は自らのオカリナを手に取った。そして、音色に応えるように吹き始めた。
その音符はが川の上を滑り、向こう岸へと届く。
すると、バスオカリナの音がクロウリーのテノールの音に寄り添うように伴奏を奏で始めたのだった。
二つの音が絡み合い、夜の森に美しいハーモニーを奏でる。
クロウリーは今までに感じたことのない自由を味わった。
これまで彼はテノールオカリナ吹きとして、弟のソプラニーノのメロディーを支える役割をしてきた。
しかし今は、あのバスオカリナの音色に自分の全てを任せてしまいたくなるようだった。
自らの唄を、心の叫びをあの姿の見えない奏者が受け入れてくれているのを感じた。
「誰なんだ、君は…。」
音と音を通じて、クロウリーは川の向こうの奏者に問いかけるような想いを込め、オカリナを吹き続けた。
だがその様子を木の陰から見ていたミケルの顔は、暗がりの中、驚きと怒りに満ちていた。
兄がこんなにも何かに心を奪われるような顔を、今まで見たことがない…__。
『兄さんは、ぼくだけを見ている?』
『もちろんだよ、ミケル。君はボクのたった一人の弟なんだから。』
あの日かわした言葉が脳裏によぎふ。
ミケルの華奢な手が、自らのソプラニーノオカリナを握りしめる。
しかしそれを吹くことはできず、ただそこに立ち尽くしていた。
クロウリーはメロディーを奏で続けた。彼にとってこの時間は、永遠に続いてほしいと願うほどの至福だった。
ミケルは一歩ずつ後退りし、背を向けた。
「許せない…。」
その言葉は森の奥へと吸い込まれ、夜の静寂に溶けていった。
つづく