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3、開かずの城

 追加の仕事が決まったので例の庭園へとやってきた。どこかで噂を聞いたのかウサギたちを

はじめとする月面の住民たちが集結していた。中には旗や横断幕を掲げているものも見えるからお祭り騒ぎ。

「本当に水が引いてる」 

 例の池というか堀に近いのかもしれないが、そこの水が本当になくなっていた。城の真下まで歩いて行ける。

「じゃあ行ってくるでしゅ」

 頭の上に乗っかっているみるくが周りに手を振る。長老の判断でみるくも同行することになった。

「君では、文字の判読や分からないものがあるじゃろう。だからみるくも一緒に連れて行っておきなさい」

 水が引いているのは大体数十分。それまでに中に入らなければならない。そして、文入り口の時点で字の解読が必要な場合そこですべてが終わってしまう。

余計なロスや手間を省くためだ。

 梯子を使って底へ降りていく。真下には石段のようなものがあり底にボートが止めてあった。水が引いたといっても、完全に干上がったわけではない。あくまで入り口が見える程度まで水位が下がるだけ。間にどうしても水が残る場所があった。

「しっかりつかまってて」

「分かったでしゅ」

 ボートを漕いで、向こう岸を目指す。水面は荒れることなく凪が続く。足がつくところまで来たらすぐさま降りる。水が浸かっていたゆえにぬかるんでいる。足をとれないように慎重に歩いていきドアの前にたどり着く。コンクリートで足場は固めてあり二人分座れるくらいのスペースがあるのでいったん腰かけた。

 鍵の構造がどうなっているかを確認すると取っ手がついているうえに、なんか記号がついている。合計10個。普通に考えた場合、数字なのだが。その隣にも記号が並んでいるがみるくに見せてもらった図鑑に載ってた気もする。

「これはデュアル式ロックでしゅね」

「知ってるの?」

「一時期、月面帝国で主流だったカギの仕組みでしゅ。番号でロックをしてそれが分からないと持っているカギでカギを開けられないんでしゅ」

 二段階ロックを物理的に実現した仕組みらしい。

「隣の文章は?」

「カギを開けるためのヒントが書いてあるでしゅ。内容は月光ニンジンが育つまでの日数、ジェミニ金貨の重さ、創国記の章の数」

 全部知らない数どころか初めて聞く単語だって混じっている。

「うーんと月光ニンジンは95、ジェミニ金貨は60、創国記は23でしゅ。数字の並びは地球と同じでしゅよ」

 声に不安の色はない。確実に暗記している。

「じゃあ試しに」

 みるくの教えてくれた通り、ダイヤルを打ち込んでみた。そのあと取っ手をつかんだところ下がった。そしてダイヤル部分がスライドするとその下から鍵穴が出現する。二段階式でこれも明けないと、中には入れてくれないようだった。

「番号の仕組みが分からないといけないので、一段階目は時間稼ぎとか足止めの意味合いがつよいんでしゅよ」

 みるくが先にドアについているカギの構造に注目した。さっきの番号をヒントから割り出してくれたりと、長老が連れて行くようにいった理由がわかる。そもそもガイドとしても優秀だった。大学を飛び級で卒業しただけある。

「うーん」

 水に接する以上密閉性がかなり高いとみていい。その中で浸かっていたとして、全く錆びていない。

 とりあえず、鍵穴の中身を確認すべく高彩度レンズを左目に取り付けて、覗き込む。わずかな咲間に明かりを突っ込んでカギの方の仕組みについて情報を取らなければならない。奥行きがどれくらいとかどういう構造の把握に努めていた。カギの中身は正面からしか見ることはかなわないが、状態についてはある程度分かる。荒廃しているとか錆が出て破損が出ているとか。今回は開錠もできないような深刻な欠陥はないようだ。水が鍵穴の中に入っている心配もない。

ーそれなら。

 次の作業、第二段階に移る。実際に合鍵を作る工程だ。鍵穴の詳しい奥行を図るべく針金を使って長さを図る。印をつけて端末を取り出す。

「ええ……」

 パソコンで状の内部を表示させると見たことない構造になっていた。レンズで中身を確認できたものが一つ。そしてもう一つ枝分かれする形で鍵穴が伸びている。一つのカギの中に二つのカギがあるような形だった。

