表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オカリナ王国〜音楽の力が全てのこの世界で〜  作者: 早乙女リリィ
第 I 楽章 オカリナ王国〜自由と優しさ〜
2/45

第1小節目 ♫ 王家の兄弟



 オカリナ王国の王子、クロウリーとミケル。


 彼らは幼いころから音楽を愛し、とりわけオカリナに心を捧げてきた。


 王国を象徴する楽器であり、国を動かす力となるオカリナ。その音色をを操ることこそ、王族の使命だった。


 二人を表すとしたら、まるで月と太陽のようであった。

 弟のミケルは白金の長い髪を持つ、美しい少年だった。

 陽の光に照らされれば、絹のように輝き、周囲の目を奪う。小柄で華奢な体つきと、人形のように整った顔立ち。その存在そのものが、彼の持つソプラニーノオカリナのように繊細で、どこか鋭かった。


 「兄さん、ぼくたち二人なら、この国をもっと強くできるよね。」


 高く澄み切った声が、兄のクロウリーに届く。

 ミケルの瞳は純粋な信頼と、自分だけを見てほしいという独占欲を含んでいた。


 対するクロウリーは、ミケルと全く異なる印象を持つ青年だった。

 夕闇を思わせる紫の短髪は緩やかに波打ち、エメラルドの瞳は鋭く光を宿していた。

 その瞳が三白眼であることも相まって、周囲からは謎めいた印象を持たれることも多い。

 だが、彼の飄々とした態度の裏には、弟を大切に思う優しさが溢れていた。


 「そうだね、ミケル。君とボクなら、この国を永久に守っていける。」


 クロウリーはそう言いながら、テノールオカリナを手に取った。


 二人のオカリナは大きさが異なり、奏でる音域も対照的だ。


 ミケルのソプラニーノオカリナは、ソプラノよりも高く響き、小鳥のさえずりのように旋律を紡ぐ。


 一方、クロウリーのテノールオカリナは、低く深みのある音色だ。メロディーを支え、調和を生み出す役割を担う。


 「準備はいいかい?」


 クロウリーが笑みを浮かべると、ミケルは微かに頷き、唇をオカリナに当てた。


 演奏が始まると、まるで世界が二人だけのものになったかのようだった。

 ミケルのソプラニーノは舞い上がるように高らかに鳴り、クロウリーのテノールは大地に根を張るように共鳴する___。

 兄弟の音色が重なり合い、ひとつの完璧なハーモニーを紡いだ。


 ミケルは演奏中、ふと兄の横顔を見つけた。

 このごろクロウリーは、まるで心ここにあらずといった目をして、オカリナを吹いている時がある。

 それはほんの一瞬のことではあるが、彼の表情が、ミケルの胸に不安を呼び起こす。


 「兄さんは、ぼくだけを見ている…?」

 デュエットが終わると、ミケルは不意に問いかけた。


 クロウリーは驚いたように弟を見つめたが、すぐに微笑んで肩をすくめた。

 「もちろんだよ、ミケル。君はボクのたった一人の弟なんだから。」


 だが、弟の不安は消えなかった。

 兄がどこか遠くを見つめるあの瞬間。

 彼の心がいつしか、自分の知らない何かに奪われるのではないかという恐怖。

 それは日に日に、胸のしこりのように残り続け、大きくなっていった。


 そんなある日、森の川辺で、二人はいつものようにデュエットをしていた。

 曲は順調に進んでいったが、ふとクロウリーがオカリナを吹く手を止めた。


 「どうしたの?」

 ミケルが気づき問いかけるが、クロウリーは答えない。

 かわりに、真剣な表情でどこか遠くへと耳を澄ませていた。

 そしてかすかに届く音色。


 それは、オカリナの音だった。

 ミケルのソプラニーノよりも、そしてクロウリーのテノールよりも低い、『バス』という音域の、低いオカリナの音色。

 悲しげでいて、心を惹きつける音。

 その時クロウリーは初めての感情に襲われた。


 「この音…一体誰が…。」

 そう呟くクロウリーを見て、ミケルの胸に嫉妬の火が付く。


 「兄さん…今の音色より、ぼくの方がずっと素晴らしいよね…?」

 ミケルの声は小さく震えていた。

 クロウリーは何も言えず、ただ目を伏せていた。




 つづく





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