美味しいご飯と美味しくないご飯。
テーブルの上には、出来合いの料理が準備されつつあった。
温めては皿に乗せる者と、それをテーブル迄運ぶ者に分かれると
手際良く動いて、十一人分の料理がズラリとテーブルに並べられた。
全て並び終えるのを確認すると、各々が決められた席に座り始めた。
騒ついてる中で、どうすればいいのか分からず、ウロウロしているセルアルに
ミルセが手招きをすると、自分の隣に座る様に促した。
「ここに座っていいの?」
「ああ」「今日からここが、セルアルの席だよ」
「僕の席!」「凄い」「僕の席だ!」
セルアルが、椅子を引いて嬉しそうに座って
目の前に並べられた、食事を見ると不思議そうに首を傾げた。
「どうしたのセルアル」「苦手な物でも、あったの?」
「だけどね、好き嫌いはダメだからね」「出された食事は…」
「そうじゃなくて、このご飯誰の?」「間違えて、僕の前にあるよ」
「え?」
ミルセの言葉が途切れ、遂さっき迄ガヤガヤと賑やかだった
キッチンが、一瞬で静けさに包まれた・・・
「お、おいおい」「何を言ってるの」「これは、セルアルのご飯だからね」
「僕のご飯があるの?」
「そりゃそうよ」「い…」今迄ご飯は、どうしてたのよ?
ミルセは、セルアルの不遇だった環境を鑑みて言葉を飲み込んだ。
聞かない方がいいと思ったから、嫌な記憶をわざわざ・・・
「セルアル何言ってんだよ」「それはお前の飯だぞ〜」
「当たり前だろ〜」「今までは無かったのか?」「なんつってな」
手下の一人が、気軽に吐いた言葉。
勿論、悪気が無いのは、この場に居る全員が分かっていた。
その問いに、セルアルは、顔色一つ変えず答えた。
「今まで」「って言うか、ご飯はずっと残り物だったから」
ミルセは顔を手で覆って、それを言った手下も口を手で押さえた。
「悪かった」「そんなつもりじゃ…」
「え?何が、悪かったの?」「それより、本当に食べていいの?」
「ああ」「残さずに、食べろよ」
「うん!」
セルアルがスプーンを、握りしめるとミルセが声を上げた。
「食べる前に、両手を合わせるんだ」
「これでいいの?」
「よし、私に続いて言うんだぞ」
セルアルは、コクッと頷いた。
「今日も、美味しい食事が頂ける事に感謝して、頂きます。」
手下達とセルアルが、ミルセに続いて復唱し終わると
セルアルがゴクリと唾を飲み込み、ミルセに視線を送った。
「ちゃんと噛んで、ゆっくり食べろよ」「そのご飯は、お前のだからね」
「誰も取らないから、安心しろ」
スプーンに山盛りのオカズを、口に突っ込んで、コクコク頷いた。
「ほいしぃ」「すごく、おいしいいい」
セルアルは、満足そうに頬張っていたが、並べられてる料理は
出来合いの物ばかりで、ここに居る殆どの者が、口には出さないが
『また、これか』『美味くねぇんだよな』と思うレベルの物。
それを、バクバクと美味しそうに平らげるセルアルを見た手下達は
思い出していた。自分達も、嘗ては美味しいと感じていた事
だけど、当たり前の様に用意されて、食べれるのが当然だと思い
食べる事が義務の様にさえ感じて、文句を言う様にさえなっていた。
何時の間にか、贅沢になっていたんだろうか…と
セルアルはお構いなしに一人、黙々と食べ続けていた。
パンを齧りスープをスプーンで救って、口に流し込んだ。
そして、次に肉をフォークで刺して、ムシャムシャと口の中を
一杯にしたセルアルの頬を、涙が流れ落ちていた。
「お」「おいセルアルどうしたの?」
流れ落ちた涙に、ミルセが慌てると、モシャモシャと
口を動かしゴクリと飲み込んだ。
「え?何が?」
「いや」「セルアル、お前泣いてるよ」
「あれ!?本当だ」「こんな美味しいご飯、食べたのが
初めてだったからかな〜?」「分かんないや」
「あ〜美味しかった〜」
「そうか、それは良かったよ」
「食べて終わったら、手を合わせてご馳走様でした」
「ご馳走様でした!」
セルアルは、手を合わせたままで、瞼が徐々に閉じていき
コクコクと首が前後に動くと、テーブルに突っ伏して
そのまま、眠りに就いた…
ミルセは、笑うのを堪えながら起こさない様に
声のトーンを下げた。
「おい」「誰かセルアルを運んでやってくれ」
「へ、へい」「分かりやした」
さっきの村で、魔物退治をして魔石がある程度集まったから
換金して暫くの間は、真っ当に生きるか。
ま〜明日になってから、考えるとしよう、眠くなってきたしね。
明日、明日〜。明日から〜。
「それじゃ〜お前らもゆっくり休めよ〜」
「へい」「姉さん」「お休みなさい」
「お〜お休み〜」
そして、明日に備えて英気を養うのだった。