「二葉式でしゅね。これもよく見られる形。複数のカギを組み合わせて一つのカギを構成しているんでしゅ」

「開け方は?」

「まず一つ目のカギを開けるんでしゅ。それでカギを抜くと二つ目のカギを開けられるようになりましゅよ」

「それを開ければ中に入れるというわけね」

表示された画面で肩に合うようにカギを成型していく。カギ一つ一つは複雑な形はしていない。

フォーマットとして用意されているデータの中から、近いものを選んで整形を実施。これくらいであれば、よく仕事の依頼で請け負っていた。いつも通りの調子を意識してカギを作ってい

き完成させる。

「まずこれが一本」

「開けてみたいでしゅ」

「はい」

 頭からみるくが手を伸ばしているので渡す。受け取ると飛び跳ねて着地。鍵穴へさっき作ったカギを差し込んで時計回りに動かした。かちゃりという音がしてすぐにカギを戻して戸を引っ張る。少しだけ緩くなった気がするのであともう少し。二本目も急いで作成する。取り出したデータを参考にしながら、作ってもう一本も差し込んで開錠を行った。

「開いた」

「中に入るでしゅ」

 重いドアを押して中へ入る。どうにも埃っぽい。薄暗いと思っていると、みるくがライトをつけてくれた。

「持っていくように言われたんでしゅ」

 照らされて分かった中は倉庫だった。めぼしいものはあまりない。と思ったら新聞らしきものが机の上に置いてある。

「かなり古いでしゅね。月面歴一二三八年」

「地球で言うとどれくらい?」

「一九世紀の真ん中くらいでしゅね」

 ということは幕末、明治時代くらい。

「この倉庫を作った時の記事でしゅ。目安みたいなものとしておいてあるみたい」

 それ以外に何か、隠されていないか。棚をあさってみた。しかし出てくるのは古い新聞の記事が多い。探すと出てくるのは農業で使うような機材もある。宝を隠す以外に普通の倉庫として使っていたような気がしてきた。

「タカラはここにはないみたい」

「じゃあ上の階でしゅね」

 正面にはわかりやすく梯子がついてる。と登ろうと手をかけた時だった。開かれていた扉が重い音ともに動く。と思っていたら閉じた。しまった中に閉じ込められたみたい。

「どうやら制御装置が入っていたみたいでしゅね。外の水が満ちてくるとどこかのセンサーが反応して戸が閉まるんでしゅ」

 外側の様子がどれくらいか分からなかった。ただ満ちてくるのが早かったのは予想外である。こうなってしまうと、取れる手段は一つだけ。

「なんか上に出口があるから、上を目指すしか」

 梯子を上って、二階部分へとやってきた。ここも暗い。というか何階構造になっているのかもわからない。何かヒントのようなものがないか探してみる。間の中身を開けると城の図面が出てきた。詳細なスケッチや複数の城の図が載っている。

「これを見ると、全部で3階ってことになってましゅ」

 疑問は一つだけ解決できた。それ以外に同じような缶が置いてあり、中身もノートが入っている。開いてみると今度は屋敷の図面が載っていた。どれもよくわからないが、暗号みたいなものが書いてある。全ページに少しずつ。

 奥へと続く今度は大階段を昇っていくと。

「おでましでしゅね」

 入るものを拒む大扉が姿を現した。どうやらこの先に宝はある気がする。肝心のカギがどういう構造になっているかといえば。

「鍵穴が3つって」

「初めてみましゅね」

 何はともあれ、鍵穴の中身がどういう構造になっているのかを確認する。3つのうち2つは内部がここに入ってくる場合と同じで枝分かれ手している双葉式。そして残り一つは枝分かれしているわけではない単一の形。だが穴の形は稲妻を思わせる形で、細かい形が難易度を上げている。

