運命を回避しようとすると……
日曜日昼近くまで寝ていた俺はメールの着信音で目を覚ました。
腹減ったななんて事を考えながら寝っ転がったままメールを読む。
「1年前の俺へ」
何だよ1年前の俺へって? 迷惑メールか? 誰かの悪戯か? 俺はメールのアドレスを確認する。
メールのアドレスは見慣れた俺のアドレスだった。
え、何で? 首を傾げながら続きを読む。
「今お前は首を傾げながらこのメールを読んでいる筈だ。
このメールは1年後の自分自身からの忠告だから最後まで読むように。
迷惑メールでも悪戯でもないからな。
俺がお前と同一人物だと証明する為にお前が昼過ぎまで寝ていた理由を書く。
昨日レンタルショップで借りて来たカリナちゃんのAVを、明け方まで見続けていたからだ。
どうだ、図星だろ。
それで忠告だが、お前はこれから昼飯を買いにコンビニに出かける。
大通りに出たら絶対に右に曲がった先のコンビニに行くな。
俺は右に曲がったばかりにマンホールに落ちて両足に全治3ヵ月の怪我を負った為に、研修期間中の今の会社を辞める羽目になった。
工事会社からそれなりの慰謝料を貰えたが、いまだに外出する時は杖をつき再就職先も見つからない。
だから絶対に右のコンビニに行くなよ」
俺は首を傾げたままメールを読み終えた。
メールにあるように明け方まで推しのカリナちゃんのAV見てたのは確かだが、それだけでメールを信じるには無理がある。
俺はメールを削除すると腹の要求を満たすため昼飯を買いに出かけた。
大通りに出て右と左どちらのコンビニに行くか迷ったが、どちらも同じ系列のコンビニなので忠告を信じたわけでは無いが左に曲がる。
左に曲がり10数メートル程歩いたところで後ろの方で叫び声が上がった。
「大変だー! マンホールに人が落ちたぞー」
その叫び声を聞き立ち止まり後ろを振り返った俺に、道沿いの駐車場からバックで出てきた乗用車が突っ込む。
俺は通院している病院の待合室から1年前の俺にメールを送る。
「1年前の俺へ。
今お前は首を傾げながらこのメールを読んでいる筈だ。
このメールは1年後の俺自身からの忠告だ、だから最後まで読め。
迷惑メールでも悪戯でもないからな。
俺がお前と同一人物だと証明する為に、お前が今まで寝ていた理由を言おう。
昨日レンタルショップでカリナちゃんのAVを借りて来て、明け方まで見続けていたからだ。
どうだ、当たっているだろう。
それで忠告だが、お前はこれから昼飯を買いにコンビニに出かけようと考えている筈だ。
だが外出するのを止めるか、時間をずらせ。
今外出すると、車にひかれて骨盤を複雑骨折して全治6ヵ月の怪我を負う事になる。
この怪我の為せっかく就職できた会社を辞める事になっただけでなく、聡美ちゃんに振られた。
保険会社から多額の慰謝料を貰ったが、いまだに外出する際は車椅子を使わなくてはならない生活を送っている。
だから絶対に外出するなよ」
俺はメールを読み首を傾げた。
メールにあるように明け方まで、推しのカリナちゃんのAVを見続けていたのは確かだが、それだけでメールを信じるには無理がある。
俺はメールを削除した。
メールを信じたわけでは無いが、腹の要求を満たす前にベランダに出て煙草に火を点け胸一杯に吸い込む。
煙を吐き出しながら両腕を左右に広げ後ろに反り返るように伸びをした。
その伸びをした俺の頭に、隣の高校のグラウンドから飛来した野球のボールが激突する。
その激突した衝撃で俺は、ベランダの窓ガラスを突き破って後ろ向きに倒れ込んだらしい。
らしいって言うのは、目を覚ましたとき俺は身体にいろんなチューブやコードを繋げられて、病室のベッドに寝かされていたからだ。
身体を起こす事ができず目だけを動かして周りを見渡す。
ナースコールのブザーを見つけたんで腕を伸ばそうとしたのに何故か腕が動かない、腕が動かないだけで無く首から下の感覚が全く無い。
俺はあのとき窓ガラスを割りながら後ろ向きに部屋の中に倒れ込み、テーブルの角で頸椎を強打して脊髄を損傷する、そのため全身不随になって呼吸も機械の世話になっていると点滴の補充に来た看護師に説明された。
あの時サッサと外出していれば良かったのだ、そうすれば車椅子生活で済んだというのに。
運命を回避できたからといって良い方に転ぶとは限らないって事なんだなと、今更だが染み染み悟ったよ。