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初めて見せた笑顔



  ミルセと十人の手下が 長いテーブルを挟んで

  向き合う形で座った。

  「あ、あの話って何でしょうか?」


  「ああ」「盗賊家業は、当分の間休止しようと思う」

  手下達の顔を一瞥して、誰もが驚く表情を見せない事に

  ミルセは、拍子抜けした。

  「お前達、驚かないんだね?」


  「いや〜カシラなら、そう言うだろうなって、思いましたので」

  「なあ」「お前達も、そうだよな?」

  「うんうん」

  「何となく、そう思ってた」


  「そうか」「すまないね」

  「それとセルアルの前で、カシラは禁止だからね!」


  「へ〜あいつの名前、セルアルって言うんですかい」


  「カシラ」「いつの間に名前で呼ぶ様に…」

  「あ!そうかそうか、さっきカシラが、キツ〜く抱き締めた時ですね!」


  「やかましいい!」「だからカシラはやめろ!」

  「盗賊家業なのが、バレるだろう!」


  「そ、そうですよね」「じゃあ姉さんでどうでしょう?」


  「ちょっと気になるが、まあそれでいいよ」

  「それにしても、腹減ったね〜」


  「簡単な物でよければ、直ぐに出来やすぜ!」


  「すまないが、頼めるか」

  「セルアルの奴も、腹空かしてるだろうしね」


  だけど、これで本当に良かったのか

  襲った村で偶然にも魔物と出会して、排除したのはいいが

  死にかけの子供まで、拾って来て挙句にずっと続けてきた

  盗賊家業を休止して、アイツらは本当に納得してるのかね。

  

  「カシ・・姉さんの考えは、正しいと思いますぜ」


  「うお」「驚かすんじゃないよ!」


  「すいやせん」「姉さんの事ですんで、オレ達の事も色々と

   考えてくれてたんじゃないかと思いましてね」

  「それに」「ここに居る俺達の殆どが、姉さんに拾われた身ですからね」

  「アイツらだって、分かってると思いますぜ」


  「そうか」「そう言ってくれると、助かるよ」


  「じゃ、じゃあそろそろ、セルアルでしたっけ?」

  「起こして来ますね」


  「頼む」「あ〜それと」「お前顔が怖いんだから、泣かすんじゃないよ」


  「酷ぇな〜」「大丈夫ですって、ほらこうやってニッコリ笑えば!」


  いや、余計に怖いよ。その微妙な笑顔・・・喉まで出かけたその言葉を

  ミルセは、ゴクリと飲み込んだ。


  


  暫くして、手下が一人で戻ってきた。

  「姉さんすいやせん」「セルアルの奴、お腹空いてないから大丈夫って

   ベッドから離れないんですよ」「無理矢理ってのもどうかと思いやして」


  まあ、そうだよな。コイツら厳つい顔の割には、子供苦手だもんな〜

  イヤ、違うか。セルアルと自分達の幼い頃を、重ねてるのかもな。

  両親に捨てられた奴や、両親を亡くした奴らばかりだからね。

  「いいよ」「私が連れて来る」


  「すいやせん」「お願いします」


  ミルセが、扉を開けるとセルアルが、両膝を抱えてベッドの上に座り

  部屋に入って来たミルセを、じっと見ていた。

  

  「セルアル」「腹は減って無いのかい?」


  セルアルがコクコクと首を縦に何度も振ると、お腹が「ギュルル〜」と

  見事な音を奏でた。


  「やっぱり腹、減ってんじゃないか」


  「へ 減ってないから、大丈夫」


  「イヤイヤ」「さっき、腹が鳴ってたじゃない」


  「さ、さっきのは、何時もだから」「減ってない」


  「どうして嘘を吐く」「嘘は泥棒の始まりだと、言うだろう」

  まぁ、盗賊の私が言うのも変だけどね!

  

  「だ、だって、お腹空いたって言ったら殴られるから」


  あ〜そうか。セルアルの今までの境遇がそうさせてるのか。

  あまりにも、不憫すぎる生い立ちが、その小さな体に染み付いて、

  それが未だに拭いきれず、辛すぎる過去の呪縛に囚われ続けている。

  『不平等』そんな言葉では片付けられない程に、残酷すぎる…

  

  ミルセが、ゆっくりと近付いて手をソッと差し出すと

  両手で、頭を抱えて震えながら、セルアルが何度も何度も謝り始めた。

  「ごめんなさい」「ごめんなさい」

  「お腹空いてないから、叩かないで」「お願いします」


  「セルアル」「さっきも言ったけど、大丈夫だから」

  「誰もお前に酷い事はしない」「大丈夫だから」

  「いいか」「お前は子供なんだから、我が儘を言ってもいいんだよ」

  「声に出さないと、伝わらないし、分からないんだ」

  「だから、安心して言葉にするといい」


  頭を撫でながら抱き締められたセルアルは、産まれて初めて知った。

  これが『温もり』なのかと…

  そして、ポロッと流れ落ちた涙は、次々に流れ落ちて

  ミルセの胸の中で、セルアルは声を上げて泣き始めた。



  そしてセルアルが、泣き止み落ち着くのを待ってから

  二人はキッチンに姿を見せた。


  「お」「やっときた〜もう待ちきれねえですよ〜」


  「あれ!セルアル」「ひょっとして、泣いてたのか!」

  「姉さんに、虐められたのか?」

  「酷ぇな〜姉さん」

  「セルアルが可哀想っすよ〜」


  「ば、馬鹿やろ!」「私が泣かす訳ないだろ!」

  「ほら、お前からも言ってやってくれ!」


  振り向いて、セルアルの顔を見たミルセは言葉を失った。


  それはセルアルが、初めて見せた笑顔で

  さっき迄、「死にたい」そう言ってたのが、嘘に思える程の

  屈託の無い、無垢な笑顔だったからである。

  

  「よ、よ〜し!セルアル飯にするぞ!」「腹、減っただろう!」

  

  今度は、大きく一つ頷くと『ギュルル〜』っと

  セルアルのお腹も、大きな返事をしたのだった。

  

  

  


  

  

  

  

  

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