「これは多分、条件があって指定されている順番で開けないとだめでしゅ」

「順番?」

「鍵穴を入れる順番でしゅ。順番と開け方を間違えると開かなくりましゅ」

 急に難しいものが出てきた。とりあえずカギは、何とか作らなくてはいけない。問題は順番である。これがさっぱりわからない。

「なんか戸ノ上にありましゅね。条件は真実の姿を起こしたものたちの中に隠す。なんでしゅかね」

 二人そろって考えてみる。カギを作る作業も大事だが、開ける順番が指定されているなら暗号の解読も同じくらい重要だ。みるくも考え込み頭を抱えている。時折、戸の近くに書かれている文字を読み返していた。

真実の姿、そして「たち」とついているから、暗号の書かれているそれはひとつではない。複数にまたがっているものだと思う。真実の姿を見通していて複数になるもの。どこかで見たはずだ。そういえば。

「分かった、こっちだ」

 みるくを頭にのせて、梯子を下りて二階へ戻る。目当ての物はここにある。さっき開けた缶の中身に入っているノートを取り出した。そしてさっきのページを開く。

「真実の姿を起こしたもの、図面だから、これに書いてある内容って読める?」

「読めましゅよ。このくらいの量と長さなら整理できましゅ」

 みるくがノートに記載されている暗号をメモ帳に書いていく。

「多分こういう内容でしゅ」

一、左と右にカギをさせ

二、同時に、反対の方向へ回せ

三、中へカギをさし、左右を抜け。抜いた後で中を回せ。

四、左のカギをさし、同じ方向へ回せ

五、右のカギをさし、さっきと反対へ回せ、この時は左と右を同時に回してはならない。

六、中央へさし、もう一度回せ。そしてすべてが開かれる。奥にある宝をとれ

 みるくが解いてくれた暗号をもとにして、カギを作ってその順番通りにカギを差し込んでいく。まず最初に左と右の鍵穴に差し込んで指示通りの方向に回す。かちゃりという音が静寂な空間に響いた。

「開いたでしゅ」

 次に真ん中のカギをみるくに手渡して差し込んでもらう。その間に左と右で使ったカギを抜く。抜いたのを確認してみるくがカギを回した。先ほどと同じ音がするのでここまではできた。

次は単体で左と右をそれぞれ、カギを開けていく。右はみるくに預けた。

「じゃあいくでしゅ」

「よし左だ」

 こちらで左を担当する。両方とも完了したら最後、中央にカギを差し込んで、扉を開く。音がして戸を押す。重い扉の向こう側へ入ったが、みるくの持っていたライトの光が消える。

「これは何か仕掛けがありましゅね」

 真っ暗かと思ったが、天窓のようなものがありそこから、光がさしている。これで部屋の様子はうかがえる。ライトが付かない理由はすぐわかった。何かお札のようなものが貼ってあるのをみるくが発見し、その正体を教えてくれる。。

「あかり封じのお札でしゅ。あれがあると自然光しかダメなんでしゅ」

「何に使うの?」

「寝室で、よく眠りたい人とかでしゅね」

 需要がありそうな品だ。お札の話を聞きながら部屋を進むと机の上に大きめの風呂敷が置いてあった。

「これは封じの風呂敷。これに包むと中のものの時間が止まるんでしゅ。食べ物も腐らず金属も腐敗しないんでしゅよ」

 宝というのは多分これだ。風呂敷を背中にかついで、外を目指す。天窓のあたりから外に出られそうだ。窓を開けて城を出てみた。まではいいのだが。

「高すぎるな」 

 3階。屋根の上である。下は水。どうやっても降りられない。向こうには出発す前に見かけた旗や横断幕が小さく見えた。来るときにはなかったはずの幟まで出ている。ここでカギを開けている間に、増えていたらしい。気が付けば、水が元の量に戻っている。ボートも遠い。一体どうすればいいのか。と思っていると助け舟を出したのは。

「見てるでしゅ」

 みるくが一回転して人間の姿になる。初めて見た時と同じウサギの耳がイメージされたパーカーを着ていた。

「つかまっててください」

「何をする気、って」

 それよりも早くみるくに担がれてしまった。そして狭い屋根の上を全力で走り始める。加速度が高いのか、信じられないスピードに到達したかと思えば次の瞬間。

「ねえ、これ」

「あんまりしゃべると呼吸ができなくなりますよ」

「ええ!!」

 とてつもない速度で空を飛んでる。というか跳躍しているのか。人の姿になっているのに飛んだり跳ねたりも容易だったとは。そんなことを考えているうちに、水の上を通過し陸地へと降り立った。

