交わされた 密約
アジトに戻ったミルセから、セルアルの無事を知った手下達は
ホッと、胸を撫で下ろした。
そしてウルフの希少種である、ガイア・ウルフ数体を討伐した
ミルセの話を聞きたくて、全員が集まっていた。
早く話しを聞きたいと言わんばかりに、ズラリと並んだ手下達
の姿に、溜息を吐いて語り出した。
だがミルセには、そんな事よりも、気になっている事があった。
セルアルが、いつ念術剣を覚えて使える様にまでなっていたのか。
ミルセが念術剣の鍛錬を行なっていたのは、全員が部屋に戻り
寝静まるのを待ってから、腕が鈍らないようにと、
型と技の修練をしていた。
それをセルアルが見て覚えた・・・と言うことになるが
あり得ない、見ただけで念術剣を使い熟しただなんて…
念術剣とは、気を練って剣をより強化して敵を斬る。
気を練り、オーラを具現化して剣に纏わすまでなら、直ぐにでも出来るが
具現化して剣に纏ったオーラを、保つのに私でさえ二年かかった…
それをセルアルは、誰にも教わらずに自力で、しかも一年足らずで
覚えたことになる…
こりゃあ、磨けば光る!とんでも無い、逸材を拾ったかもね!
そして、翌日からミルセは、半ば強引に念術剣の全てを教えると同時に
体術や戦闘スキルの使用法等を、セルアルに徹底的に教え込んだのだった。
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十年の月日が、流れてセルアルが、十五歳を迎えたある日。
「セルアル」
ミルセが、少し大きいポーチを胸元に投げつけた。
「その中に紹介状がある、王都の冒険者協会を訪ねろ」
「え?王都の冒険者協会?」
首を傾げたセルアルを見て、ミルセの心が痛んだのには理由があった
それは以前、冒険者協会のギルマスである妹から、連絡があった時の事
王都では、多くの魔物が突然変異を起こして、上位種や希少種等に
変異して、その突然変異を故意的に起こしてる、何者かの存在。
そして変異した魔物に、多くの冒険者が傷付いて、挙句に死者も出る始末。
増え続ける魔物に対して、冒険者の質は落ちる一方…
強くなる前に、魔物にやられて引退する者が多いからだった。
そこでミルセが思いつたのが、セルアルだった。
今育てている若者が、強くて念術剣を始め、武術を教え込んでる事。
十年もすれば、冒険者ランクA、もしくはSランクに匹敵するかもしれない。
その話に妹のカルラは食いついた。是非に冒険者協会に欲しい逸材だと!
ミルセも思った、予想通りだと!
そして交渉が始まったのだった。
「カルラ」「幾ら出す?」
「ミルセ姉、お金取るの?」
「当たり前でしょ」「念術剣から武術全て教え込むのよ?」
「嫌なら、このままここで魔物狩ってもらうからじゃあ」
「待って!」「分かった」「幾ら?」
「そうね」「金貨六百枚は欲しいわね」
「それは無理!四百枚!」
「う〜ん、じゃあ五百枚は?」
「分かった…でも本当に金貨五百枚の価値あるんでしょうね!」
「それは私が保証する」「大丈夫」
ミルセとカルラの間で、そんな密約が交わされていたのだった…
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「セルアル」「実は今王都では、魔物の脅威に住民達が
怯えながら暮らしてるの」
「そして、待ってるの、勇者が現れるのをね!」
「ぼ、僕にその勇者になれと?」
「そう、私も別れるのは辛い」
「でも、今の王都を魔物から守れるのは、セルアル!」
「貴方だけ〜〜〜!」
「わ、分かりました」
「ミルセ姉さんから、伝授されたこの力で、魔物から王都を
王都に住む住民を、守ってみせます!」
「そうだ」「その心意気だ!」「行ってこい!」
「はい!」
セルアルは、勢いよくアジトを飛び出すと、木から木へと
飛び移りながら、王都に向かった…
その後ろ姿を見て頷きながら、ミルセは心で呟いた
『チョロいな』・・・と