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初めての 戦い



  


  セルアルが、拾われて来る以前から水汲み・食事・掃除等が当番制に

  なっていて自分の役目を、それぞれが従事していた。

  

  そして一週間が過ぎた頃、その当番制に漸く気付いたセルアルが

  「僕もやりたい」初めての意思表示だった。


  セルアルの初めての意思表示に、応えたいとミルセは思った。

  だが決め事はどれも一見楽そうに思えるが、セルアルを含めると十一人分。

  まだ幼いセルアルには、とても大変な作業になる、中でも一番大変なのが、

  水汲みである。湖まで慣れてる大人の足なら、片道五分程度で着くが、

  慣れてない子供なら、三十分以上はかかるだろうし、桶に汲む水も重い。

  その上、何往復もする事になる。

  

  それらの事情をセルアルに説明して、『今はまだしなくていい』

  そう告げたが『それでも頑張る』の一点張りで、

  遂には、ミルセが根負けしたのだった。

  


  「さてと」「今日は僕が、水汲み当番か〜」

  セルアルは文句を言いながらも、どこか嬉しそうにアジトを出ると

  湖に向かって歩き出した。



  

  細長い棒の両端に、吊るしてある大きめの桶に、それぞれ、水を汲むと

  肩に棒を乗せて、バランスを取りながら、来た道を戻り歩き始めた。

  一年が過ぎても、これだけは慣れなかった…

  

  水は少しの振動で、桶の中で暴れてその反動で、転びそうになるのを

  足で地面に踏み止まり、肩に乗せた棒を調節しては、足を踏み出す

  その繰り返しで、もう少しの距離まで来たセルアルの足は止まった。

  

  そしてゆっくりとしゃがんで、桶を静かに地面に置くと

  息を殺して、木の陰に身を潜めた、それは

 

 

 「ガルルルゥ」 

  ウルフが唸り声を上げて、クンクンと鼻で匂いを嗅ぎながら 

  獲物を探す様に、彷徨いていたからだった。


  ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ。

  セルアルの胸の鼓動が、ドクドク高鳴り嫌な汗が流れ落ちた。

  チラッとウルフを見ると、地面に鼻をくっ付けるようにして

  ゆっくりとセルアルの方に、近付いて来ていた。


  は、早く逃げなきゃ。立ちあがろうとするが、足は震えて力が入らず

  その場から、一歩も動けなかった…

  僕はここで死ぬのか?嫌だ死にたくない。

  

  その時「グルルルル」ウルフが、大きな口を開けて

  セルアルに噛み付いた。


  「うわっ」

  セルアルは、反射的に避けると四つん這いで、森の斜面を登り

  立ち上がると、走り出した。

  

  その後ろを物凄い速度で、ウルフが追いかけて来た。


  木の枝等をかき分けながら、必死で走ったが、安定しない地面で

  足を捻りうつ伏せの状態で、倒れ込んだ。


  「グルル」

  ウルフは直ぐに追いつき、口からヨダレを流しながら、舌舐めずりを

  するとゆっくりゆっくり近付いて来た。


  「こっちに来るな!」

  地面に転がってる、木の枝や石をウルフ目掛けて次々と投げたが

  ウルフがそんな物に怯むはずもなく、容赦無く飛び掛かってきた。

  

  それを待っていたかの様に、セルアルは右手一杯に握りしめた

  砂をウルフの顔目掛けて、投げつけた。


  「キャウン」

  ウルフは、悲鳴を上げて後ずさった。


  それを見たセルアルは、木の棒を拾うとギュッと握りしめて構えた。

  逃げてもすぐに追いつかれる。でも、こんな木の棒じゃ…

  そうだ!一か八か、あれをやってみよう、一年間ずっと見てきて

  練習もしたんだ!どうせこのまま何もしないと、死ぬんだから!



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



  その頃、セルアルを探しに出ていた、ミルセが倒れてる桶を見つけて、

  セルアルの名前を叫ぼうとしたが直ぐに思い止まった。私は馬鹿じゃないのか。

  ウルフから隠れてたら、返事ができる筈もない。

  

  ミルセは両手を合わせて、目を閉じて深く息を吸い込んだ。

  「サーチ」

  周辺の音や声を、聞き分けた、ガイア・ウルフの唸り声か、やはり数体居るな。

  それに、普通のウルフもいるみたいだね。セルアルの声!よしまだ無事みたいだ。

  ミルセは声が聞こえた方角に、向かって走り出した。

 

  「もう近い筈」

  木の上から辺りを見渡すと、セルアルがウルフと対峙してるのを

  見つけた。

  

  直ぐに助けるぞ!踏み出そうとしたが、セルアルの構えと声が聞こえて

  ミルセの足は止まった…


  「念術剣 零の型」「滅びの舞 一滅!」


  襲いかかってきたウルフを、セルアルが一刀両断した瞬間だった


  「やった」「勝った」

  力が抜けて、ヘナヘナとその場に座り込んだセルアルに

  今度は希少種のガイア・ウルフが、唸り声を上げて近付いて来た。


  

  何度も立ちあがろうとしたが、さっきので力を使い果たしたのか

  足が言う事を聞かなかった。

  今度こそ、ヤバイ…

  

  その時、ズンっとセルアルの前に、ミルセが現れた。

  「よく頑張ったな」「もう大丈夫だよ」


  そしてウルフの希少種を、ミルセは事もなくあっという間に

  倒していった…


  「ふう」「流石に、五体はちょっと疲れたね」

  「おい、セル・・・」


  眠ってるセルアルを見て言葉が途切れた。

  幸い怪我も軽い引っ掻かき傷だけだったので、ミルセは

  ホッと胸を撫で下ろした。


  それにしても、セルアルの奴、いつの間に覚えたんだ?

  さっきの型は教えるどころか、セルアルに見せてさえ無い筈だけどね?

  

  「まあ無事だったから、良しとするか」

  

  セルアルを抱き上げると、アジトに戻ったのだった。

  

  

  

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