「も、戻りました」

 拍手喝さいが鳴り響く。ウサギとはいえすさまじい跳躍力だ。見ればみるくはもう人の姿から戻っていた。

「おお、無事に」

 ガロンがやってきた。依頼人がそろっているので取ってきた風呂敷を目の前に出す。

「多分、宝っていうのはこれです。最上階にあったので」

「それなら間違いない」

 ほかのウサギたちも徐々に沸き立つ。みんなこの瞬間を待ち望んでいたのだ。

「早速開けてみるかね」

 黒い長老うウサギの指示を受けて風呂敷をほどく。中に入っている宝というものは一体。期待が高まる。そして中には。

「……これは一体」

 青々とした葉っぱ付きの真っ赤なニンジンと真空パック、が入っていた。真空パックの中身は写真と紙きれ。みるくの話通りニンジンも真空パックもまったく劣化している様子がない。ニンジンのほうはどこか見覚えがある。と思っていたら。

「わー、これが太陽ニンジンでしゅ」

 みるくが喜び、そばに駆け寄る。この前教えてもらった珍しいニンジンが宝として隠され

ていたみたい。根っこの部分たる色が、太陽の名を冠するのに恥じない、派手な赤色をしているのも目を引く。しかしそれと同じくらい目立つのが葉っぱだった。見たことないくらい、鮮やかな緑色をしている。量も豊富でこれクレイなら食べ応えがある気がする。

「月で生えているニンジンは刺身にしたりすると、おいしいんでしゅよ」

 葉っぱの刺身とは興味深い。食べてみたい。とニンジンばかり気を取られていたがもう一つの宝の中身は何かわからない。真空パックみたいな袋に入っているが。

「ちょっと開けてみようかの」

 ガロンがパックを手に取り、中身を取り出す。写真とよく見ると切符。写真に写っているのは駅と流線型の機関車っぽい。

「おお懐かしいのお、これは星雲間超特急じゃないか」

「なんです、それ」

「文字の通り、星雲との間を走る特急列車じゃ」

「前に見た、空を走る列車がそうでしゅよ」

 みるくと観光していた時に見たあれだ。

「てことは、これは切符」

「そうみたいですな、月面と行き先はしし座方面とな」

 運転開始初日に走った列車の記念切符が大切そうに保管してある。

「先代の宝というのは、貴重な太陽ニンジンと星雲間超特急の運転開始日に取った写真と切符だったのでしょうな」

「手紙にもそれと同じこと書いてありましゅね」

 みるくが手紙を読んでいた。

「ありがとうございました。曾祖父が残した宝のために、金庫のカギを開けていただいて」

 頭をガロンが下げてお礼を伝える。そして手を握られた。なんだか数時間以上経過していたような気がする。時間を把握しようと思ったが、ここの空は黒い。そういえば月に来てから時計をあまり見てなかった。

 行列の前日のこと。太陽ニンジンはノースタンに運ばれて研究に使われるらしい。増やすのに使うらしいが、通年栽培は現状では難しいという。幻の野菜なだけあって、簡単なことではない。ただ一部は食べられるとのことで、分けてもらった。

「それで、君に出してもいいことになった。功労者じゃから」

「やったでしゅね」

「ありがとうございます」

長老とみるくが目の前にいる。そして皿があった。中身は、太陽ニンジンの葉っぱで作られた

刺身である。太陽ニンジンをこれからは幻の野菜ではなく少しだけ身近な野菜となるようにし

しているらしい。。それで食べ方を今模索しているところだという。

「今回は来てくれてありがとう。君のおじいさんにもよろしくな」

 そういえばおじいさんとの連絡はあの後とった。追加で仕事が入ったらそれも片付けてこいとのことで、行列については是非見せてもらえたと簡単に許可してくれる。経験値をとにかく積んで仕事をこなせということか。

「月にまた来てくだしゃいね。待ってましゅ」

みるくが手を差し出してくれたので、握る。初めてできた異星人の友達。わが一族と月との交流がこれからも続いていく証。それは青い星が浮かび上がる漆黒の空の下で起きた出来事。

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